練習
「はあっ‼︎」
今私は、お兄ちゃんと一緒に武道の稽古をしている。…正確に言うと、してもらっているだが…。
「さっきも言っただろう睡蓮‼︎そこは、こうやって持つんだ。」
いつもは優しいお兄ちゃんだが、稽古の時はとても怖い。でも、それだけ私にいろいろな事を教えてくれようとしているということなのかもしれない。私は、お兄ちゃんと父上の期待に応えられるように頑張ろうと改めて決心した。
「…疲れたのか、睡蓮。少し休憩するか?」
突然、お兄ちゃんが優しい顔になった。
「どうして?全然大丈夫だよ‼︎」
正直言ったら、疲れた。でも、あともうちょっとで戦なのに今休んでしまって大丈夫な訳が無い。それに、今の私の実力では到底戦に出ることなんて出来ない。
「嘘つけ、本当は疲れているんだろ?睡蓮は、頑張り屋さんだからなぁ。口には出さない。お兄ちゃんは全部お見通しだぞ?」
そう言ってお兄ちゃんは私の頭にぽんっ、と手を置いた。ドキッ、と私の胸が熱くなる。ダメなのに、分かっているけどやっぱり止められない。
「…早くお兄ちゃんから卒業しなきゃ…」
私はお兄ちゃん聞こえないように呟いた。
一週間後ーー
「エイッ!」
私は、最近お兄ちゃんに武道で勝てるようになった。今日は父上が見に来ている。父上の狙いはよく分からないが、私はいつも通りお兄ちゃんに勝った。
「…睡蓮、今度は私と勝負しよう。」
父上が急に言い出した。
「えっ…父上とは流石にちょっと…」
私は驚きのあまり言葉が出なかった。
「戦場には、私よりも強い者がたくさんいるかもしれないのだぞ⁉︎今のうちからしっかり稽古をつけなくてどうする⁉︎私の娘とはいえ、容赦はしないからな。」
父上は私に選択権はないとでも言うように、剣を抜いた。そして、いきなり私に攻撃をしかけて来た。
「…‼︎」
父上はとても強かった。剣をはらってもはらっても、どんどんついてくる。私は、逃げ場がなくなりだしたので、守備から攻撃にはいった。気がつけば、勝負はついていた。私の剣が父上の喉元に向いていた。
「…睡蓮、お前はこれからが楽しみになりそうだ。」
父上はそれだけ言って、その場を後にした。
「睡蓮‼︎良かったな。父上に褒められて‼︎」
お兄ちゃんが駆け寄ってきた。
「褒められた?父上が私を褒めてくれる時は、もうちょっと優しい顔で言ってくれるのに…。」
私はさっきの父上を思い浮かべながら言った。
「戦っている時の父上の褒め方はああいう感じだよ。真剣になりすぎてああいう感じになってしまうのだと思うよ。」
とお兄ちゃんは笑いながら言った。
「報告します。明日の朝に戦に行けるよう準備して下さいとの事。」
使いの者が走ってきた。
「え……そんな、急な話。それって本当なの⁇」
「はい。」
「仕方ないよ。戦ってもんは、向こうの都合もあるし。……いよいよだね。」
お兄ちゃんは緊張した声で言った。
「頑張らなくちゃ!」
私は気合を入れた。
「あまり、興奮したらダメだよ。自分を見失うからね。」
お兄ちゃんの言葉は、今の私には理解する事が出来なかった。