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403 シングル・ルーム  作者: 新月 乙夜
第六話 夏休み金策事情
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夏休み金策事情4

お気に入り登録件数が3800件を突破しました。


読んでくださる皆様に感謝です! これからもよろしくお願いします。

 カデルハイト商会での荷物運びのバイトが終わると、ルクトの次なる金策は言うまでもなく合同遠征である。これまで合同遠征は講義などを考慮して隔週でだいたい月に二回程度しかできなかったが、夏休みに入った今学園の予定を考える必要はない。休みの間は毎週行う予定だった。もちろん、来月になったらカデルハイト商会のバイトのために一週空けてもらうことになるが。


 とはいえ、バイトが終わった次の日から合同遠征が始まる、というわけではなかった。最初の合同遠征まで、後四日ほど時間がある。そしてその四日間、ルクトは日帰りで迷宮(ダンジョン)に潜るつもりでいた。


 その理由は、避暑である。


 今は夏休みだ。つまり「夏」である。言うまでもなく夏は暑い。じっとしていても汗ばんでくるほどだ。


 それに比べ、迷宮の中は涼しい。迷宮の中の環境は、季節や時間帯を問わずに一定であり、その気温は常に十五度前後に保たれている。涼しいどころか、夏の装いでいれば寒いくらいだ。


 攻略のためではなく避暑のためというのはいかにも不純な動機だが、あの環境を知っている身としてはこの暑い中部屋でじっとしているなど馬鹿らしくて仕方がない。ましてルクトの場合、〈プライベート・ルーム〉に篭っていれば部屋にいるのとほぼ同じである。どうせなら涼しい場所にいたいと思うのは、むしろ当然のことであろう。


 ただ、完全に避暑のために行くわけでもない。迷宮に行くのであればそれなりに金を稼ぐべき、というのが苦学生のモットーだ。


 そのモットーに従い、合同遠征までのあいだルクトは「炊き出し屋」の真似事をするつもりでいた。つまり、四階層のベースキャンプに食べ物などを持っていって売りさばき、小遣いを稼ぐつもりなのだ。それに加えて、一度採取ポイントである五階層の地底湖にも行こうと思っている。最近行っていなかったからちょうどいい。


 そんなふうにして迷宮に潜っていた二日目、夕方になって寮の自室である403号室に戻ってきたルクトは、部屋の前で友人であるロイニクス・ハーバンの姿を見つけた。どうやら彼が帰ってくるのを待っていたらしい。


「ルクト。ちょっと話があるんだけど、いいかな……?」


 歯切れの悪いその言葉にルクトは「珍しい」と思った。亜麻色の髪の毛をしたこの青年は、対外的にはいつも優しげな笑みを浮かべた好青年である。しかしながら実際には結構な腹黒で、その舌鋒はなかなかに鋭く遠慮がない。


 そんな彼が珍しく苦笑を浮かべて言いにくそうな顔をしている。


(さて、なにかあったのか?)


 そう考えるのが妥当であろう。ただ、ロイに切羽詰った様子はない。話を聞いて色々考える時間くらいはありそうである。


「夕飯食べながらでいいか?」


「ああ。助かるよ」


 ロイが少しだけほっとした顔をする。そして「先に行ってるね」と言ってから廊下を階段のほうへ向かう。その姿が見えなくなるまでルクトはロイの後姿を見送った。


「どうしたんだか」


 そんなことを呟きながら、ルクトは部屋の鍵を開けて中に入った。それからハーフパンツと半袖のシャツというラフな格好に着替える。脱いだ服は洗濯だ。指定された袋に入れて寮の回収ボックスに入れるのだが、まあ後でいいだろう。


 部屋を出たルクトは、鍵をかけてから一階の食堂へ向かう。夏休みに入って故郷の都市に帰省した学生も多いため、寮の食堂は閑散としていた。いつもは三種類の中から選べるメニューも、夏休み間は一つしかない。


