卒業の季節1
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〈御伽噺〉がまだただの人間だった頃、彼は発現した自分の個人能力に〈メモ帳〉という名前をつけた。ただ、後に〈シャドー・レイヴン〉から「その名前はどうかと」と苦言を呈され、〈覚書きの書〉と改めたが。
さて〈メモ帳〉改め〈覚書きの書〉の能力は、一言で言ってしまえば「収納」である。生物(植物や動物、昆虫など)以外のモノをその書の中に収納しておけるのだ。収納する際には〈覚書きの書〉を手に持ち、もう片方の手で収納したい荷物に触れ、そして少量の〈烈〉を荷物に触れた手に集めてやると、その烈を消費して能力が発動する。
例えば寝袋を二つ収納した場合、その書の中に【寝袋 二】といった具合に記載される。荷物を積載したトロッコが一台であれば【トロッコ(荷物付き) 一】といったふうになる。この状態になれば、〈覚書きの書〉を送還しても荷物は書の中に収納された状態であり、つまり傍からは荷物が消えてなくなったようにも見える。
荷物を取り出す場合は、〈覚書きの書〉を顕現させ、取り出したい荷物の記載に軽く指で触れ、その指から烈を少量放出してやるだけでいい。そするとその記載は消えて、代わりに荷物が現れる、という仕組みだ。
ルクト・オクスの〈プライベート・ルーム〉を例にとればよく分かると思うが、荷物のない身軽な状態になれれば遠征中の攻略速度は格段に速くなる。それは全力で走ることができるからだし、また下の通路に飛び降りるなどしてショートカットができるからだ。その気になれば、たった一日で十階層まで到達することも可能である。
実際、〈御伽噺〉を擁するパーティーは周りと比べて段違いの速度で攻略を進め、そして桁違いの成果を上げた。「十階層で安定した狩りができれば一人前」と言われているが、彼らの主な狩場は二十階層だった。
他とは一線を画した実力、と言っていいだろう。しかしこの程度では長命種にはなれない。だからこそ、〈御伽噺〉は自分が日一日と老いていき、それなのに迷宮の謎をいっこうに解明できないことに焦った。
『時間が、時間が足りない……!』
時間。それこそが最大の問題だった。
迷宮の謎を解き明かすために実力、つまり戦闘能力が必要であるとは思わない。いや、必要が生じることもあるだろうが、その場合必要とされている戦闘能力を自分一人で満たす必要はかならずしもない。その都度、傭兵を雇うなりすればいいのである。実際、彼はパーティーをある面で自分が迷宮に潜るための護衛だと考えていた。
言い方を変えれば、戦闘能力は代えがきく。だが意思と頭脳。この二つは代えがきかない。好奇心を優先して迷宮に潜る者など自分以外にはいないだろうと〈御伽噺〉でさえ思っていたし、であるならばその謎を解き明かすための頭脳を持つ者はやはり彼しかいない。
しかしただの人間でしかなかった頃の〈御伽噺〉にはどうしようなく時間制限があった。すなわち寿命である。確かに迷宮について調べてはいる。しかし分からないことの方が圧倒的に多い。解明にどれだけ時間がかかるのかそれさえも分からないが、しかしただの人間の寿命では足りないことだけははっきりしていた。
命の限り調査を続けてその先のことは後世に託す、という手もある。というか、普通はそうするしかない。しかし〈御伽噺〉はそれを良しとはしなかった。たとえ全貌が解明されようとも、そのとき自分が死んでいたら何の意味もない。〈御伽噺〉はそういう考え方をする人間だった。
〈御伽噺〉はあくまでも自分が知ることにこだわったのである。しかしそのためには時間という問題がどうしても立ちはだかる。その壁を越えるための方法は、一つしかない。
『〈長命種〉になるしかない……』
