二人一組4
合同遠征の三日目。ルクト・オクスとラキア・カストレイアはまだ十階層にいた。稼ぎを充実させるために地底湖に寄ったので、その分時間がかかってしまったのだ。今日一日全てを先に進むことに費やせば十一階層に到達することはできるだろう。しかし明日のお昼には合同遠征の帰路に着くことになる。ルクトはその前に合流地点である十階層の大広間で待機している必要があり、それを考えると今回十一階層までいくのは恐らく無理であろう。
『ショートカットできる場所も見つけた。次はいけるさ』
二日目の夜(とは言っても迷宮内に時間的な変化は起きないが)、目標を達成できそうにないことを知ってむくれるラキアにルクトは苦笑しながらそう言った。
『〈マーキング〉のおかげでマッピングも楽だった』
助かったよ、とルクトが言うと、ラキアは視線を泳がせながら「そ、そうか」と言った。まんざらでもなさそうである。
迷宮のなかは、基本的に白い通路と広場そして岩の柱であるシャフトしかない。どこまで行ってもそれしかないのである。なので、特に初めて挑むような場所は、進んでいるうちに道が分からなくなって迷ってしまう危険性があった。
そこでハンターたちが行っているのが「マッピング」、つまり地図作りである。どんな地図を作るのかは個人によってかなり差があるが、例えば分かれ道のどれを進んだのかなど、抑えておくべき重要なポイントは幾つかある。それを頭において自分やパーティーメンバーが見て分かる地図を作るのが大切だ。ちなみに武術科の座学でも、マッピングの仕方はかなりの時間を割いて教えられている。
ただし、マッピングしたからと言って絶対に迷わないわけではない。山歩きなどの場合と同じように、地図を持っていたとしても迷うことはあるのだ。そのためハンターたちは自分たちが今地図上のどこにいるのか、常に確認しておく必要があるのだ。
さて、ラキアの個人能力〈マーキング〉は人間以外にもマーキングすることが可能だ。そしてマスターであるラキアは、〈マーキング〉の位置を大まかにだが把握することができる。それはつまり、目印として使えるということだ。そしてラキアの〈マーキング〉とマッピングした地図をあわせれば、迷宮の中で迷うことはほぼない、と言えるだろう。
ちなみに〈マーキング〉を認識できる範囲は、ラキアを中心におよそ半径一キロ。有効期限は約一ヶ月だ。その期間が過ぎたら〈マーキング〉は消えてしまうので、改めてマーキングするか消える前に更新する必要がある。ただ、認識できる範囲と有効期限は、両方ともまだ成長の余地がある。
「次回以降のためにも、今日は可能な限り進まないとだな」
「気負うのはいいけど、時間が来たら撤収するからな」
やる気に溢れるラキアに、ルクトはそう言って釘を刺しておく。忘れてはいけない。今は合同遠征中なのだ。ルクトは集合時間前に十階層の大広間に戻らなければならない。時間厳守は集団行動の基本である。
「分かっているさ。引き際を見極めるのは大切だからな」
遠征中のハンターというのは、基本的に先に進みたがるものだ。だが現実問題として先に進み続けることはできない。食料が残っているうちに撤収して帰って来なければならないからだ。
引き際を誤れば、移動の速度を上げるためにトロッコを含む一切の荷物を放棄することにもつながりかねない。もっとも、そうなったとしても全員が無事に帰って来られれば、一週間後には笑い話にできるだろう。だがこういう場合、一人二人メンバーが死んでしまうことも決して珍しくない。
ヴェミスで普通に遠征をしていたラキアの言葉には実感が篭っていた。恐らく彼女は引き際というものをルクトよりも重く受け止めているのだ。
