ミジュクモノタチ7
「それじゃ、乾杯!」
「「「「乾杯~!!」」」」
ノートルベル学園の近くには、学生たちを目当てにした飲食店などが軒を連ねている。そのうちの一つ、昼間は食堂だが夜になるとお酒も出す店で、若いハンターたちが歓声を上げながらグラスを掲げて打ち鳴らした。
メンバーを名前だけ紹介すると、ロイニクス・ハーバン、ルーシェ・カルキ、ソルジェート・リージン、イヴァン・ジーメンス、テミストクレス・バレンシア、クルーネベル・ラトージュ。いわゆるロイニクス班と呼ばれるパーティーの面々だ。そしてさらに二人、ルクト・オクスとラキア・カストレイアもこの席に混じっていた。
「実技要件の達成、おめでとさん」
「ありがと。ま、怪我人を出すこともなく達成できて、リーダーとしては肩の荷が一つ下りた感じだよ」
ルクトが差し出したグラスに軽く自分のグラスをぶつけながら、ロイはしみじみとした口調でそう言った。彼に限って言えば、喜びよりも安堵の方が大きいように見えた。パーティーリーダーともなれば、そういうものなのかもしれない。
『十階層以下で取れる魔石を、一人につき五個以上集めること』
それが、ノートルベル学園武術科の定める、実技の卒業要件だ。このたびロイたちのパーティーは十階層で三十個の魔石を集め、その要件を見事に達成したのである。この宴はその祝勝会、というわけだ。ちなみにこの祝勝会自体は、年が明けてから開いている。年末年始は色々と忙しかったのだ。
「そのうえ〈エリート〉だもんな。文句なしに将来超有望だ」
さらにロイたちが実技要件を達成したのは、五年生の年が変わる前のことだった。この時期までに実技要件を達成した者たちを、武術科の学生たちは羨望とやっかみを込めて〈エリート〉と呼んでいた。
その呼び名そのものに意味があるわけではないが、〈エリート〉となったパーティーが相当に優秀であることは間違いない。そして、優秀な武芸者が喉から手が出るほどに欲しいギルドにしてみれば、真っ先に勧誘すべき人材であり、また実際に引く手数多だ。加えて、この先卒業まで一年以上の時間が丸ごと残っていることも大きい。これらのことを合わせて考えれば、〈エリート〉とは大手ギルドの幹部の椅子がグッと近くなる、まさにエリートな存在なのである。
「ウチのパーティーは半分が留学生だから、あんまり意味ないけどねぇ」
苦笑気味にロイはそう答えた。〈エリート〉が注目されるのは、あくまでもカーラルヒス内での話である。留学生が故郷の都市に帰れば、〈エリート〉であること、つまりいつ実技要件を達成したのかはあまり意味がない。留年したとなると話はまた別だが、最終的にノートルベル学園武術科の卒業証書を持って帰れば大した差はないのである。
「まあ、早く達成するに越したことはないし、わざわざ遅らせる理由もないからね」
自分たちのペースで攻略を進めていったら、結果的に〈エリート〉になった。ロイはそう言う。〈エリート〉になりたくてもなれなかった同級生や卒業生たちが聞いたら嫉妬のあまり暴言の一つも吐きそうな言葉だが、実際〈エリート〉になるようなパーティーというはそういうものなのかもしれない。
「ま、狙ってなるようなものでもないか」
「僕なんかはそう思うんだけどね」
それに見合う実力があれば自然とそうなる。〈エリート〉とは、そもそもそういうものなのかもしれない。もっとも、これはルクトやロイが留学生だからできる、一歩引いた見方だろう。カーラルヒスでハンターとしてずっと暮らしていく者にとっては、それはやはり狙うに値する栄誉なのだ。
「ま、イヴァンとルーシェ、それにクルルは地元の出身だし、内心ではそれなりに喜んでいるかもね」
学生ではないクルルは厳密に言って〈エリート〉ではないのだが、それはそれとして。〈エリート〉になれた事は、彼らの今後にプラスになることは間違いない。ただ少し前にイヴァンが言ったとおり、〈エリート〉とはパーティー単位で評価されるものなのだ。バラバラの個人ではそこまでの評価はされないだろう。あくまでも参考程度になるはずだ。
「イズラさんから少し聞いたけど、もう勧誘されてるんだろ?」
「まあね。でもパーティー丸ごと、って話だったからみんなと相談して断ったよ」