ただの人間であるために、短命種であるために時間が足りないのであれば、ただの短命種を超える存在になるしかない。超越者、すなわち〈長命種〉に。
ではどうすれば長命種になれるのか。意外かもしれないが、長命種になるための方法論はそれなりに知られている。すなわち「迷宮に深く潜ること」である。
しかし「深く潜る」とはいってもどれほど深く潜ればいいのか、具体的な数字は知られていない。恐らく個人差があるのだろう。いずれにせよ、二十階層程度ではまだ足りないことだけは確かだった。
『どうする……? どうすればいい……?』
〈御伽噺〉は考える。単純に考えるならば、長命種になるためにはもっと深く、二十階層よりさらに下に潜らなければならない。しかし現実問題それは無理だった。
確かに〈覚書きの書〉を使えば荷物を気にすることなく、身軽な状態で攻略を行うことができる。そのおかげで〈御伽噺〉たちは二十階層と言う、他のパーティーが到達できない場所まで行くことができる。しかし深く潜るのはこの辺りがどうしても限界なのだ。
なぜなら、疲労が蓄積するからである。〈覚書きの書〉は安全圏を提供してくれるわけではない。必要になる物資は確保できるかもしれないが、メンバーはやはりいつ襲われるかも知れない迷宮の中で寝起きをしなければならない。そのような状態では、特に精神的な疲労は完全に回復することはできず、むしろ蓄積されていく。その果てにあるのは言うまでもなく「死」である。言い方を変えれば、ハンターがパフォーマンスを維持できる時間に限界があるのだ。
これ以上深い階層に潜ることはできそうにない。しかしそれでは長命種になれない。では、どうすればいいのか。〈御伽噺〉は少し考え方を変えてみることにした。
『そもそも、なぜ深い階層に潜らなければならない? 階層が深くなると、一体なにが変わる?』
その答えは簡単だった。すなわち、「マナの濃度がより濃くなる」。そして、その事実を基にして〈御伽噺〉は一つの仮説を立てた。
『超高濃度のマナを吸収し、それに適応して進化した存在こそ長命種なのではないか?』
彼のこの仮説は、実は一般的な事実の延長にあるものでしかない。その「一般的な事実」というのは、「人間の身体は、高濃度のマナに適応していくことができる」というものだ。
例えば、初めて迷宮に潜った人間がショートカットなどをして深い階層(とは言っても二階層とか三階層だが)に挑戦しようとすると、〈マナ酔い〉と呼ばれる症状が起きる。マナ酔いを起こすと、気分が悪くなって嘔吐したり、あるいは全身に筋肉痛のような痛みが出たりする。これらの症状はつまり〈外法〉を使った時のショック症状や拒否反応と同じもので、身体が高濃度のマナに適応できていないからだといわれている。
ではどうすれば適応できるのか。その方法は実に簡単で、浅い階層から徐々に身体を慣らしていけばいいのである。ショートカットなどせずに歩いて下へと向かえば、初めてであってもマナ酔いを起こすことはまずない。つまり高濃度のマナを取り込むことで、身体が徐々にとはいえその環境に対応していくのである。
深い階層、それこそ二十階層より下に潜ったとしても同じことが起きると考えられる。より高濃度のマナに身体が対応し、適応していくのである。そしてある一線、つまりある濃度に達したとき、短命種の身体は長命種の身体へと進化するのではないのか。〈御伽噺〉はそう考えたのである。
この仮説に則って考えた場合、深い階層に潜る必要は必ずしもない。要は、そこにあるはずの超高濃度のマナさえ用意できればいいのである。後はそれを吸収すれば、身体が勝手にその超高濃度のマナに適応してくれるだろう。すなわち、進化するのだ。長命種へと。
『問題は……』
問題は、その超高濃度のマナをどうやって用意するのか、である。普通であれば、それが存在している迷宮の深層に潜るしかない。しかしその方法は〈御伽噺〉には無理だ。ではどうやって、あるいはどこから用意すればいいのか。
