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403 シングル・ルーム  作者: 新月 乙夜
第六話 夏休み金策事情
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夏休み金策事情1

おかげさまでお気に入り登録件数が3600件を超えました!


これも読んでくださる皆様のおかげです。

今後もよろしくお願いします。

「今年もよろしくお願いします。カデルハイトさん」


「ああ、よろしく頼むよ。ルクト君」


 差し出された右手を、ルクトは握り返す。相手の男の名はドミニク・カデルハイト。年の頃は五十の半ばという話だが、苦労を重ねてきたせいか実年齢よりも老けて見えた。目元は穏やかだが隙がなく、浮かべた笑みは作りものではないにしろ歓喜のそれでもないのだろう。頭には一筋白髪が帯のように走っていて、彼の気苦労の多さを思わせた。


 ドミニク・カデルハイト。カデルハイト商会を一代にして築き上げ、いまだ現役の頭領(ドルチェ)として指揮を執る男である。


 カーラルヒスという都市国家は、比較的よそ者に気安い気風を持っている。それはきっと、ノートルベル学園に多くの留学生たちが通っているからだろう。他所の都市に比べよそ者の数が絶対的に多いのだ。そういう環境だから都市で生まれ育った人たちもよそ者がいるのが当たり前で、自然と気安くなっていくのである。


 ただし、あくまで「気安い」のであって、決して「優しい」とか「信頼してくれる」とか、そういうわけではない。


 例えば大きな仕事を頼むときに、昔から良く知っている人物か、あるいはつい最近知り合ったばかりのよそ者か選ぶとする。能力に大きな差がないのであれば、多くの人は前者に仕事を依頼するだろう。


 それが普通の人間のものの考え方だ。良い悪いではなく、そういうものなのだ。その都市との繋がりがない以上、よそ者はどうしてもハンデを抱えることになる。


 例外的に留学生たちには都市の住民たちも大抵優しいが、それは彼らが子供であるからという理由のほうが大きいだろう。


 そしてドミニク・カデルハイトがカーラルヒスにやって来たとき、彼は留学生ではなかった。彼は商人を志して故郷の都市を飛び出し、都市間を巡るキャラバン隊に身を寄せて十年ほど修行を積んだ。その後、三十を過ぎた頃にカーラルヒスに来て自分の店を持ったのである。


 以来、苦節二十年以上。彼の立ち上げたカデルハイト商会は、今ではカーラルヒスの中で中堅程度にまで成長していた。嫁を貰い子供をもうけ、今では完全に「カーラルヒスの人間」である。


 ただ、よそ者である以上、やはり苦労は多かった。一時期は破産寸前にまで追い込まれたこともある。そんな時に彼と彼の商店に力を(より正確には金を)貸したのが、黒鉄(くろがね)屋のメリアージュだった。


 実はドミニク、ではなく彼が修行していたキャラバン隊の頭はメリアージュと顔見知りで、その縁でドミニクも会話をしたことはなかったが顔は知っていた。それに「黒鉄(くろがね)屋のメリアージュ」といえば、この業界内では知らぬ者のいないビッグネーム。風の噂に名前を聞くことは何度かあった。ただ、カーラルヒスの店でメリアージュと初めて会ったとき、彼女は使いとして“黒い鳥”を使っていたから、どのみち顔を覚えていても意味はなかったのだが。


『アレがおぬしのことを気にかけておってな。面白そうじゃから冷やかしに来てみたのじゃ』


 暗い部屋のなか、金策のアテもなく頭を抱えるドミニク。そんな彼の目の前に突然現れた“黒い鳥”はそう言ってカラカラと笑った。メリアージュにしてみれば挨拶代わりの冗談だったのだろうが、あいにくとその時のドミニクにはその冗談を聞き流せるだけの余裕はなかった。