 すでに用意されていた、料理の載ったトレイを持ちルクトはロイの姿を探した。さして人の多くない食堂。わざわざ手を振っている友人の姿を見つけるのは簡単だった。


「テミスとソルは?」


 ロイの正面に座り料理を食べ始めると、ルクトはまずそんなことを聞いた。ロイのパーティーメンバーでもある二人は留学生だ。


「ルクトがオーフェルに行っている間に故郷に帰ったよ」


 ロイの返事を聞き、ルクトは「そっか」とだけ応えた。もっとも、ソルの場合は厳密に言えば里帰りではない。彼の父は都市から都市を行き巡るキャラバン隊の護衛をしていた武芸者だ。ソル自身、カーラルヒスに来る前はキャラバン隊と一緒に旅から旅への生活をしていて、それゆえどこかの都市が故郷というわけではないのだ。今回は父親のいるキャラバン隊が近くの都市まで来るということなので、そこで落ち合うらしい。


「お前は帰らないのか?」


 ルクトがロイに尋ねる。ロイもまた留学生だ。しかし彼は肩をすくめて首を横に振った。


「片道で一ヶ月以上かかるからね。帰省したら新学期に間に合わない」


 六年間は帰らないんじゃないのかな、とロイはどこか他人事のように言う。きっと、ノートルベル学園に留学すると決めたときからすでにそのつもりだったに違いない。そして今寮に残っている学生は、もしかしたらみんな同じような事情を抱えているのかもしれない。


「イヴァンとルーシェは?」


 ルクトはさらに、残りのメンバーについても尋ねる。この二人は地元カーラルヒスの出身である。


「イヴァンは通ってる道場に入り浸って腕を磨くってさ」


 迷宮攻略もそっちのメンバーと行くって言ってたよ、とロイは答える。


「ルーシェは……、聞かなかったな。まあ、ご家族と過ごすんじゃない?」


 それを聞いたルクトは、やはり「そっか」とだけ応えた。どの道テミスとソルがいないのでは、いつものメンバーで遠征はできない。まあ、二人とも勝手にやるのだろう。


「それで、話ってなんだ?」


 料理を半分ほど平らげた頃、ルクトはおもむろに本題に入る。ロイは苦笑を見せて「ああ、うん……」と少し言いよどんだ後、諦めたように一つため息を付き思いがけず真剣な目をルクトに向けた。


「実は……、夏休みの間だけでいいんだ。僕と後二人と、パーティーを組んでくれないかな、と思ってさ」


 それを聞いてルクトは反射的に眉をひそめた。不快だったから、ではない。パーティーを組む、というのは彼にとってなかなか微妙な問題なのだ。


「ああ、ちょっと待って。ちゃんと説明するよ」


 ルクトの反応を見たロイは少し慌てたようにそう言葉を続けた。もともと「説明しろ」と言うつもりだったルクトにも否やはなく、彼は一つ頷き無言で続きを促す。


 どっから話したもんかな……、とロイは少し悩みそれから口を開いた。


「ルクトは、〈レイシン流〉って知ってる?」


「知らん」


 ルクトが即答すると、ロイは「だろうね」と苦笑を浮かべた。レイシン流とはロイがカーラルヒスで二年生のころに見つけて現在通っている道場だという。


「お前、そんな所に通ってたのか」


「別に隠していたわけじゃないんだけどね。その頃には、ルクトはもうソロだったから」


 言うタイミングがなかった、ということだろう。それにそう一生懸命に通っているわけでもなく、多くとも一週間に一回行くか行かないか位だという。ついでに言えば、ここ二ヶ月ほどは顔を出していなかったらしい。


「それで、そのレイシン流ってのは、どんな流派なんだ?」


 ロイが得物として使っているのは剣だ。だからルクトは、レイシン流は剣術の道場なのかと思ったが、ロイが言うところによれば違うらしい。


「レイシン流は、なんていうのかな……、“烈の練り方”を教えている道場だよ」


「烈の練り方? つまり集気法ってことか?」


 それはわざわざ道場を開いてまで教えるようなことなのだろうか?