ロイは苦笑を浮かべながらそう言った。実際、幾つかのギルドからはすでに勧誘を受けたと言っていたし、その中には大手ギルドの名前も含まれていた。〈エリート〉が将来の幹部候補の筆頭であることは彼らも知っている。だがそれでも、彼らは勧誘を断っているという。
「やっぱり卒業したらこのパーティーは解散するのか?」
「そうなるだろうね。惜しい気もするけど」
特にテミスは入学当時から「卒業したら故郷に帰る」と明言している。「自分がカーラルヒスに来たのは、ここで学んだことを故郷の都市に還元するためだから」と。彼女の決意は固い。ロイも、テミスほどではないにしろ、やはり「故郷に帰らなければ」という思いがある。それは一種の使命感と言い換えてもいいものだ。
カーラルヒスに残りハンターとして活躍すれば将来は安泰であろう。大手ギルドの幹部ともなれば、それ相応に地位と名誉も手に入る。そういうものに未練がないといえば嘘になる、とロイは素直に認めた。
「だけど、そのためにカーラルヒスに来たわけじゃないしね」
初心は貫徹しないと、とロイは言う。ただ、彼やテミスがその初心を抱いたのは遅くても十五か十六歳のときだ。その頃の初心を貫くのは難しい。状況はもちろん、考え方だって変わるからだ。彼らの意志の強さと初心の高尚さが、ルクトには少々眩しくもあった。
ちなみに、先程から同じく留学生であるはずのソルの名前が出てこないが、まあ大した問題ではないだろう。というより、彼に貫徹すべき初心があるようには思えない。少なくともルクトは知らないし、他のパーティーメンバーも知らないだろう。
「まあ、僕たちはいいとして、君はどうするんだい、ルクト?」
グラスに注がれたリキュールを少しだけ含み、テーブルの上に並べられたつまみに手を伸ばしながらロイはそう尋ねた。周りではメンバーたちが思いおもいに騒いでいる。ソルなどはすでに三杯目のアルコールに突入しているらしい。そんな騒がしくも楽しげな様子に少しだけ笑みを漏らすと、ルクトも自分のグラスに口をつけた。
「ホント、どうすっかねぇ……」
どこか困った様子さえ見せながら、ルクトはそう答えた。卒業後にどうするのか、彼はまだ決めかねていた。幾つかのプランは考えてあるが、どれを選ぶべきなのか迷っているというのが実情だ。
「まあ君の場合、いざとなればどうとでもなるんだろうけどさ」
個人能力〈プライベート・ルーム〉がある限り、ルクトが仕事に困ることはないといっていい。それはどの都市でも同じだ。迷宮の有無は関係ない。迷宮攻略にしろ運送業にしろ、〈プライベート・ルーム〉の使い道は幾らでもある。
もっとも安直な未来としては、このままカーラルヒスに残って合同遠征を続けることだろうか。仮に今のままの頻度だとしても、月に400万シク稼ぐことができる。破格の高収入だ。それに合同遠征で稼げれば、無理をして普通の遠征を行う必要はない。つまりローリスクハイリターン。ものすごく美味しい。
もちろん、故郷に帰ってもいい。ヴェミスでも合同遠征的なことはできるだろう。つまりやろうと思えば同じくらい稼げるのだ。ちなみにこれが最有力候補ではある。
またハンターを辞める、という選択肢もある。迷宮に潜らなくても、〈プライベート・ルーム〉を活用する方法はある。命の危険が格段に少なくなる、という面においては一考の価値がある選択肢だろう。
「ホント、どうすっかねぇ……」
ルクトはもう一度困ったようにそう呟いた。彼が取りえる選択肢は多い。そして細かく分けていけばさらに多くなるだろう。そしてその多さが曲者で、問題だった。
(借金を完済するのは揺るがないけど……)
今まではそれが全てだった。しかしそれももうメドが立ってきている。だからこそ、その先のことを考えるようになったのだ。そして今、こうして悩んでいる。
「友人として一つ言わせて貰うと、便利な能力を持っているからといって、便利な人間になるのは違うと思うよ」
意外にも真剣な口調でロイはそう言った。彼がどういう意味で「便利な人間」と言ったのか、ルクトにも正確にはわからない。だが彼はその言葉を意外なほどすんなりと受け入れることができた。