とはいえ、まだ時間的な余裕はある。大広間には四日目の昼前までに戻ればよく、ルクトとラキアは夕食を少し早めに取る事にして、それまでは先に進むことにした。そして夕食を食べて一休みしてから撤収する予定である。もちろん、適当な時間になったら〈プライベート・ルーム〉に引っ込んで休むが。
そんなわけでルクトとラキアはまだ十一階層を目指して進んでいた。これまですでに何度もモンスターと遭遇し戦闘を行っているが、どれも危なげなく勝利を収め戦果を得ることが出来ている。二人のコンビネーションは戦闘を重ねるごとに滑らかになり、まるで何年もコンビを組んでいるかのような気配さえ感じさせていた。同門で技の特性や性格を互いによく知っているのが大きいのだろう。
さて迷宮の白い通路の上を進んでいくと、その先に広場が現れた。直径はおよそ五十メートルといったところか。十分に広いと言えるだろう。
「広場だ」
「広場だな」
見れば分かることを口にするラキアとルクト。そもそも進む先に広場があるのは随分前から見えていて、改めて口にするようなことではない。だが、二人の口調には警戒が滲んでいる。広場にはモンスターが出現しやすい。二人ともそのことは十分に承知しており、つまりあえて口に出すことで彼らは臨戦態勢に入ったのだ。
集気法を使ってマナを集め、十分な量の烈を練り上げる。そして互いに目配せしてから、二人は広場に足を踏み入れた。
その瞬間、揺らめく光が三つ、広場に現れる。そしてその光にマナが燐光を放ちながら収束していく。モンスターが出現する前兆だ。もう見慣れた光景だが決して気は抜かず、むしろ条件反射的にルクトとラキアは緊張を高める。そして間合いを詰めすぎないようにしながら、二人は広場の中心近くまで進んだ。ふちで戦えばそれだけ墜落の危険性が高まるからだ。
二人が見据える前で、揺らめく光が一際強い輝きを放つ。ついにモンスターが出現するのだ。
「〈ゴーレム〉が混じってるな……」
少し苦い口調のルクトが言うとおり、出現した三体のモンスターの中には〈ゴーレム〉が混じっていた。もう二体は〈シバリオン〉と〈エレメント〉で、これはそれぞれ〈ゴーレム〉の左右に距離を空けて出現している。
〈シバリオン〉の見た目は狼に似ている。ただし普通の狼と比べ、二倍は大きな体躯をしていた。身体を覆っているのは毛皮でなくザラついた皮。そして前足からは巨大なブレード状の(恐らくは)骨が突き出している。さらに上顎からは巨大な犬歯が二本突き出していて、全体から感じる凶悪さは狼の比ではなかった。
もう一体の〈エレメント〉は少々特殊なモンスターだ。見た目は生物ではなくクリスタル。大きな核を中心にして、まわりに小さなクリスタルが浮かんでいた。分類としては〈ゴーレム〉などに近いのだろう。腕もなければ足もなく、格闘戦にはまるで向かない造りをしている。ただその代わり、例えば火炎弾を飛ばすなどの遠距離攻撃を得意としていた。
(〈ゴーレム〉は、面倒臭いな……)
主に武器との相性の問題で。簡単に言えば、太刀は斬る事に特化した武器で、硬くて頑丈な敵は苦手なのだ。もちろん苦手なだけで、決して倒せない相手ではないが。
ちなみに〈シバリオン〉と〈エレメント〉は相性的に言えば悪くない相手だ。〈シバリオン〉は普通に斬れて刺せるし、〈エレメント〉のコアは脆い。
「……なあ、ラキ。〈ゴーレム〉は無視……」
「しない。倒す」
だよな、とルクトは苦笑気味に心の中で呟いた。〈ゴーレム〉は足が遅い。だから他の二体を倒してしまえば、〈ゴーレム〉を無視してドロップを回収し、先に進むのはさほど難しくない。もっとも、荷物の全てを〈プライベート・ルーム〉に放り込んであるので難しくないのだが。
だが、ラキアはそうはしないで〈ゴーレム〉も倒すという。まあ、確かに「面倒だから」とモンスターを避けていては攻略にならないのも事実だ。
「まずは〈エレメント〉を潰せ。〈シバリオン〉はオレがやる。〈ゴーレム〉は二人でやるぞ」
