紅蘭という名の兄と睡蓮という名の妹
「おい⁉︎睡蓮起きろ〜。」
頭の上から、聞いたことのある声が降ってきた。
「……そうかぁ、起きないんだな。だったら小さい頃と同んなじようにして起こしてやる。」
私のおでこに柔らかい感触がした。
「⁉︎…ううう…お兄ちゃんやめてよ。私はもう子供じゃ無いんだよ‼︎」
私は、お兄ちゃんに赤くなった頬を見られないように両手で頬を隠しながら言った。
「そんなこと言ったって、起きない睡蓮が悪いだろ⁇」
お兄ちゃんはイタズラが成功したとばかりにまんべんの笑みを浮かべて言った。
「…私だって、もう年頃の女だよ!だからこんなことしないでよ。」
私は照れ隠しで言った。
「…そうか…じゃ睡蓮はもう大人の女性なんだな。…悪かった…ただ、昔みたいにはしゃぎたかっただけなんだ。…ははっ、何か寂しいなぁ、小さい頃は普通に抱きついたりしてたのになぁ。」
そんなこと言われたら、私止められなくなるよ?いいの?お兄ちゃんに恋してるって言っていいの?…そんな事は言えずに私は下を向いたまま黙っていた。
「…ごめん。何か困らせたようだね。本当にただ昔のようにしたいだけだったんだ。」
そう言って、お兄ちゃんは抱きついてきた。
「…‼︎おっ…お兄ちゃん⁈」
「…ごめんでもやっぱり寂しい。睡蓮がいづれこんな風に他の男と抱きつき合うのはなんか嫌なんだ。…お兄ちゃんとして俺は失格だな。こんな俺を許してくれ。」
お兄ちゃんは、震えていた。私は少しでもそれを止めてあげたくて、ぎゅっとお兄ちゃんに抱きついた。
「…睡蓮⁇」
「大丈夫だよ。多分、お兄ちゃんの方が先に結婚するから、そんな事は考えないで。私の事は考えちゃダメ。お兄ちゃんはいつもそう。私の事を考えてばかりで、自分の事はそっちのけなんだから。大丈夫、私困ったら、ちゃんとお兄ちゃんに相談するから。今は自分の事だけ考えて、早く病気を治して⁇」
…そんなお兄ちゃんだから私はいつの間にかお兄ちゃんに惹かれていたんだ。…でも、それは、絶対に許されない。どんなことがあっても。いずれ、私達は別々の道を歩むことになるから。だから、この想いは出来るだけ早くに消さなければならない。…そうじゃないと、別れの時がとても辛くなるから……。泣きたかった。ただ泣きたかった。どうしてこの人の妹に生まれなくてはいけなかったのか?この人の婚約者として生まれたかったと、今更ながらに思う。…私のこの思いは誰にも打ち明けられないまま、終わってしまうのだろうか?…それなら今ここでお兄ちゃんにつたえてしまおうか。そしたらどれほど楽なことだろう。…だけど、そんなことをしたらお兄ちゃんが困るだけ。私はこの人を見守り続けるしか無いのだろう。…それが、妹としての役目だから。