『そもそもマナとは迷宮の中にしか存在していないのだろうか?』
いや、そんな事はない。迷宮の外にも濃度が低いとは言えマナは存在している。また〈魔石〉、つまり〈マナ石〉もある。これはマナが結晶化した物質であり、きわめて安定していて迷宮の外に出しても消えてなくなったりはしない。つまり濃度さえ気にしなければ、マナは身近に存在しているのだ。迷宮の大気中にあるものだけが、マナの全てではないのである。
であるならばまだ知られていないだけで、身近に存在するマナのなかにも〈御伽噺〉が欲する超高濃度のものがあるかもしれない。そしてもしそれがあるならば、最も可能性が高いのは……。
『魔石、だろうね……』
早速、〈御伽噺〉は試してみることにした。用意したのは十五階層相当の魔石。この魔石から直接マナを吸収するのだ。つまり外法を使うことになる。
これは大変に危険な実験になると、〈御伽噺〉は覚悟していた。普通、外法で用いるのは本当に小さな魔石だ。しかしそれでも強烈なショック症状や拒否反応を引き起こす。では十五階層相当の大きな魔石を用いたらどうなるのか。
『もしかしたら、死んでしまうかもしれないねぇ』
いっそ楽しげに、〈御伽噺〉はそう嘯いた。死のリスクというものを、彼はもちろん承知していた。しかしそれでもなお、彼は実験を止めようとは思わなかった。長命種になって迷宮の謎を解き明かすことができないのであれば、ここで死んでしまおうとも同じこと。彼は本気でそう考えていた。
彼は実験を敢行した。そしてその結果は、さんざんな失敗だった。
『予想は、していたがね……!』
そんな軽口が叩けるのは、〈御伽噺〉が優れた武芸者であることの何よりの証明である。それくらい、実験に失敗した直後の彼の有様は酷いものだった。
〈御伽噺〉が魔石からマナを吸収したその瞬間凄まじい衝撃が、それこそ身体が内側からはじけ飛んでしまうのではないかと思うくらいの強い衝撃が彼を襲った。その衝撃によって彼は大量に吐血し、さらに鼻と耳と目から血を流し、それだけでなく全身から出血した。強い衝撃によって体中の血管があちこちで切れたのである。いっそ心臓が破裂しなかったのが不思議なくらいだった。
さらに強すぎる衝撃は〈御伽噺〉の内臓にも多大なダメージを与えていた。およそ一ヶ月の間、彼はまともにモノを食べることができず、そしてベッドから起き上がるのにさらに三ヶ月の時間を必要とした。当然、その間は寝たきりで仕事もできず収入もなかった。
これだけの犠牲を払いながら、しかし〈御伽噺〉が得たのは「長命種になれなかった」という結果のみ。だが彼はまったくめげてなどいなかった。
『十五階層相当の魔石でダメということは、恐らくこの方法ではどうやってもダメなのだろうねぇ』
包帯でグルグル巻きにされてベッドの上に横たわりながら、〈御伽噺〉は楽しげにそう呟いた。さらに彼はマナを吸収した直後の様子をもう一度鮮明に思い出す。
あの時、〈御伽噺〉は確かに強い衝撃に襲われた。これは多量のマナを一瞬で吸収したことによって引き起こされたショック症状である。だがその一方で全身をねじ切られるような痛み、自身の許容量を超えるマナを取り込んだことで引き起こされる拒否反応は起きていなかった。
『ショック症状によって集気法が中断され全てのマナを吸収できなかったのか、あるいはただ単に魔石に含まれるマナの量が私の許容量より少なかったのか……』
いずれにしても、〈御伽噺〉が必要としている超高濃度のマナは得られなかった。そして外法に使う魔石の数を増やしても結果は同じであろう。マナの総量は増えるだろうが濃度が高くなるとは思えないし、なによりショック症状がさらに大きくなったら本当に死んでしまいかねない。死ぬ覚悟はあるが、決して死にたいわけではないのである。成功の可能性が低い方法に命をかける気にはなれなかった。
