いと尊し5
――――およそ七年前、都市国家オルジュにて。
「いやっ!! お母さん、助けて! お母さん!!」
少女が手を伸ばす。母親に向かって。泣き叫びながら。
「シェリア! シェリア! どうか、どうかあの子だけは!! わたしはどうなってもかまいませんから!!」
母親が手を伸ばす。我が子に向かって。悲痛な声を上げながら。
だがしかし。二人の手が繋がることはなかった。それどころか二人の手の距離は徐々に広がっていく。強制的に、強引に、引き離されているのだ。二人を囲む屈強な男たちによって。
「借金返していただけるなら、我々もこんなことはしなくて済むんですけどねぇ」
眼鏡をかけた細身の男が、手元の書類に目を通しながらそっけなくそう言う。その表情や口調に下品なところはなく、淡々としていてむしろ寒々しい。何度も同じような事案を処理して、もう慣れきってしまっている者の態度だった。
「お金は! お金は必ず返しますから!! だから……!!」
「いつ?」
必死に懇願する母親に、眼鏡をかけた男は書類から視線を上げてそう問いかける。彼の眼には弱者をいたぶるような嗜虐的なところはない。その代わり、乾燥しきって同情など欠片もしていないことがありありと見て取れる。
「それは……っ!!」
母親が言葉に詰まる。お金を用立てるアテがまったくないことは明らかだ。というよりも、アテがないからこそこのような状況になっているのだろう。
男も、そんなことは重々承知している。それでもなお、彼は淡々と言葉を続けた。母親の心を折るために。
「全てでなくとも結構です。一部だけでも返していただければ、この場は収める事ができるのですが……」
この場を切り抜けるための妥協案、らしきもの。しかし無理であることは重々承知の上。当たり前だ。このような強硬手段に出る前に男はこの家の経済状況を徹底的に調べ上げている。そして一部だけでも借金を返せる金がないからこそ、このような強硬手段に出ているのだ。
「…………っ!」
「お母さん!! 助けて、お母さん!!」
妥協案にものることが出来ず、心折れてうなだれる母親。そんな母を呼ぶ少女の声が悲しく響く。
「連れて行ってください」
眼鏡をかけた男はうつむく母親から書類に視線を戻し、完全に事務的な口調で男たちにそう命じた。再び母子の距離が離れ始め、二人がそれぞれ別の馬車に乗せられそうになった、まさにその時。
「ま、待ってくれ!! 金! 金ならここにある!!」
野次馬の中から男が一人、そう叫び足をもつれさせながら前に出てきた。
シェリア・オクスが、まだシェリア・ガームドと呼ばれていた頃の話である。
▽▲▽▲▽▲▽
シェリアの実の父親は、名前をジノサ・ガームドという。これがまた典型的な駄目男で、酒に女に博打にと稼ぎもしないくせに浪費を続け、借金ばかりをせっせとこしらえていった。
外に出れば常にオドオドとしていてみっともなく、卑下た笑みを貼り付けながらコソコソと動き回る。逆に家にいるときは尊大で、大声で怒鳴り散らし気に入らなければ母やシェリアに容赦なく暴力を振るった。
特に、幼いシェリアにとってその環境は劣悪だった。父親とは母と自分に暴力を振るう理不尽の象徴であり、そのため家にいるときはいつも息を殺しビクビクと怯えながら生活していた。父の代わりに働く母はいつも疲れた様子で、無理をしていることは子供の目にもよく分かった。
笑うかわりに泣き、褒められるのではなく怒鳴られ、優しく抱きしめてもらうはずなのに殴られた。
『世界で一番嫌いなのは、父親』
本気でそう思ってしまう生活だった。
実際のところ、ジサノ・ガームドは初めからこのような人間だったわけではない。彼は普通の人間だった。都市国家オルジュにおいて平均的な家庭に育ち、平均的な能力を持ち、普通に行けば人並みの幸せを得て人生を送るはずだった。