『冷やかしなら帰ってくれ!!』


 頭に血が上ったドミニクは“黒い鳥”をそう怒鳴りつけた。普段の客を相手にしているときならば、どれだけ罵詈雑言を吐かれようとも笑顔を崩すことはないだろう。だが明日にも破産かという経営状態は、彼の精神状態をも圧迫していた。


『……幾らじゃ?』


 からかうような声が響く。だがその声音の裏には、金貸しとしての冷徹な打算も見え隠れする。


『なにがだ!?』


『幾ら必要なのかと聞いておる』


『……十億』


 ドミニクとしては吹っかけたつもりだった。いや普通に、常識的に考えればすぐに用意できる金額ではないことは明らかだ。嫌がらせのつもりだったと言ってもいい。


 しかし、黒鉄(くろがね)屋のメリアージュはいつだって常識の斜め上を行く。


 ニヤリ、と笑ったように見えた次の瞬間、“黒い鳥”は解けて闇に戻り狭い部屋の中を埋め尽くす。そしてその一瞬後に闇は再び“黒い鳥”へと戻った。


 突然の出来事にドミニクは両手で顔をかばった状態でしばらく固まっていた。それからぎこちない仕草で両手を下ろし、そして驚きのあまり目を見開いた。


 テーブルの上が、金貨で埋め尽くされている。窓から差し込む月明かりが、金貨の山を神秘的に映し出す。


『な……、な、な…………』


 金貨それ自体ならば見慣れている。赤金貨が積み上げられることだって商売をしていれば珍しくはない。銀貨が山になっているところだって見たことがある。


 だが、金貨がテーブルを覆いつくし、あまつさえ入りきらずに転がり落ちてしまうような光景は、生まれてこのかた見たことがない。大商人と呼ばれるような商会の頭領(ドルチェ)であればあるかもしれないが、破産寸前の零細店長であるドミニクにはまるで夢物語のようだった。


『……この十億シク、欲しいかえ?』


 金貨の山の上にちょこんと降り立った“黒い鳥”がささやく。その瞬間ドミニクは、本人が後に述懐するところによれば、「奇跡的な」速さで立ち直った。そして緊張で足どころか全身を震わせながらも、首を縦に振ってしっかりと頷く。


『ならば契約を結ぼうぞ』


 厳かな声が“黒い鳥”から響く。その声にドミニクはもう一度頷く。彼の商人としての勘が告げていた。「これはこの先の人生を決める商談になる」と。


『必ず返せ』


 腹に響く、重い声だった。威厳に満ちたその声は聞く者に反論を許さない。


黒鉄(くろがね)屋は返済不履行を決して許さぬ。死ねば楽になれるなどと考えぬことじゃ。返済を完了するまでは死ぬことすらおぬしの自由にはならぬと心得よ』


 ドミニクは本能的にその言葉が真実であると悟った。だが、同時にかまわないとも思う。一瞬の逡巡の後、彼は首を縦に振った。


『かまわない。この十億シク、私に貸してほしい』


『ではこの契約書に金額とサインを入れるがよい』


 再び“黒い鳥”が解けて闇が広がり、すぐに鳥の形により戻る。その足元、金貨の山の上には二枚の契約書が忽然と現れていた。最高級の羊皮紙で、金箔を用いた精巧な細工で縁取りがなされている。


 ドミニクは躊躇いなくそこに金額と自分の名前を記入し印を押す。メリアージュの名前と印はすでに入っていた。


 この時点でドミニクに十億シクもの借金を返済するアテはない。普通に考えればそんな彼に多額の金を貸す金貸しはいないだろう。しかし、しかもよりにもよってあの黒鉄(くろがね)屋のメリアージュが現れ、金を貸してくれるという。


 本当に相手は黒鉄(くろがね)屋なのだろうか。ドミニクはふと頭の片隅でそんなことを考えた。もしかしたら自分は今、悪魔と契約を交わしているのではないだろうか。そんな馬鹿げた考えさえ頭に浮かぶ。


