父の気持ち
「お兄ちゃん、行ってくるね。」
私は、今戦に行く私たちを見送りに来たお兄ちゃん達に挨拶をしている。
「気をつけるんだよ。絶対に無理をしてはいけないからね。」
お兄ちゃんが心配そうに言う。
「大丈夫だよ‼︎この日の為に今までお兄ちゃんや、父上に稽古をつけてもらったんだから。」
私は、お兄ちゃんを心配させないように言う。
「そうだけど…」
お兄ちゃんはまだ何か言いたそうだ。
「…そろそろ行くぞ。他の群が先に行って戦っているから、出来るだけ早く行こう。」
父上は少し急いでいるようだった。
「…じゃあ、行ってくるね。」
私はお兄ちゃんに大きく手を振ってから、馬を走らせた。
どのくらい走っただろうか、だんだん辺りが騒がしくなる。これは、戦場が近くなってきた、ということだ。森を抜けると、そこには、人と人が剣をぶつけ合っていた。もう何人かは動かなくなっていた。人の血の匂いが辺りに漂っていた。生まれて初めて見るこの光景は、とても恐ろしいものだ。
「…睡蓮、仮面をつけなさい。」
父上が戦に出る前にくれた仮面を顔につける。…ここに来て、私は少し震えていた。戦場がこんなものとは思ってもいなかった。
「ここまで来たからには、後戻りは出来ないぞ。」
父上が私の状況を見てか、そう言った。
「…分かっています。」
私は、自分に言い聞かせるように言った。
「…では、取り敢えず、我が国の本軍に向かおう。」
父上は、また馬を走らせた。後に、私達も続く。
本軍に行くと、兵士が1人やって来た。
「王、報告します。今、神の軍は少し不利な立場に有りますゆえ、援軍を送って欲しいと、昇進様が申しております。」
昇進将軍は、敵陣に斬り込んで行く位置にいる人だ。だから、相当強い人で有名だ。そんな人が援軍を求めるなんて…。
「分かっている。…睡蓮、早速で悪いが昇進の援軍に行ってくれないか?お前なら、昇進のように敵陣に斬り込んで行けるだろう。」
父上は、行ってくれなければ困ると言う様に私に言った。
「…もちろんでございます。今出せる力を存分に出させて頂きます。」
覚悟はしていたけど、こんなに早く戦場に向かうとは思ってもいなかった。
「そうか。では、行って来てくれ。」
「お待ちください‼︎兵士を何人連れて行くのかをまだもうされておりませんよ。」
将軍の1人が言った。
「…必要ない。睡蓮1人でいかせる。反対したものは、許さん。」
父上が険しい顔で言った。正直、私1人だけで行くなんて、死にに行けとでも言うかのようだ。父上は、私の事が嫌いになったのかもしれない。戦をあまり知らない女の私が、容易に戦場に行くなんて言ってしまったから、私を、何もわかっていない小娘が何を偉そうに言っている、とでも思ったのだろうか。私は、父上の力になりたいだけなのに…。
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睡蓮が少し、寂しそうな顔をして、本軍を出て行った。私だって本当は、可愛いたった1人の娘を戦場に1人で行かせる事はしたくなかった。だが、戦場に来たからには、それなりの覚悟が出来ているはずだ。あの子は、自分ではまだ気づいていないが、経験を積めばとても強い将軍になる。それは、勘でもなければ、親バカだからという訳でも無い。1人の将軍として、私はあの子を見ている。初めてで何も分からないかも知れないが、私は、お前に期待しているからこそあえて試練を与えたのだ。分かってくれ、睡蓮。
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