「ちょっと違うんだけど……。まあ、長くなるし本筋とは関係ないから端折るね」


 ルクトは肩をすくめる。ロイがそう言うのであれば仕方がない。


 ロイの言うところによれば、レイシン流は小さな道場だという。門下生の数も十五人程度。知名度だって決して高くはない。


 ただその一方で、小さいながらも需要はあった。レイシン流はロイの言ったとおり、“烈の練り方”を教えている流派である。つまり、なにか特定の武器を専門にしているわけではない。そこで門下生たちはそれぞれ好きな得物を選ぶことになる。


 好きな得物というが要は、「他の道場と掛け持ちをする」ということだ。よってレイシン流の道場には、自然とさまざまな流派の使い手たちが集まる。


「ほら、道場で対外試合をしようとすると、結構大変じゃない?」


 それはロイの言うとおりである。少なくとも、フラリとやって来て「試合をしてください」などと言う事は決してできない。どこの道場破りかと思われるだろう。


 だがレイシン流の門下生になれば、他の門下生、つまり他流派の使い手と日常的に立会いをすることができる。それは経験を積むという意味において重要と考える人も多く、つまりそういう人たちが門下生になっている。


「それにレイシン流の教えそのものも結構面白いよ」


 地味だけどね、とロイは少々意地悪げに付け足した。


「それで、なにが問題なんだ?」


「あ~、そのレイシン流の当代の道場主はウォロジス・ラトージュさんって言うんだけどね。その人がちょっと大怪我をしちゃったんだ……」


 迷宮攻略を行うための組織といえば、まず真っ先に浮かぶのはギルドであろう。ただ、ギルドというのはあくまでも営利目的で迷宮攻略を行う組織だ。それに対し各道場は門下生の実力向上を目的として遠征を企画することがある。そしてそれはレイシン流も例外ではなく、その攻略の中でウォロジスは大怪我を負ってしまったのだと言う。


「もともと、小さな道場だったからね……。それ以来次々に門下生が辞めちゃって、今じゃ僕一人ってわけ」


 他流派の使い手と日常的に立会いができる場所は確かに貴重だが、しかしレイシン流の道場が唯一の場所というわけではない。例えばギルドの仲間と立合い形式で訓練をしたり、ということは十分に可能だ。そういう意味では、わざわざレイシン流にこだわる必要はなかったのだろう。


「お前は辞めないのか?」


「あ~、うん、ウォロジス師範には娘さんが一人いてね」


 どこか誤魔化すように視線をさまよわせながら、ロイはそんなことを言った。その娘さんの名前はクルーネベル・ラトージュ。奇しくもルクトやロイと同じ年齢で、今年で十九になるという。ちなみに母親はすでに身罷っている。


「じゃあ、同級生か?」


「いや、彼女は学園には通っていないよ」


 珍しい、とルクトは思った。ノートルベル学園という巨大な教育機関を有するカーラルヒスにおいて、大抵の子供は学園に入学する。もちろん学ぶ内容や期間は人それぞれだが、学園に入らないという子供は少数派だ。


 またクルーネベルは小さいながらも武門の娘。学園の武術科に入って研鑽を積む、というのが一番の王道ではないだろうか。


(いや、武門の娘だから、か……?)


 武術科に入れば、最初の一年は迷宮に潜ることが出来ない。環境さえ整っていれば、それを無駄と判断することは十分に考えられた。ちなみに、保護者の同意さえあれば子供であっても迷宮に潜るためのライセンスは発行される。


 まあそれはそれでいいとして。


「道場の収入もなくなっちゃったし、師範も怪我で動けない。薬代もかかるし、それでクルルさん、『自分が稼ぐんだ』って言って迷宮に潜ってたんだ。……その、一人で」


 最後の一言を言いにくそうに付け足しロイはそう言った。そして夏休みになり、見かねたロイが手伝い始めたのだという。


「ちょっと待て。さっき三人で攻略してるって言ってたよな? もう一人は誰なんだ?」


「ああ、五年のセイヴィア・ルーニー先輩だよ」


 その名前にルクトは聞き覚えがあった。確か、学内ギルド〈叡智の女神(ミネルヴァ)〉の幹部であるヴィレッタ・レガロのパーティーメンバーだったはずだ。ということは彼女もまた同じギルドの所属ということになる。それにヴィレッタのパーティーといえば五年生の年が変わる前に実技の卒業要件を達成した〈エリート〉であったはず。そんな彼女がいったい何をしているのか。