 しかしドミニクが頭の中で何を考えていようとも、メリアージュは淡々と契約を進めていく。


『契約成立じゃ。では最初の取立ては……、一年後ということにしようかの……』


 それだけ言うと、三度“黒い鳥”が解けて闇に戻る。しかし今度は鳥の形には戻らず、そのまま気配が薄れていくのがドミニクにも分かった。


『待ってくれ! なぜ私に金を貸そうと思ったんだ!?』


『言ったであろう? アレが気にしていた、と』


 メリアージュの声だけが部屋の中に響く。アレ、というのは以前に修行していたキャラバン隊の頭のことだろう。しかしそれが理由だとすれば、あまりにも弱い。ほとんど施しと言っていいだろう。それはありがたいことではあったが、ドミニクにとっては屈辱でもあった。そんな彼の内心の葛藤を知って知らずか、メリアージュの言葉は続く。


『アレが言うには、おぬしには商才があるらしい』


 せいぜい気張ることじゃ、と残響のように響く言葉を残し部屋のなかの闇は消えてメリアージュは去った。


 一人になった部屋の中で、しばしの間ドミニクは立ち尽くす。不思議な感覚だった。“黒い鳥”や目の前で月明かりに照らされる金貨の山も、なにもかも全ては夢幻なのではないかとさえ思えてしまう。


 一枚残された契約書を摘み上げる。そこにはしっかりとドミニクの名前と印、そしてメリアージュの名前と印の両方が揃っていた。


『ひどい字だな……』


 手が震えてしまったがためにうまく書けなかった自分の名前を見てドミニクは苦笑をもらした。その下にメリアージュの名前が、こちらは惚れぼれするほど流麗な文字で記されていて、その対比がひどく可笑しくもあり生々しくもあった。


『く……くっくっくっく……』


 なぜか笑いがこみ上げてきて抑えられなかった。ただ笑って、ようやくこれは現実なんだと思えた。


 修行をしたキャラバン隊の頭のことを思い出す。ことあるごとにさんざん怒鳴られたのを良く覚えている。だが理不尽であったりただの嫌がらせであったことは一度もない。どれほどきつい言葉であっても、後になって思い返してみればなるほどその通りだった。褒められたことは一度もないが、任せてもらえる仕事が少しずつ大きくなり、それが自分の評価だと思っていた。


 商才がある、などとは一度も言ってくれなかった。自分で商才があると思ったこともなかった。だが……。


『あの人がそういうのなら、信じてみようか』


 なにしろ借金は十億シク。商才がなければ返しきれるものではない。


 結果だけ見れば、ドミニク・カデルハイトには商才があったことになる。彼はその後十五年かけて借金と利子を完済し、その間に自分の店を一角の商会にまで育て上げたのだから。


 借金の完済後、ドミニクとメリアージュの縁はそれっきり途絶えていた。だから二年前、ノートルベル学園の学生が黒鉄(くろがね)屋の紹介状を持って来たと秘書から聞いた時、彼は思わず自分の耳を疑った。そして応接室に通したその学生ルクト・オクスの姿を見たとき、彼は思わず腰が抜けそうになるくらい驚いた。


 ルクト・オクスに見覚えがあったから、ではない。彼とは間違いなく初対面だった。そうではなく、彼の肩にあの夜見た“黒い鳥”が乗っていたからである。まさか本人(?)が直接来ているとは思わなかったのだ。


『久しぶりじゃな』


 調子はどうじゃ、とテーブルの上に降り立った“黒い鳥”が問い掛ける。忘れもしないあの夜と全く同じ声で。


『……お蔭をもちまして』


 何とか気を取り直し、ドミニクは一礼した。


『それは何よりじゃ』


 そう満足そうな声を出して“黒い鳥”は頷いた。それから「では本題に入るとしよう」と言って話を進める。


『ルクトよ。あの手紙を見せてやるが良い』


 ドミニクがソファーに座ったのを見計らって、メリアージュはそう指示を出す。ルクトと呼ばれた少年(この頃はまだ少年と呼ぶべきだろう)は、緊張した面持ちで一通の手紙を取り出しドミニクに差し出した。