便利な人間というのはある面、必要とされる人間のことだ。人や社会から必要とされ求められることは心地よい。それはその人の自尊心を満たすし、社会的な地位と名誉も保障してくれるだろう。
だが、求められる仕事を言われるままにこなす人間というのは、ある意味で道具と変わらない。「人間は社会の歯車である」と昔の偉そうな奴が偉そうに言ったそうだが、しかし人間には「自由意志」というものが存在している。それはただの歯車にはないものだ。
いや、社会の歯車になることが悪いと言っているわけではない。社会の中で暮らす以上その一部に、つまり歯車になるのは必然的な事ともいえる。それが嫌ならば社会から逸脱して生きていくしかない。
だが、何度も言うが人間は明確な意志を持つ生き物だ。その意思を無視されるならば、どんな地位も名誉も無意味である。
『願わくば望む人生を』
ロイはそんな意味で先程の言葉を言ったのかもしれない。ルクトはそんなふうに思った。
「覚えとくよ」
望むということは、自ら決めるということ。思えば、ルクトは今までの人生の中で重要なことはほとんど全てメリアージュに決めてもらっていたような気がする。年齢的なことを考えればそれは仕方のないことなのかもしれないが、独り立ちするのであれば当たり前に自分のことは自分で決めなければならない。借金と言う縛りがなくなるのであればなおのこと、だ。
「しっかし、オレらも卒業後のことを考えるような学年になったか……」
酒盛りの喧騒の中、ルクトはしみじみとそう言った。それから溶かしたチーズがたっぷりとかかったジャガイモを一切れ口に放り込む。うまい。チーズの塩気にジャガイモの甘みが負けていない。
「ホントにねぇ……。まあ、あと一年半くらいあるし、まだ焦る必要なんてないんだろうけど……」
そう言ってロイはグラスの中身を飲み干し、さらにウェイトレスのお姉さんにお代わりを注文する。
「……僕も、いろいろと決めなきゃいけないかな……」
かろうじて聞き取れる程度の小声で、ロイはそう呟いた。ただ周りの喧騒にかき消され、聞き取れたのは隣にいたルクトだけだろう。「それはクルルのことか?」とルクトがロイに尋ねようとした矢先、ラキアが二人のほうに近づいてきた。
「な、なあロイ。わたしはこの席にいていいのか?」
少し居心地悪そうにしながらそう尋ねたのはラキアだ。彼女はロイニクス班のメンバーではないし、またルクトのように元のメンバーというわけでもない。この祝勝会に出席するのは、少々場違いなように彼女は感じていた。ただそのわりに楽しんでいるようでもある。少なくとも、顔に朱が刺しているのはアルコールのせいだろう。
「大丈夫、大丈夫。みんな知らない仲じゃないし、賑やかな方が楽しいからね」
ロイは気楽な調子でそう言った。クルルの家に下宿してレイシン流道場に通っているラキアは、その縁でロイニクス班のメンバーたちとも面識がある。特にクルルやロイとは道場で一緒に稽古もしており、ただの友人よりももう少し深い仲になっていた。なによりめでたい席なのだ。無粋なことを言っていては興醒めだろう。
「それに、ルクトの奢りだしね!」
ルクトが実技の卒業要件を達成したのは三年生のときのことだ。その時、元パーティーメンバーであったロイたちが祝勝会を開いてくれた。その席は彼らの奢りだったのだが、その時ルクトは「ロイたちが実技要件を達成したら今度はルクトが奢る」という約束をさせられてしまったのだ。その時想定していた人数よりも今日は二人ばかり多いが、それこそ無粋なことは言いっこなしだろう。
「あー、はいはい。好きに飲んで食ってくれ」
両手を軽く上げて降参のポーズを取りながら、ルクトは少々投げやりな口調でそう言った。もちろん奢ることに(貧乏性ゆえの)抵抗はある。だがソロでやっているために孤立しがちな自分に何かと気を使ってくれるこの友人たちに、ルクトは大仰な言い方をすれば恩を感じているのだ。
面と向かって礼を言ったことはないし、またこの先も言うことはないだろう。だから、というのは変かもしれない。だがそれが正直な気持ちでもある。こういう形で感謝を表せるなら、自腹を切ることくらい別に構わなかった。