そんな彼を転落させたのは、友人が持ってきた投資話だった。その友人が持ってきた話を理解するためには、少しオルジュという都市国家の背景を知る必要がある。
都市国家オルジュには迷宮がある。そして隣の都市国家には迷宮がない。必然的にオルジュは都市国家二つ分の鉱物資源と魔石を供給する形になる。この際、供給量が足りているかどうかは問題ではない。足りていようがいまいが、そういう役回りになるのだ。
そして現実のところは、常に需要過多であった。つまり、迷宮から得られるものは常に高値で売れるといっていい。
ただし、そちらの権益は大きな商会などでガチガチに固められており、新参者が割って入るのは難しい。ジノサの友人が持ってきた投資話も、そちらの分野に関することではない。
ジノサの友人が持ってきた投資話は、簡単に言えば「食料の輸入」だ。
オルジュは人口に対するハンターの割合が高い。稼げるのだから志す人間が多いという理由もあるし、また隣の都市から出稼ぎ的にやってくるハンターもいるのだ。それに加え、鍛冶屋など迷宮から得られる資源を加工する職人も多く、それに圧される形で農業に従事する人の割合は低くなっていた。もっとも、これには「農地が限られている」という根源的な問題も絡んでくるのだが、それはともかくとして。
そのため、オルジュの人口はこの都市の食料の供給力を上回っている。つまり外から食料を輸入しない限り、この都市国家は立ち行かないのだ。幸いにも、お隣は広大な穀倉地帯を有する農業都市。自然な流れとして、鉱物資源や魔石を輸出する代わりに、麦などの食料を輸入する、というのがオルジュとお隣の関係になった。
さて、その食料の輸入である。ジノサの友人の目の付け所は良かった、というべきであろう。ドロップアイテムの取引に比べれば利ザヤは薄いが、しかし食料は常に必要なもの。価格の変動も小さく、利益の計算がしやすい商売だった。
ジノサもそういうふうに友人から説明をされた。そして納得したからこそ、お金を出したのだ。
ただ一つ誤算があったとすれば、それはその友人が護衛代をケチったと言うことだ。
都市間の移動には危険が付きまとう。魔獣の危険、盗賊の危険、悪天候の危険。どれだけ往来が盛んであっても、それらの危険は決してなくならない。だからこそ、都市間の貿易を行う商人たちは自分たちの隊商に護衛としてハンターをつける。しかしハンターを雇うお金というのは、決して安くない。
結論から言えば、ジノサの友人はこのお金をケチった。確かにこの分を節約できれば利ザヤは一気に増える。彼らがこの後どのような展望を抱いていたのかは分からないが、金儲けを夢見るのは人の常、ということなのだろう。
だが、そう上手くいかないのが世の常。「大丈夫だから」と自信満々にオルジュを旅立ったジノサの友人が故郷に帰ってくることはなかった。行きは別の隊商と一緒にいくことができ、彼らの話では隣の都市についてから別れたとのことなので、帰りに魔獣にでも襲われたのかもしれない。
さて、仕入れに行った友人が帰ってこなければ、当然儲け話は丸つぶれである。出資していたジノサは、その分のお金を全て失うことになった。その総額は、全財産といってもいい額であった。
そして、ここから彼の人生は転落を始めることになる。
『また一からやり直せばいいじゃない』
ジノサの妻、つまりシェリアの母親であるミーナはそう言って夫を励ましたが、結局彼が再起を果たすことはなかった。
酒に女に賭博に。麻薬に手を出さなかったのは、あるいは彼のなけなしの良心だったのかもしれない。
そして最後には博打で得たお金を巡るトラブルで殺された。どうやら悪い仲間と付き合っていたらしい。
後に残されたのは、母子二人とジノサがこしらえた多額の借金。
オルジュにおいて、借金の返済が不可能と判断された場合、債務人やその家族を奴隷に落として一部でも借金を回収すると言うのは合法だった。もっともかなり縛りがきつく、大抵の場合ここまで事態が悪化することはあまりないのだが……。