『だが、方向性自体は間違っていない』
問題なのは、魔石よりも高濃度のマナをどこから調達してくるのか、ということである。そしてその候補地はやはり一つしかない。言うまでもなく、迷宮である。
『しかし、魔石以外のどんな形で迷宮からマナを持ち出せばいいのやら……』
悩みながらも〈御伽噺〉は楽しそうだった。自分が長命種に向かって着実に進んでいるという実感があったからだろう。
ともかく考えるべきことは二つ。一つ目は、自分が行ける範囲の階層に超高濃度のマナがどのような形で存在しているのか。二つ目は、そのマナをどのようにして外に持ち出すのか。最悪、持ち出せなければその場で吸収してもいいのだが、それだと死ぬ可能性が極めて高くなるのでできれば避けたいところだった。
『マナ……。マナの塊……』
ベッドの上で身動きが取れない状態のまま、〈御伽噺〉は考え続ける。そしてついに彼はその存在に思い至った。いるではないか。魔石をも超える濃密なマナの塊。魔石をドロップする存在。すなわち、モンスター。
ではどうやってモンスターを迷宮の外に連れ出すのか。普通に捕獲する? いいや、ダメだ。どれだけ弱いモンスターであろうとも、都市の中にモンスターを連れ込むという行為を都市国家政府が容認するはずが無い。必ずや迷宮の入り口で露見し、その場で始末されてしまう。
それに、よしんばモンスターを捕獲して外に連れ出せたとしても、それが可能なのは一階層かよくても二階層が限界だろう。そんな浅い階層のモンスターでは役には立つまい。もっと深い階層、できることならば十階層より下からモンスターを連れてこなければ、〈御伽噺〉が望む超高濃度のマナは手に入らないだろう。
『何か、もっと別の方法を考えないといけないねぇ……』
動けないのをいいことに、〈御伽噺〉はベッドの上で考えを巡らせ続ける。もしかしたら迷宮に潜っているときよりも活きいきしているかもしれない。
『そもそもモンスターとはどのような存在なのだろうか?』
独白するようにして、〈御伽噺〉は自分にそう問いかける。そしてその問い掛けに自分の中の知識を総動員して答える。
モンスターとは、迷宮の中で発生する仮想生命体である。仮想生命体であるため、動物のように動きはするが、しかし動物のように生殖活動によって子孫を残し種を存続させることはまったくしない。そのため極めて強い破壊、あるいは殺人衝動に突き動かされて行動している。
モンスターはマナの塊である。迷宮内に存在するマナが収束してモンスターは出現する。そして倒されると再びマナへと還るが、しかし全てが還元されるわけではなく、魔石やドロップアイテムという形で幾らかは残る。
『…………もしかしたら、モンスターと言うのはマナが安定するための一つの形なのかもしれないねぇ』
そう考えれば、より安定した存在である魔石やドロップアイテムを残すことも一応説明できるようになる。つまり、不安定なマナがモンスターと言う形を取ることで安定しようとし、さらにその中でもより安定したマナが魔石やドロップアイテムという形で後に残るのだ。
『いずれにしても……』
いずれにしても、モンスターをマナの塊として見た場合、その濃度は周りの濃度よりもはるかに高いと期待できる。ドロップする魔石よりも濃度が高いのかは分からないが、試してみる価値は十分にあるといえるだろう。
『では、どうやって捕獲しようかねぇ?』
そう呟きながらも、〈御伽噺〉の頭にはすでに方策が浮かんでいた。その方策とは、彼の個人能力である〈覚書きの書〉を使うことだ。
モンスターは仮想生命体である。つまり、生命体ではない。であるならば、もしかしたら〈覚書きの書〉の中に捕らえてしまうことができるかもしれない。〈御伽噺〉はそう考えたのである。