それと、この店は学生相手だから価格帯がそんなに高くない。十分に飲み食いしても一人5000シク程度だろうとルクトは見積もっている。幾らなんでも合計で5万シクは超えまい。そんな計算も決断の裏にあったり無かったり。
「はいは~い! みんな、ルクト先生の言質取れました! 好きなの頼んでいいよ!」
ことさら明るい声でロイがそう宣言すると、メンバーたちも歓声を上げた。ほどよくアルコールも回っているのか、みんなテンションが高い。普段は控えめなクルルでさえ満面の笑みを浮かべながらルーシェとメニューを覗き込んでいる。
「なあ、ルクト……。本当にいいのか?」
「いいよ。ラキも好きなの頼め」
部外者であることを気にしているのか、ラキアはどこか気まずそうに尋ねたが、ルクトは気にしたそぶりもなかった。友人たちの喧騒を苦笑気味に眺めながら、グラスを傾けてチビチビやっている。
しばらくするとテーブルの上には料理が所狭しと並べられた。お酒のほうも全員が一杯以上飲んでいる。そんな宴の真っ最中、ロイと入れ替わるようにしてイヴァンがルクトの傍にやって来た。
「今日はご馳走さん。しかし、まさかいまだに300シク弁当をやめないルクトから飲み代を奢ってもらうとは、な」
どこかしみじみと、そしてからかうようにしてイヴァンはそう言った。ちなみに彼も300シク弁当の常連だったのだが、少し前から350シクの弁当がメインになり、時々頑張って400シク弁当にも手を出しているらしい。堕落である。
「おう、感謝しろよ」
偉そうにふんぞり返るルクトに、イヴァンは神妙に頭を下げる。だが、小芝居は数秒ともたず、二人は揃って吹きだし声を上げて笑った。そしてひとしきり笑うと、それぞれ手に持ったグラスを軽く打ち合わせる。
「……そういえば、サミュエルの奴はどうなった?」
つまみのベーコンに手を伸ばしながら、イヴァンはそう尋ねた。どうやら彼らのことは同級生の間で、いや武術科のなかで結構話題になっているらしい。ルクトはそういう噂話には気がつかなかったが、それは渦中のど真ん中近くにいたからだろう。決してソロでやっているが故の弊害ではない、と思いたい。
「元の鞘に収まったよ」
ま、一番現実的な決着だな、とルクトはグラスを傾けながら答えた。年が変わったこの一月から、サミュエルは再びパーティーの一員としてタニアたちと共に迷宮に挑んでいる。
『まずは一ヶ月時間をやる。その間に多少なりともまともになれ』
サミュエルはパーティーのメンバーからそう言われていた。そして「その間に進歩が見られなければパーティーを抜けてもらう」とも。
「それじゃあ、サミュエルも少しはまともになった、ってわけか……」
「オレたちも付き合ったんだ。それ相応の成果は出してもらわないとな」
パーティーから除名されることなく、また一緒に攻略を再開したのだ。メンバーが最低限納得するだけの実力は身につけた、と言っていいだろう。もっとも、一ヶ月ひたすら特訓を続けていればそれくらいの成果は上がって当然、というのがルクトの言い分だ。
「それに、年が変わってしまったのも大きいだろうな」
「〈エリート〉、か……」
イヴァンの言葉にルクトは頷いた。サミュエルは〈エリート〉を目指していた。留学生である彼にとって〈エリート〉になることがどれほどの意味を持つのか定かではないが、目標の一つとして目指していたことは事実だ。それが特訓に明け暮れている内に年が変わってしまい、〈エリート〉になることは不可能になってしまった。
「諦めがついたんだろうな。なんていうか、ようやく地に足が着いた、って感じだったよ」
ルクトの話を聞くとイヴァンは「そうか」と言って、安心したように少しだけ笑みを浮かべた。武術科の学生たちの中には、一種の仲間意識がある。もちろんパーティー内での仲間意識が一番強いのだが、学年内や学科内でもそれは存在する。それで直接口には出さなくとも、イヴァンのように同級生を気にかけている連中は結構いるのだ。
「それにしても、サミュエルたちじゃなくて俺たちが〈エリート〉になるとはな……」
世の中は意地悪にできている、とイヴァンは皮肉っぽく言った。強く望んでいた者の手からは零れ落ち、特に意識していなかった者の手に転がり込む。確かに、どうにも意地悪な仕様だ。とはいえ、世の中そんなものなのかも知れない、とルクトは思った。
