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尋問、それはとても怖いもの。2

 奴隷商売をするのにDNA記録の確認は欠かせない。

 そのDNA、つまり遺伝子情報には私達の体に関する設計図ぐらいしか中身がないが、役所等の公共組織に保存管理された個人記録には遺伝子情報やその他生体情報でその人が今までやってきた所業の数々がデータとなって閲覧できる仕組みになっている。病院に通った回数、ご近所迷惑で通報された詳細なデータ、万引きした回数やそのお店の名前などなど。自分自身の記録で一日は潰せるほどのボリュームが唾液から採取できるDNAで閲覧できるのだ。それで得た情報により奴隷にランク付けしていく。社会的影響力の高い人物と関係が有ったり、家が金持ちだったらその体に高い価値がつく。政治家の身内は殺して捨てる。

 そして、そのデータを読みたければわざわざ役所や図書館に行く必要はない。安いショップで買えるDNAスキャナーで読み込めば自身のPCで簡単に閲覧できてしまうのだ。その際には最も新鮮なDNAが必要だが、今この心配は要らない。何故なら、その本人は椅子に手足縛られて自由を奪われているから。ついでに言うと暴行も受けている。欲しい生体情報を採取するのにこれほど最適な環境はない。



「水無月……へぇ、お前ジャパニーズが。珍しい人種がやってきたもんだ、歓迎するよ」

「だったらお菓子とケーキ持って来てくださいよ、パンチってなんですか」

「嬉しいだろ? 大人に殴られるって経験、なかなかできないからもう一回してやるよ」


 また一発貰った。

 もう鼻血で服が汚れる心配をする気力も無い。


「ぐあ! ……い、痛いですっ」

「生きてる証拠だよ。水無月リン」

「生きて戻れたらあなた方を問答無用で訴えます! あなた方のお仕事のこと、あと私に対して行った暴行をです! ついでに今の私のこの状況は誘拐、監禁ですね。安く済んで終身刑ですよ覚えておいて下さい」


 尋問はプロポーズに似ている、とスパイの教官から教わった。

 どちらも綺麗に一発で仕事を終わらせたいからと聞いたときには目からうろこが落ちたものだ。

 もし、こちらが尋問を受ける立場になったなら相手のプロポーズをことごとくサイアクな結果にしてあげればいいとも教え込まれた。


「あとここ部屋が暗くて落ち着きません! それともっと明るくて、愛想がいい人を連れてきてください」

「なんで尋問された側のお前がオーダーするんだよ、馬鹿か」

「暗い部屋に怒った顔のおじさんが4人、おまけに暴力的なリポーター、これじゃまともなインタビューは出来ないですよっ」


 そして、自分のペースに持ち込むことも。

 教えられたことはとにかく全て実践してみた。でもやって見るたびに殴られるか蹴られたりされる。

 話が違うと思っても無駄。きっとプロにはプロなりのやり方ってものがあって私だから思ったようにいかないだけかもしれない。帰ったら報告書のついでに教官にコツでも教わってみよう。

 でもどうしたものか。こちらの手は出尽くした。もうアドリブで乗り切るしかないが、正直それから先のやり方がわからない。まだ習ってなかった。


「もういいアルピャス、この子もスパイの端くれだ。今までどおりの一般人と同じじゃ通用しないわ」


 暗闇の中から女の人が現れた。それも若い。そして綺麗で清楚な、男の人が好きそうな雰囲気を纏っていた。何故かものすごく場違いな人が来たような気がした。


「驚きました。お姉さん忍者ですか? あなたの存在に気付けませんでした。暗かったからでしょうか?」

「普通、君のような年の子供はオスでもそこまで平然といられないし軽口は叩けない。やっぱりスパイよね、私達への対応が違うわ」


 それで切られたら肉が裂けそうと思えるほど手入れされ伸びた指の爪を私の頬に当ててくる。背筋が震えて、一瞬強張った。


「だからスパイじゃないです私」

「ウソも大概にしないと、お姉さん君のほっぺに穴開けちゃうかもよ」

「そ、それは困りましたね。でも本当なんですってば」

「嘘つき」

「……ツ!?」


 右の頬を引っかかれた。その場所が鋭い痛みと熱でヒリヒリする。

 このままじゃ一生に傷になりそうだ、と私は落胆した。こういうとき、関係ないところの心配が出来るのが人の不思議なんだろう。

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