尋問、それはとても怖いもの。1
不思議なことに、この基地のダクトには不自然な矢印で埋め尽くされてあった。ペンや塗液を使わず、何かで引っかいたような矢印が無数に、けれど皆向きを同じく示しておりそれ以外へ進むと行き止まりや人の多い部屋の真上に続いていた。
おまけに物凄く暗い。コンタクトに内蔵された暗視機能がなければ今頃矢印を見失い奴隷ハンガーに回れ右していたことだろう。
しかし、この不気味な矢印マークは一体何処まで続くのやら。蛍光素材の腕時計はかれこれもう一時間は這っていることを知らせている。
「や、やめろお前! 俺は何も喋らんぞゴラ」
突然、私の進路上に男の声が響いてきた。しかもその声、かなり最近になって聞き覚えのあるものだ。
「やめろ、離せコノヤロー!」
声色から察するに何やらピンチな模様。急いで這って声のする所へ行くと初めての分岐点があり、その一方にはぐるんぐるん回るプロペラの先に明るい空間が見えた。
装飾も何もない簡素な部屋だ。ただ物凄く眩しいライトが4つ、椅子に縛られた男の周りに設置されギンギンに輝いていた。
そして、何故か周りには大量の犬。犬。犬。そしておばさん。
シュールと言う言葉が一番似合う不思議空間がそこにはあった。
うん? あ、あの男の人、シャトルで一緒だった人だ!
「さあ、お前を雇った組織の名前を言えば解放してあげる。吐きなさい」
「……おろろろ」
「下手な芝居はオヤメッ!」
もの凄い音を立てておばさんが取り出した鞭がしなった。
痛そうにうなる男。その顎におばさんの手が優しく伸びる。
「あなた雑よね、プロのスパイってわけでもないでしょ」
「ああ、フリーランスの雇われさ」
「あぁら~、それはお気の毒。あんま稼げてないんじゃない?」
「年収でカローラが買える程度には」
「そんなガラクタ中古車ぐらいしか貰えないなんて、可哀想。どこか専属になればトヨタのハイラックスが組めるほどには稼げるのに」
「お互い友達にはなれそうにないな。俺は質素な生活が好きなんだ、おたくとは真逆だよ」
「口が減らないボウヤだね。この鞭でもっと大人しく調教してあげる」
う、うわぁ~、私は今、とんでもないものを見ている気がしてならない。
ほうれい線の深いおば様が、私にとってお兄さんと呼べる程の年の男を甚振り弄んでいる……!
痛い。見ていて痛い。でも何故だろう、目が離れない。
「あ、そ~れ」ピシンッ!! 「あらよっと」パシンッ!! 「もういっちょ」パァンッ!!
「グファッ!!」ピシンッ!! 「ぬぅう!!」パシンッ!! 「があああ!!」パァンッ!!
嗚呼、なんて酷い。家畜を叩くはずの道具が人に向けられるとああも痛々しい光景になるのか。
しなった鞭の音が怖い。叩かれるたびに男の口から赤い体液が噴霧していく有様は、それはもう言葉に出来ない酷い景色だった。
「大人しく吐け!」
おばさんは鞭を置き、足元の子犬を持ち上げた。
「お、おい冗談だろ……それだけはヤメ」
「じゃあ、話す?」
「そいつも冗談かい?」
「ほい」
それは真に恐ろしいものだった。
可愛らしい犬を男の膝に乗せられるや、突然彼は内臓を食い破られるかのような絶叫を放った。
私は困惑を極め、目を放すべきか何が起きているのか見届けるべきか思案を尽くしてはいたものの、おばさんは間を置かず2匹目を実戦投入。その犬は彼の顔に置かれ、頭のパーツを全て隙間なくぺろぺろし始めたのだ。
「うわあああ、やめてくれえええええええ! それだけはやめてくれええええええええええ!」
「あははははは! ほーっほっほっほっほぃ!」
「ぎゃああああああああ! ぬぅうううううううううううう!」
あわわわわわ、これはホラーだ。こんな極悪非道な拷問、私なら耐えられない……! でもワンちゃんにはぺろぺろされたい……!
「どうだい、吐く気になったかい?」
「……おろろろろろ」
「ほら、もう1匹」
「ぎゃああああああああああああああああああああああ」
男さん、ごめんなさい……!
私があなたの分まで生きて立派なスパイになります……!
そのときは、その時は……! 必ず敵を討ちますので今はオサラバ……。