ベッドから起き上がれるようになるとすぐ、〈御伽噺〉は迷宮に潜った。本当に〈覚書きの書〉を使ってモンスターを捕獲できるのか、実験してみるためである。周りには、「身体がなまってしまってのでリハビリだ」と言っていたが。
〈御伽噺〉が向かったのは、迷宮の一階層の人が滅多に来ない場所にある広場だった。しかもおあつらえ向きなことに、〈御伽噺〉がその広場に足を踏み入れた瞬間、手ごろなモンスターが一体だけ出現してくれた。
彼はすぐに実験を開始した。左手に開いた〈覚書きの書〉を持ち、右手には烈を集める。そしてその状態で彼は素早く間合いを詰め、そして右手でモンスターに触れた。
相手がただの荷物であれば、これで〈覚書きの書〉に収納することができる。しかし残念なことに、いくら個人能力の発動条件を満たしても、モンスターを〈覚書きの書〉に捕らえることはできなかった。
『ふむ……、無理、か……』
何度か繰り返して挑戦を行い、そしてそれがことごとく失敗すると、〈御伽噺〉は無念そうな口調でそう呟いた。そして用済みになったモンスターをその状態のまま、つまり左手に開いた〈覚書きの書〉を持ったまま、烈を集めた右手の手刀で片付けた。
その瞬間、起こるべきはずのことが起こらなかった。
モンスターを倒せば、そのモンスターはマナへと還元されて大気中に拡散していく。そして後には魔石とドロップアイテムが残る、というのが普通起こるはずのことだ。しかし、それが起こらなかった。
モンスターが倒されマナへと還元し始めたその瞬間に、大気中に拡散していくより前に、モンスターを構成していたマナが忽然と消えてしまったのである。後に残るはずの魔石も見当たらない。
『は…………?』
予想外の展開に、〈御伽噺〉は間抜けな声を上げた。それから彼はノロノロと視線を右手に向ける。そこには集めておいたはずの烈がない。そう、まるで個人能力を発動した後のように。まさか、という思いが彼の頭をよぎる。小さな期待を抱きながら彼は、やはりノロノロとした動きで今度は左手にもった〈覚書きの書〉に視線を移す。
【マナ(臨界状態) 一】
左手に持った〈覚書きの書〉にはそう記されていた。
『ふ、ふふ、ふ…………』
視線を〈覚書きの書〉に釘付けにしたまま、〈御伽噺〉は笑い声を零す。その笑い声はすぐに高笑いへと変わった。
『そうか! そういうことか!!』
例え仮想生命体であっても、モンスターは生命体としてカウントされる。しかし一度倒してしまえばもはや生命体ではなくなり、ただのマナの塊としてカウントされるのだ。そしてマナの塊は生物ではないので〈覚書きの書〉に収納できる。今起こったことをまとめるとこうなるだろう。
『ククク……。想定外の、いや想定以上の結果、というべきなのだろうねぇ……』
狂喜に顔を歪ませながら〈御伽噺〉はそう呟いた。モンスターを捕獲するどころか、純粋なマナの塊が手に入った。問題は濃度だが、これは下の階層に行けばさらに高くなると期待できる。今はこの望外の結果に喜ぶべきだろう。
予想外の結果に喜びつつも、〈御伽噺〉はこの結果をもとにさらに考察を深める。モンスターになっていない状態ならば、マナを〈覚書きの書〉に収納できる。であるならば、わざわざモンスターが出現するまで待つ必要はないかもしれない。出現する前、つまり兆候の状態で〈覚書きの書〉に収納してしまえばいいのである。
ただ収束中のマナを奪取してしまうと、量が少なくなったり濃度が低くなったりすることが考えられる。手に入れるマナの質を考えると、一度出現したモンスターを倒してから、マナを〈覚書きの書〉に収納するのがやはり最も良いように思えた。
『まあ、色々試してみることにしようか』
狂気の滲む笑みを浮かべながら、〈御伽噺〉はそう呟く。自分は長命種になるための大きな一歩を踏み出した。その確信が、彼にはあった。