「さあ、先輩も一人で迷宮に潜ってたみたいだけど……」


 その際に二人で攻略を行うクルーネベルとロイを見つけて声を掛け、面白そうだから自分も、ということになったらしい。普通、一人で本格的な攻略など行えるはずがないから、もしかしたら彼女も避暑のために迷宮に潜っていたのかもしれない。


 ただそれで三人になったとは言え、たった三人でまともに迷宮攻略ができるわけがない。実際ロイの話を聞く限りでは、四階層のベースキャンプを拠点にして何とか六階層くらいまで、というのが限界だという。


「で、もっと下に行くためにオレを引き込もうってわけか……」


「夏休みの間だけでいいんだ。ダメかな……?」


 夏休みの間だけであれば、武術科の学生としてはなにも問題はないだろう。夏休みの間は実技要件の認定も行っていないし、であればルクトがソロでやる必要はない。それに夏休みの間は、学園の取り決めごとも緩む。


 だが、ルクトには武術科の学生として以外にも事情がある。


「……夏休みの間は、ずっと合同遠征だ」


 少し苦い声でルクトはそう言った。心苦しいが、これは半分否定の返事だ。それは十分わかっているのだろうが、それでもロイは引き下がらなかった。


「それを承知の上で頼んでいるつもりだ」


 彼の強い意志が言葉に滲み出る。それはつまり合同遠征にルクトのパーティーとして参加したい、ということだ。


 ちなみにルクトの口利きで合同遠征に参加するパーティーに加えてもらう、ということはできない。たとえ往復20万シクを支払うとしても、だ。


 確かにルクトが「お願い」すれば、無理やりにでも彼らをねじ込むことはできるかもしれない。だがそれをやったら、直接ルクトのほうに頼みにやってくるギルドやパーティーが続出する。それではなんにために専用の窓口を設けたのかわからない。


「…………なんでそこまで入れ込む?」


 出来る出来ないはともかくとして、ルクトはここまでの話を聞いた上で疑問に思ったことを尋ねる。ここまで話を聞いた限りでは、ロイニクス・ハーバンという人間にとってレイシン流がそこまで大切なものだとは思えない。それなのになぜ、断られる可能性が高いと知りつつルクトに声をかけることまでするのか。


「僕の故郷の都市には迷宮がなくてね。レイシン流はそういう場所に合っている気がするんだ」


 だから今はまだ道場になくなってもらう訳にはいかない、とロイは続けた。


「そのわりにはあんまり一生懸命でもないようだけど?」


「コッチにも色々と予定があるからね。そっちにばかりかまけているわけにもいかないさ」


 ロイがおどけるようにして肩をすくめ、それを見たルクトは苦笑をもらした。


「……イズラさんに聞くだけ聞いてみるよ。それでダメだったら諦めてくれ」


「分かった。それでかまわない」


 話が一段落つくのとほぼ同時に、二人は夕食を食べ終えた。ただ、このまま部屋に戻ってもやることはない。二人はそのまま、しばらくの間他愛もないおしゃべりに興じるのだった。



▽▲▽▲▽▲▽



「よろしいのではないでしょうか。問題はないと思いますが」


「え? あ、いや……、本当にいいんですか……?」


 いつもどおりクールな表情で対応してくれるイズラに、ルクトは少々間抜けな顔をしながらそう聞き返す。思っても見なかった答えを貰ったせいで、頭が話に付いて行っていないらしい。


 ロイと話をした次の日、ルクトは〈水銀鋼の剣(メリクリウス)〉のギルドホームに来ていた。ここには合同遠征のための窓口が設置されており、その窓口での業務を受け持っているのがこのイズラ・フーヤという女性である。


