表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が君を奏でる理由  作者: 七三八十(シチサンハット)
1/9

序章『いつだって、』

「サヨナラ人生、ゴメンナサイ。」


柊奏ヒイラギソウはそう言いながら、全体重を支えていた右手を、錆が少し目立つ白い鉄柵から離した。

出来るだけ、意識しないように。

出来るだけ、すがら無いように。


ふわっとした風が下から吹いてきて、背中を擦って、太股をなぞって、少しだけ膝の裏がこそばくて、ズボンの裾が慌ただしくはためいて、足首が心地よい。


随分とゆっくりとした時間の流れの中で、風が髪を巻き上げる。


揺れた髪の隙間から見えた空は、一面に広がっていて少しずつ離れている筈なのに、微塵ともそれを

感じさせない程雄大だ。



清々しい筈なのに、水色が滲む。

後悔なんて無い筈なのに、涙が溢れてくる。



「何もかもが嫌になったから、僕はこれを選んだんじゃないか」



なのに、


僕は、届く筈の無い空に手を伸ばした-----------------






------------------------光に透けて、ぼやけた僕の指の隙間から、5つの黒い点が現れた。


黒点はぐっと線を伸ばした。

と思えば直ぐに短くなって、手の甲に絡み付く。

何に縛られる事も無く、一瞬の余生を硬いコンクリートに向かっていた僕を突然覆った影と、掌に感じられる確かな温かさが

自殺を図り、仰向けに落ちる人に対して差し出された救いの手だと言う事に気が付いたのは直ぐだった。


しっかりと絡めた指の先、僕と空の間をを無数の線が酷く乱暴にかきむしってる様に見えた。


「長い・・・髪」


未だ風が立てる轟音が、救いの手は間に合わず、僕だけで無くもう1人犠牲者を出す結末になる事にも直ぐに気が付いた。


手遅れ、に直ぐに気が付いた。


なんて言葉遊びを数秒後には砕け散って無くなる(かも知れない)頭で反芻している矢先、

繋いだ僕の右手を横に押しのけて、彼女は僕に言ったのだった。



「いつだって-------------------・・・・・・・・・・・・・・・」



僕はそれを聞き取れなかったし、

彼女が僕の幼馴染のカナデだった事は解かったけど、




僕も、彼女も、死んだんだろう。


多分。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