悪いことに、ミーナとシェリアの場合は事態がここまで進んでしまった。そして事態がここまで進んでしまえば、もうどうしようもない。二人は奴隷となり惨めな人生を歩む、はずだった。
『ま、待ってくれ!! 金! 金ならここにある!!』
そんな時に颯爽と現れた救世主。彼の名は、パウエル・オクスといった。
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「なぜ、助けてくださったのですか?」
娘のシェリアを寝かしつけた後、パウエルと名乗った男と差し向かいに座ったミーナは、まず助けてくれたことへの礼を述べてから、次にその理由を尋ねた。ミーナとパウエルに面識はなく、まったくの初対面である。そんな人間を、しかも多額の金を払ってまで助けるからには、やはり相応の理由があるべきである。
しかしその理由に、ミーナの側はまったく心当たりがない。それゆえ、今の状況は彼女にとってありがたくはあったが同時に不気味でもあった。
(もしかしたら……)
もしかしたら、自分の身体が目的なのかもしれない。なんとか思いつく理由はそれくらいしかない。
求められれば、応じるつもりではいる。しかし自分の女としての価値を、ミーナはそれほど高く見積もってはいなかった。花街に行けば自分よりも綺麗な女がいくらでも遊んでくれるだろう。金を持っているのであればなおのこと、だ。
「……ただの、自己満足ですよ」
数瞬の沈黙の後、困ったように苦笑を浮かべながらパウエルはそう答えた。当然その理由はミーナにとって納得できるものではない。しかしどれだけ聞いてもパウエルはそれ以上のことを答えようとはしなかった。
「この件で恩着せて、なにか要求しようというつもりはありませんよ」
そういわれてしまえば、助けてもらった手前、ミーナがそれ以上追求することは出来なかった。
「……ああでも、できればしばらく居候させてもらえませんか。……その、出来ればタダで」
情けないことに無一文なもので、とパウエルは苦笑を浮かべ、それを見たミーナも思わず笑ってしまった。
その後、パウエルは居候させてもらったミーナの家を拠点にして仕事を探し、やがて働き始めた。ここ一、二年都市間を巡るキャラバン隊にいたらしく、その経歴を買われて隣の都市と交易を行っている商会に雇われたのだ。
その商会が取り扱っていたのは、主に小麦などの食料品。彼の仕事は実際に隣の都市まで赴いて商談と買い付けを行い、それをオルジュに輸入することだった。そのなかにはもちろん、輸送に使う馬車や護衛の手配と言った仕事も含まれている。
商会のなかで最もきつい仕事と言っても過言ではないだろう。さらにオルジュと隣の都市を往復しようと思えば、それだけで一ヶ月以上の時間がかかる。その時間のほとんどを野外で過ごすことになり、つまりきついだけでなく危険な仕事でもあった。実際、ジノサの友人はそれで命を落としたのだから。
それでもパウエルは身を粉にして働いた。隊商が魔獣に襲われたときなどは、武芸者でもないのに槍を振り回して馬車と積荷を守った。献身的に働くパウエルはやがて周りの信頼を勝ち取るようになり、高い評価を受けて大きな仕事も任されるようになったのだが、それでも彼は這い蹲るようにして働き続けた。その姿はまるで、なにかに懺悔しているようですらあった。
働き始め、その働きに応じた収入を得るようになっても、パウエルはミーナとシェリアの家に居候を続けていた。もっとも彼の場合、オルジュにいないことの方が多い。時折帰ってきて宿代わりに使う。それが表現としては正しいかもしれない。
ただ、その代価としてパウエルが払っていたお金の額は、決して“宿代わり”の範疇に収まるものではなかった。彼は自分で得た収入のほとんどを居候の代価としてミーナに渡していたのである。
当然、ミーナだって最初は断った。あまりに法外だと。これなら自分で家を借りたほうがずっと安いと言いもした。