「それで、どうなんだ? 〈エリート〉になってみて」
「思っていたよりも面倒くさいな」
意外なことに、イヴァンは少し顔をしかめながらそう言った。イヴァンは地元の出身。だから〈エリート〉の栄誉はこの都市で暮らしていく彼にとっては得がたいもののはず。だが彼は顔をしかめたままグラスを口に運び、それからこう言った。
「勧誘が多い。それは分かっていた。けど、俺にロイたちを説得しろと言ってくるのは、さすがにどうかと思う」
うっとうしげにイヴァンはそう言った。ギルドが一番欲しいのは〈エリート〉になった個人ではなくパーティーだ。だがロイニクス班の半分は留学生で、卒業後にパーティーは解散する。
説得しろ、というのはロイたちがカーラルヒスに残るようにしろ、という意味だろう。そしてパーティーごとギルドに引き込む。確かにそれができれば最上ではある。
だがそのために地元の学生であるイヴァンを使うことに、ルクトは少なからぬ嫌悪感を覚えた。恐らくギルド側はイヴァンに対して内定だけでなく、幹部候補の座もチラつかせたはずだ。彼にとってそれが魅力的なことを十分に承知しているのだから。
だがそういうやり口が、ルクトはどうにも好きになれない。そしてそれはイヴァンも同じだろう。顔をしかめる彼を見て、ルクトはそう思った。
「……ということは、ルーシェやクルルのほうにも?」
「来てるんじゃないのか、こういう話は」
本人たちからそれと聞いたことはないが、とイヴァンは付け足した。
「それにどの道、説得なんて無理だ」
苦笑しつつも晴々とした表情を浮かべそう言うイヴァンに、ルクトも苦笑しながら頷きを返す。ロイやテミスの意思は固い。説得されてそれを曲げることはないだろう。
「まあ、実際問題惜しくはある」
このパーティーはいいパーティーだからな、とイヴァンはどこか誇らしげに言った。手練れが六人集まれば一流のパーティーになるわけではない。人間である以上、どうしてもメンバーの相性が問題になってくる。中には利害関係だけで結びつくパーティーもあるから、雰囲気がよく連携が取れるパーティーが解散するのを惜しく思うのはある意味当然だった。
「けどまあ、初めから分かっていたことだ。今更どうしようとも思わん」
さばさばとした口調でイヴァンはそう言った。学生である以上避けられないこと。そう思って割り切るしかないのだ。
「どうしたお二人さん、辛気臭い顔して!?」
やたらハイテンションな声と共に、話し込んでいたイヴァンとルクトの首に両腕を回してきたのはソルだ。彼の息はアルコール臭く、どうやら随分と飲んでいる様子だ。
「楽しめよ! 今日はめでたい宴だろ!?」
ソルは楽しげな様子でそう言うと、少しだけ声を潜めどこか寂しげな様子を見せながらこう付け足した。
「……このメンバーで飲むことなんて、後何回もないんだから、さ」
「……そうだな。せっかくルクトの奢りだしな」
イヴァンはそう言うと手を上げてウェイトレスのお姉さんを呼び、「一番高いお酒持って来て!」と注文を出した。
「ちょ……!? おま……!」
「テミス、ついでになんかつまみも頼めよ」
「それでは生ハムを。結構いけますわ」
「あの……、皆さん、食べきれないんじゃ……?」
「大丈夫よ、クルル。余ったら持ち帰るから」
「ルーシェ! オミヤ代までは出さないぞ!」
「あら、お土産じゃなくて残り物よ? 捨てるなんて勿体無いじゃない。さ~て、何頼もうかしら?」
「そうそう。なんだったら明日の朝の分も持ち帰ればいいよ」
「ロイ! 貴様なんてことを!」
「ルクト、往生際が悪いぞ? あ、この『牛筋の煮込み』下さい」
「ラキ……、お前もか……!」
勘弁してくれ、と言わんばかりに孤立無援のルクトは天を仰いだ。ただし、目に入るのは年季の入った居酒屋の天井だが。
楽しげな喧騒の中、ルクトはグラスを煽り中身を一気に飲み干す。地味にお会計が心配になるルクトであった。
サミュエルのお話は一応ここまでです。
次からはタイトルは変わりませんが、別のお話になります。
さてさて、次なるミジュクモノは……?
気長にお待ち頂ければ嬉しいです。