 用件はもちろん、昨日ロイから聞かれたように、彼らがルクトのパーティーとして合同遠征に参加しても大丈夫かどうか、ということだ。


 ルクトは最初、いい返事は期待していなかった。なにしろ他のパーティーは往復で20万シクを支払って合同遠征に参加しているのだ。その横に、多少のコネがあるからといってタダで参加しているヤツがいれば面白いはずもない。


 また、ルクトと一緒のパーティーになるということは、〈プライベート・ルーム〉を使いながら遠征ができる、ということだ。その“特権”はカーラルヒス中のパーティーが狙っているといってもいい。お金を払ってでもその特権が欲しいという者は幾らでもいるだろう。 “部外者”であるロイたちが横からその特権を掻っ攫ってしまえば、快く思わない者も多いはずだ。だったら合同遠征に参加しているパーティーから優先的に、と考えるのはむしろ当然のことだろう。


 しかしイズラはかまわないという。


「もともと、ルクト様が一人で待機していることを不安視する声はあったんです」


 合同遠征はおよそ一日で十階層まで行き、二日程度各パーティーがそれぞれに攻略を行い、そして同じくおよそ一日で戻ってくる、というタイムスケジュールで動いている。だから各パーティーの食料配分も、そのタイムスケジュールに則ったものになっている。つまり最終日には一日分の食料しか残っていないのだ。


 さて、各パーティーが攻略を行っている間はルクトの自由時間で、基本的には彼もまた攻略を行いながら時間を潰している。ただし、ソロで。


 万が一、この間に彼が死んでしまったらどうなるか。ルクト・オクスという人間はもういないのだから、当然彼の個人能力(パーソナル・アビリティ)である〈プライベート・ルーム〉はもう利用できなくなる。通常の遠征であれば一日では十階層まで到達することも、そしてそこから戻ってくることもできない。つまり合同遠征参加パーティーは「帰還に必要な分の食料がない」という危機的な状況に陥ることになるのだ。


 イズラが言うには、合同遠征の企画段階から「ルクトに護衛をつけるべきだ」という意見はあったのだという。ただ〈水銀鋼の剣(メリクリウス)〉から護衛を出せば他のギルドの反発を招くだろう。そもそもソロで実技要件を達成しているルクトは、十階層で戦うだけの実力を持っていることを証明しているともいえる。


 またルクト自身、合同遠征の最中は積極的に下の階層に行くような真似はせず、十階層付近で待っていることがほとんどだったから、なおさら護衛の必要性が薄かったとも言える。そんな彼にわざわざ「自分たちが護衛を」というのは、いかにも攻略に利用しようという魂胆が見え透いているようで躊躇われる。加えて〈プライベート・ルーム〉という避難場所があるのも大きいだろう。


 そんなわけでこれまでルクトに護衛が付くことはなかったわけだが、その一方でその状況を不安視する声も根強い。だからルクトが自分で護衛となるパーティーメンバーを見繕ってくる分には文句は出ないだろう、というのがイズラの見立てだ。


「夏休みの間だけと期間が限られていますから、そう大きな不満も出ないでしょう」


 やはり表情を変えることなく、淡々とイズラはそう告げた。


(ただ、夏休みが終わったら「護衛(・・)をつけるべきだ」という声は大きくなるのでしょうが……)


 イズラはそう思ったが、声には出さない。彼女もまた、ルクトに護衛を付けておくことに賛成の人間なのだ。


 ルクトはもちろん全ての事情を理解できているわけではない。ただ、イズラがそう言いきるのであればそうなのだろうと思う。その程度には彼女が優秀であることは知っているし、また信頼もしている。


「あ~、じゃあ、お願いします」


 あまりにも話がうまく行き過ぎたことにあっけなさを感じながらも、ルクトはひとまず頭を下げる。友人の頼みを無下に断らずに済むのなら、それは彼にとっても嬉しいことだ。


(それに……)


 それに、パーティーを組んで攻略を行うのは久しぶりだ。そのことに少しだけ心が浮き立った。



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