「いいんです。これも、ただの自己満足ですから」
だが、最終的にもそういうパウエルに押し切られてお金を受け取った。ジノサが残した借金はまだ残っており、もしも返済が滞ればミーナとシェリアは奴隷に落とされてしまうかもしれないのだ。ミーナも働いてはいたが、その収入は母子二人が生きていくのに最低限のものでしかない。借金返済のためにもそのお金はどうしても必要だった。
そんな生活を一年ほど続けたある日のこと、ミーナはついにパウエルに結婚を申し込んだ。決して打算がなかったとは言わない。借金返済のためにパウエルの収入をアテにしていたのは事実だし、そもそもこの一年、彼の善意に頼りきって生きてきたようなものなのだ。
だがそれでも、ミーナがパウエルに心惹かれていたのは事実だ。なによりシェリアが彼になついていた。ジノサが生きていた頃はほとんど笑うことのない少女だったが、ここ最近は笑顔を良く見せてくれるようになっていた。貧しいながらも、ようやく希望を見出せるようになってきたのだ。
彼とならシェリルも一緒にこの先の人生を歩んで行ける。そう考えての結婚の申し入れだった。
しかし、パウエルは首を横に振る。
「私はね、ミーナさん。最低の人間なんです。そんなふうに言ってもらえるような、そんな資格なんてないんですよ……」
動揺し「なぜですか!?」と問いかけるミーナに対し、パウエルは搾り出すようにそう答えた。そしてオルジュに流れ着くまでのことを、とつとつと話し始める。
もともとはヴェミスという都市国家にいたこと。
結婚はしていたが妻は早くに亡くなり、息子と二人で生活していたこと。
店を構えて商売をしていたこと。
その商売が上手くいかず、資金繰りに困って裏社会からお金を借りてしまったこと。
「……借金に借金が重なりとうとう首が回らなくなった私は、夜逃げしたんです。……たった一人の、自分の息子さえ捨てて!」
悲痛な声でパウエルはそう告白した。
「……しかも私はね、夜逃げするときに店に残っていたお金を持ち出してきたんです。100万くらいだったかな……? もちろん、借金の返済にはぜんぜん足りませんでしたけどね……」
冷静に考えて、たった100万シク程度で借金がどうにかなったとは思えない。しかしそのお金を持ち出さず残しておけば、捨ててきてしまった息子の未来は多少なりとも変わっていたかもしれない。そう思うとパウエルは自分の浅ましさが情けなくて憎らしくて仕方がなかった。
「息子さん、名前はなんて言うんですか……?」
「ルクトです。ルクト・オクス。あの時は、まだ十歳だった……」
苦いものを噛締めるようにしてパウエルはそう言った。十歳と言えば今のシェリアと同じ歳である。母親としてミーナの中に複雑な感情が生まれた。
「あの……、その子は……?」
そう問い掛けるミーナに対し、パウエルは黙ってただ首を力なく振った。分からないのではなく、口にするのが憚られるのだ。
パウエルが金を借りていたのは、真っ当なところではない。法外な利息を取り、時として違法で暴力的な取立てを行う裏社会の金貸しだ。商売をしていたせいか、関わりはなかったにせよ裏社会のあれこれはパウエルも知っている。そのため自分が置き去りにして来た息子のルクトが、その後どんな目に遭ったのかある程度予想できてしまう。
(裏ルートで奴隷商に売り払われて…………)
あるいはもう、生きていないかもしれない。生きていたとしても、きっと絶望の中にいることだろう。そんな救いようのない話を、わざわざミーナに聞かせる必要はない。パウエルはそう思った。
「……ヴェミスから逃げた私は、運よくキャラバン隊に拾われました。もともと商売をやっていましたからね、そこに身を寄せてオルジュまで流れ着いた、ということです」
そしてオルジュで、ミーナとシェリアの親子が今まさに奴隷に落とされようとしている場面に遭遇する。そして泣き叫んで母を呼ぶシェリアの姿に、どうしようもなく息子の姿が重なったのだ。
