兄のために流した涙は、切ない恋の味がして…
お兄ちゃんが、怒りにくるった顔で私たちに近づいて来る。…あんなお兄ちゃんを私は、初めて見た。
「どうしたの、お兄ちゃん⁉︎」
私は、驚きを隠せなかった。
「どうしたの、じゃない‼︎この状況はどういうことなんだ⁉︎どうして凛は睡蓮に抱きついているんだ⁉︎睡蓮は…睡蓮は……嫁入り前の女なんだぞ‼︎傷でもついたらどうするんだ‼︎」
お兄ちゃんは、相当取り乱しているらしく、顔が真っ赤になっていた。
「どうもこうも、俺は睡蓮のことを助けだけど?俺が、睡蓮のことを助けなかったら、今頃睡蓮はこの小川にはまってべちゃべちゃになって、逆に傷が付いたかも知れないよ?」
凛は、堂々と言った。
「‼︎……俺はお前に聞いていない‼︎睡蓮に聞いているんだ。」
お兄ちゃんは、動揺しすぎて訳がわからなくなっているみたいだ。
「……凛は、私のことを助けてくれただけだよ?…別に他に何もされてないから大丈夫だよ。」
と私は言った。
「⁉︎……そうか……そうだよな…凛がそんなのことする訳無いよな。……お前は凛に抱きつかれてどうだった?嬉しかったか?」
お兄ちゃんはわけ分からない質問を私にしてきた。
「…なっ、何を言っているの?だから、凛には助けてもらっただけだって言っているじゃん。」
お兄ちゃんの質問の意味が私には理解出来なくて、つい口調がきつくなってしまった。
「……そうだよな。……俺は、何を言っているんだろう。…睡蓮だって年頃の女だもんな。恋ぐらいするよな。…兄がいちいち口出しする必要は無いよな。」
とブツブツ呟きながら、お兄ちゃんはその場を後にした。
「…変なお兄ちゃん。」
その日から私に対するお兄ちゃんの態度が急変した。…お兄ちゃんは私をわざと避けるようになった。最初の頃は、お兄ちゃんに話しかけたら、ある程度会話は出来たけど…最近は話しかけても、無視されるようになった。……お兄ちゃんのことが大好きな私にとってこんなことはつらかった。
「…好きな男の子に無視されるってこんなに辛いんだ…。…ううっ…」
私は、最近毎日、泣くようになった。1人では抱えきれなくて、私は凛に相談する事にした。凛には私がお兄ちゃんのことを、家族としてでなく、男の子として好きだということを前々から伝えていたため、いろいろと相談がしやすかった。夜になると私の部屋に来てもらっていろいろと話を聞いてもらうことにした。
「…そっか…お兄ちゃんに無視されるようになったのか…。…悪かった。俺のせいだ。」
といきなり凛は私に向かって頭を下げた。
「どうして、凛が私に謝るの⁉︎凛は何も悪いことしてないじゃない‼︎」
「…いや…多分俺のせいだ。あの時、俺はお前を助けるために一生懸命になりすぎた。お前のお兄ちゃんとしては、嫁入り前のお前が男と抱き合っているところを見られて、変な噂がたってはいけない、と思ったのだろう。…俺もうかつだった。許してくれ。」
「ううん…本当に凛のせいじゃないから…」
というと同時に私は泣き出してしまった。そんな私を凛はそっと抱きしめてくれた。
「うわぁぁぁぁ、…うううっ、うう。」
一度流れ出した涙は、全く止まることなく流れ続けた。その間、凛はずっと私のことを抱きしめ続けてくれた。お兄ちゃんのことを想って流した涙は今までにないほどしょっぱかった。