 緊張の度合いでは、ドミニクもそう変わらなかっただろう。だが彼の場合はそれを隠す術を身につけていた。彼は努めて平静を装ってその手紙を受け取ると、その中身に素早く目を通す。


『……ここに書かれていることが、本当にできるのですか?』


 メリアージュが提案したのは、当時はまだ知られていなかったルクトの個人能力(パーソナル・アビリティ)〈プライベート・ルーム〉を使った物資の輸送である。


 都市国家という単位はそれ自体で自給自足している場合が多い、という話は以前にもした。しかし、いくら自給したくともどうにもならないモノもある。


 その一つが、「塩」だ。


 カーラルヒスの周りに海はない。塩湖もなく、岩塩もない。となれば、カーラルヒスが塩を得るためには、交易に頼るしかない。


 上では「交易」という言葉を使ったが、実際のところを考えれば「交易」という言葉は当たらないかもしれない。なにしろその交易相手は、カーラルヒスが自らのために興したものなのだから。


 ――――衛星都市オーフェル。


 オーフェルはカーラルヒスから南西におよそ100キロ程度にある海に面した都市だ。ここでは製塩業が盛んに行われている。カーラルヒスで出回っている塩の全てはオーフェル産であるといっても過言ではない。


 とはいえ二つの都市の間の距離は100キロ。生産地から消費地に塩を届けるには、その距離を輸送しなければならない。


 輸送、と一言で言ってもこれはなかなか大変だ。野獣や魔獣、あるいは盗賊などに襲われるという事態は簡単に想定できる。


 となれば、護衛が必要になる。つまり武芸者による護衛である。ただ、武芸者といっても公的な組織に属する衛士や騎士が民間の輸送の護衛に着くことはほぼない。必然的にこういった護衛の仕事を請け負うのはハンターになる。


 ハンターとは基本的に高給取りだ。もちろんそれは命の危険と引き換えの高給ではあるが、しかし彼らの平均的な収入が一般人のそれに比べて高いことは客観的にして広く知られた事実である。


 よって、ハンターを雇う場合にはそれ相応の報酬を用意しなければならない。そうなると、跳ね上がるのだ。輸送コストが! 人件費のせいで!!


 そこで、ルクト・オクスと〈プライベート・ルーム〉の出番である。


 ルクトに案内されて〈プライベート・ルーム〉の中に入り、さらに説明を聞いたドミニクは直感した。これは輸送に向いた能力だ、と。


 ドミニクの認識は商人よりではあったが、正鵠を射ていたと言えるだろう。実際、ルクトがソロで迷宮(ダンジョン)攻略を行えるのも、彼が一人で、しかも大量の物資を保管し輸送できるからにほかならない。


 まあそれはそれとして。〈プライベート・ルーム〉を使えば輸送コストを抑えることが出来る。ドミニクはそのことをすぐに理解した。


 輸送コストを抑えることが出来れば、その分小売価格も抑えることが出来る。そうすれば他の商会に差をつけることが出来るだろう。また小売価格を変えないとしても、その分儲けが増えることになる。


 この話は商会の利益に直結する。上手くすれば、自分の代のうちに中堅を脱して大手に成り上がることも夢ではない。ドミニクは頭の中ですばやく計算をめぐらせた。


『君とはぜひ今後ともお付き合いをさせてもらいたい。……それで、どうだろうかルクト君。我が商会でバイトをする気はないかな?』


 ソファーに座りなおすと、ドミニクはそう切り出した。せっかくの人材とチャンスを逃す手はない。平静を装いながらも組み合わせた両手には力が入る。


『それはならん』


 しかし、ドミニクの思惑はメリアージュの一言で瓦解した。ドミニクは内心の落胆をなんとか腹の中に収めたが、ルクトのほうは見るからに不満そうな顔をする。その顔を見た“黒い鳥”は呆れたようにこう言った。