ルクトもああやって泣き叫んで自分を呼んだのだろうか。そう考えたら、頭の中が真っ白になった。
「……気がつけば、飛び出していました」
支払った金は、夜逃げするときに持ち出した分とキャラバン隊で稼いだ分だ。酒を止め、遊びもしないで働いていたら、いつの間にか貯まっていたお金である。
「贖罪、だったんですか……?」
「まさか。言ったでしょう? ただの自己満足だ、と」
ミーナの問い掛けに、パウエルは自嘲気味にそう答えた。
贖罪とは本来、被害者本人にすべきものである。だからこの場合、パウエルが贖罪すべきなのは置き去りにして来た息子のルクトだ。その姿を重ねていたとはいえ、ミーナとシェリアの親子を助けたところでルクトが救済されるわけではない。贖罪という観点から見れば、二人を助けたことは全くの無意味だ。
ゆえに、ただの自己満足。
「私はきっと、自分が楽になりたかっただけなんだと思います」
息子を置き去りにしてきたという罪悪感は、今にいたるまでずっとパウエルを苛み苦しめ続けている。そこから少しでも楽になりたかった。
「今、ミーナさんの借金の返済を手伝っているのだって同じです。お二人を救いたいわけじゃない。シェリアちゃんにルクトを重ねて、あの子を助けたつもりになっているだけ。……私は、自分が救われたいだけなんです」
自虐的にそういうパウエル。その姿を見て、ミーナはとても痛々しく感じた。救われたいと言いつつ、彼は何よりも罰せられることを望んでいる。そう感じた。
もちろん、パウエルの話はミーナにとって衝撃的だった。とくに当時まだ十歳だった子供を捨てて逃げてきたと言うのは、同じ年頃の子供を抱える母として決して許すことはできない。
だが同時に、その話を聞いてなお、ミーナはパウエルのことを嫌いになったり軽蔑したりはできなかった。彼女自身、何もかも捨てて逃げ出したいと思ったことは一度や二度ではない。ジノサがもう少し長く生きていたら、子供を捨てて逃げていたのは自分だったかもしれないのだ。
「……わたしたちを助けたことが、たとえあなたにとって自己満足だったとしても。その自己満足のおかげで、わたしたちは救われました。そして今も救われています」
その事はたとえあなたであっても否定させません、とミーナは言葉に力を込めた。そしてさらに言葉を続ける。
「わたしはパウエルさんとなら、わたしもシェリアも幸せになれると思いました。……わたしたちを、幸せにしてくれませんか……?」
パウエルは驚いたようにミーナを見つめた。あの話をすればきっと失望して軽蔑されるだろうと思っていた。しかしそれでもなお、ミーナは彼と共にこの先の人生を歩みたいと言う。
「……無理ですよ。私のような男には、お二人を幸せにする力も資格もありません」
しかしパウエルはそう言ってやはり首を横に振った。それを見たミーナは「……わかりました」と言って立ち上がった。それを聞いてパウエルは、ほっとしたような、しかし同時に少し寂しそうな顔をした。
「でもわたし、諦めませんから」
最後に、それだけ宣言しておく。それを聞いて唖然とした顔をするパウエルを残し、ミーナはシェリアの眠る寝室に引き上げていった。ほんの少しだけほくそ笑みながら。
このおよそ一年後、パウエルはついにミーナに押し切られて彼女と結婚する。一年断り続け、しかし心のどこかでその話に惹かれていたことは、彼がこの家で居候を続けていたことからも明らかである。
ちなみに、最後の殺し文句はこうだったそうだ。
「わたしたちを助けることが自分のためだというのならそれでもかまいません。ですがそのせいでわたしたちは希望を持ってしまったんです。希望の責任を、取ってください」
こうして十一歳の秋、シェリア・ガームドはシェリア・オクスになった。
とりあえずここまでです。
続きは気長にお待ちください。