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脱出。3

 アームズギアに乗っての実戦の仕方は流石にスパイでも習わない。軍用アームズギアの操縦性は民間と概念は同じだが武装コントロールに専門性が高く、膨大な知識とそれなりの経験が無いと弾丸1発撃つのもままならない位だ。だが、そんな悩める泥棒やマニアの為に開発されたのが音声入力装置であり、ご他聞に漏れず今乗ってる機体もそのシステムを標準搭載していた。技術ってすっごい便利。



「ま、まきびし散布っ!」


 悲鳴と同時にギアの太ももからアンチミサイルフレアが散布されたとモニターに表示が現れる。

 数秒後、背後からまばゆい閃光。そしてレーダーには衝撃波を知らせるノイズの波が検出された。

 凌げたのかな?


『いいぞリン。ミサイルは全て破壊した』

「私を撃ったのは誰!?」

『ちょっと待ってくれ。俺今操縦席に居るんだ。ここからじゃオペレーター席の画面が見えずらくてね。うーん』

「早くして!」

『はいはい、急ぐよ。……なんだ、そういうことか。リン、非常事態発生だ』

「は!?」

『3機のアームズギアと1隻の小型艦が急速接近中。驚いたね、こりゃ軍用のフリゲートだ』


 言ってる意味が理解できなかった。

 軍艦が何故私達を追いかけてきているんだ?

 『スラブコーポレーション』は私達の反対側にある。登録も無かった施設をまずは調査するのが順序じゃないのか?


「いや……まさかこれって」

『いい推測だ。スパイの基本スキルだな』


 まさかコーポレーションの機体? フリゲートも奴隷の売買で手に入れたのか。確かにそれぐらいの利益があった筈だ。

 まずい、このままじゃ追いつかれる……でも私、アームズギアでの実戦方法なんか教えてもらったこと無いよ。音声入力でどこまでやれるのかな。


{トリニティのネズミが! 私の人生ぶち壊しただけじゃ飽きないって言うのかいッ}

『何の声だ?』


 インカムがノイズ交じりの女声を出力し始めた。周波数を調整するも正しい端数が特定出来ない。何かしらのジャマーを作動させているんだろう。私達以外の何者にも聞かれない様に。


{私だ! 水無月リン、あんたは聞き覚えがあるでしょうッ}


 刹那、私の脳裏に半ば拷問だった尋問のときの記憶が蘇ってくる。

 そこに居た女の声にこいつはそっくりだ。


「……確か、カティとかって言いました?」

{覚えていてくれてありがとう。私の大事な男をよくも殺してくれたね。クソッタレの餓鬼じゃないか、ぶっ殺してあげるッ}

『男? 何か勘違いしているぞ、奴は俺がやった』


 レーダーに敵影が表示される。距離はたったの40km。どういう範囲設定してるんだ、もっと拡大していてよ!

 まずい、このレーダーの真ん中辺りに表示されてる白い線て推測だけど射程距離とかだよね? もう皆、入ってるよ。


{今、何て言った?}

『俺がやった。マドモワゼル。この鼻垂れのメス餓鬼は何もしちゃいないよ。両手が縛られてたから』

{お、おまえか……何、な、何、ヘラヘラ調子乗って言ってんのさッ}

『事実だ。なんなら君らのあの基地に戻って、奴の脳みそ引っこ抜いたあと記憶をスキャンするかい? 立ち会うけど』

{うわああああああああああ死に晒せえええええええええ!!}


 刹那、追いかけてくるシグナルのひとつから高熱減反応が検出された。

 まずい、とインカムに叫ぶ前に機体はオートで回避行動を取った。突然の機動に喉から声が出なくなる。激しいGだ。ただこの時、頭の中はパニックになっていてG制御装置の存在を忘れてた。

 敵機から発射されたのは恐ろらく速力の高い貫通型のミサイルだろう。私のすぐ横を過り、まっすぐマイケルの巡視船に突っ込んだ。衝突する間際にマキビシを撒いたのが見えたが1発も処理することなく全弾が船体にめり込んだのを見て私はとっさにマイケルの名前を叫んでいた。そして爆発。真っ赤なガスが破片と共に四散し、私の乗ったギアを激しく揺らす。巡視船がレーダーからロストするのも同じタイミングだった。


「嗚呼、嘘、マイケルさん! マイケルさんッ」


 機体体勢修正システムオンライン。

 爆発のショックで吹き飛ばされ、あらぬ方向に舞う私のアームズギアは健気にコロニー惑星に向けて再び進路を修正する。だがその機動は相手に隙を与えるのに十分すぎる時間を要した。

 コクピット内に響く衝突警報。同時にモニターいっぱいに黒いアームズギアが現れた。そいつの手に握られたミサイルランチャーが私のいるコクピットに押し付けられるのを、機体が警報で知らせてくれる。


{その機体は私達が人生ささげて稼いだ金で買ったやつだ、貴様らなんかに渡さないッ}


 インカムの声は、文字通り心の底からひねり出した復讐に燃える声色だった。スパイにとってこういう声は意外とよく耳にする機会が多い。私もよく教習で聞かされたりしたもんだ。ただ教習と違うのは、そいつらは尋問部屋でくくりつけられていた奴で、こいつは手枷も足枷も無い自由な体を持った奴だって事。何をしでかすか、私にはまだ分からない。

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