『……ルクトよ。妾はおぬしに「ハンターになれ」と言ったのであって、「商人になれ」と言った覚えはないぞ?』


 その一言でルクトは不承ながらも納得したようで首を縦に振って頷いた。さらに“黒い鳥”はドミニクのほうを向く。


『……それに、こやつ一人の力で商会を大きくすることなどできぬよ。より高額な報酬を提示したところに引き抜かれるだけじゃ』


 それを回避するためにはさらなる高給を約束しなければならず、それは人件費と輸送コストが上がることにつながる。それでは元の木阿弥だ。結局、ルクトがカデルハイト商会の手伝いをするのは夏休みの間だけ、ということになって話は落ち着いた。


 ドミニクにしてみれば決して面白い結果とはいえない。しかし難色を示して他の商会にいかれては元も子もない。それにメリアージュの言うことにも一理ある。まあ、そもそも黒鉄(くろがね)屋のメリアージュがここにいる時点で、ドミニクの意見など始めからあってないようなものなのだが。


 それに夏休みの間だけとはいえ、ルクト・オクスを雇えれば商会の利益になることは間違いない。またメリアージュがそうまで言うのであれば、彼が他の商会で働くようなこともないだろう。そう思えばことさらに残念がるようなことでもない。


『後の細かい話は二人で詰めるが良い』


 大まかな話だけ決めてしまうと、“黒い鳥”はそう言って窓際に軽く羽ばたいて移動する。ルクトがドミニクに断ってから窓を開けた。


『そうそう、あえていう必要もないと思うのじゃが……』


 窓から飛び立とうとしていた“黒い鳥”が首だけめぐらしてドミニクを見据える。なぜか背中に冷や汗が流れた。


『妾の養い子相手にあこぎな商売なんぞしてみよ。おぬしの商会は妾が責任を持って潰すゆえな?』


 どう言い繕っても脅迫にしか聞こえない言葉を残し、“黒い鳥”は飛び去った。悪いことに、黒鉄(くろがね)屋には本当にそれができるだけの力がある。残された男二人がなんとも言えない顔をしていたのは、まあ些事であろう。


 そんなこんなで始まったルクト・オクスの期間限定バイトも今年で三年目。もっとも今年からはハンターとして合同遠征の予定も入っているから、これまで通りには行かないかもしれない。なんにしても顔を出してくれたのはドミニクとしても嬉しいことだった。彼が手伝ってくれると、やはり月の売り上げが伸びるのだ。


「合同遠征はいいのかね?」


「事情を話して、それを考慮した予定を組んでもらいました」


 月一くらいならコッチで働けます、とルクトは言う。夏休みは八月と九月の二ヶ月間だから、仕事ができるのは二回である。


「ふむ……」


 ドミニクは素早く思考をめぐらせる。二回という回数は昨年、一昨年に比べて少ない。ただ、どうにもならない回数というわけではない。要は一回ごとに運ぶ荷物の量を増やせばいいのだ。それくらいならば事前の用意次第で何とかなる。


「では明日、いや明後日だな。明後日、いつもの倉庫へ行きそこで指示を受けて欲しい」


「分かりました」


 ルクトがそう答えたことで話し合いは終わった。二人とも慣れたもので、細かい指示や質問は何もない。


 秘書にルクトを見送らせ、一人になった応接室でドミニクはソファーに身を沈めた。ルクト・オクスと話をする時はどうも疲れる。いや、彼自身は物分りもよく腹の探りあいをしなくて済む分楽な相手なのだが、その後ろに黒鉄(くろがね)屋の影を感じるとどうにも緊張してしまう。


「……やれやれ。私もまだまだだな……」


 そう一人ごちるドミニクは、どこか晴ればれとした笑顔を浮かべていた。


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