「分かった」
そう言うが早いか、ラキアは一気に駆け出した。その動きに反応したのか、〈エレメント〉が氷柱に似た氷弾を打ち出す。それを最小限の動きで滑らかにかわしながら、ラキアは間合いをどんどん詰めていく。彼女の視線の先にいるのは、〈ゴーレム〉だ。
真正面から突っ込んでくるラキアにタイミングを合わせるようにして、〈ゴーレム〉はゆっくりとその岩石でできた太い両腕を振り上げる。そして肉薄してきたラキアが間合いに入ると、〈ゴーレム〉は勢いよく両腕を振り下ろした。
握り締めた〈ゴーレム〉の拳が、広場の白い床にめり込む。だがその拳の下にラキアの身体はない。当たるギリギリの瞬間を見極め、ラキアは燕のように身を翻してその攻撃をかわしている。だが、彼女は〈ゴーレム〉に一太刀浴びせることはしない。むしろそのまま〈エレメント〉のほうに向かった。つまり、攻撃させることで〈ゴーレム〉の足を止めたのである。
間合いを詰めてくるラキアに対し、〈エレメント〉は再び氷弾を放った。しかしラキアは太刀を鞘から走らせると、襲い来る氷弾をまず二つ弾き飛ばし、返す太刀でもう一つ切り捨てる。そして素早く間合いを詰めると、ラキアは宙に浮かぶ〈エレメント〉のコアに太刀を突き刺した。
ビキリ、とガラスにひびが入ったときのような音が響く。コアを貫かれた〈エレメント〉は何度か光の点滅を繰り返すと、やがて二つに割れて広場の床に落ちた。周りに浮かんでいた小さなクリスタルも同じようにパラパラと落ちる。
「ラキ! 後ろだ!」
〈エレメント〉を仕留めたラキアが会心の笑みを浮かべるより早く、ルクトの鋭い声が飛んだ。すぐさまその声に反応し、ラキアは後ろに振り向きながら距離をとるようにして飛ぶ。彼女の後ろから迫っていたのは、〈シバリオン〉だ。前足から突き出た巨大なブレードを振りぬいている。
「ルクト!」
「今やる!」
ラキアが〈エレメント〉を始末している間、ルクトは何もしていなかったわけではない。彼は〈ゲート〉を展開すると、短く、しかし毅然とした口調で「行け」と命じ、左手を振るった。
ルクトの命令に従い、〈ゲート〉が音もなく滑るようにして〈シバリオン〉に肉薄する。〈シバリオン〉は近づく〈ゲート〉に見向きもしない。気配がなくただ気づいていないのか、あるいは脅威にはならないと無視しているのか。ただラキアを見据えて威嚇の唸り声を上げている。
そして〈ゲート〉が〈シバリオン〉の脇腹に触れるかふれないかの近くに来たとき、ルクトは〈ゲート〉をもう一つ開いてそこに太刀を突き入れた。
「グルガアァァァ!!?」
身をよじりながら悲鳴を上げる〈シバリオン〉。その脇腹には〈ゲート〉から突き出した太刀の切っ先が突き刺さっている。ルクトと〈シバリオン〉の間の距離はおよそ十メートル。もちろん太刀の刀身が伸びたわけではない。
刀身の擬似的瞬間移動、とでも言えばいいのかもしれない。二つの〈ゲート〉は入り口と出口。ごく幅の狭い〈プライベート・ルーム〉を間にはさんでいる。そして入り口から太刀を突き入れ、出口からその切っ先を突き出したのだ。
実空間でどれだけ〈ゲート〉を動かしたとしても、〈プライベート・ルーム〉の中に開いてある〈ゲート〉の位置にはなんら影響を与えない。そしてその逆もしかり。だからこそできる、〈プライベート・ルーム〉を応用した、遠距離直接攻撃である。やりようによっては切っ先の突き出た〈ゲート〉を操作することで、もっと多彩な攻撃も可能になるかもしれない。
そして、この攻撃方法には利点がもう一つ。
「そうら、おまけだ」
少々嗜虐的な笑みを浮かべながら右手に握った柄から太刀に烈を送り込む。その烈はおよそ十メートル離れた〈ゲート〉から突き出している太刀の切っ先から、〈シバリオン〉の体内に直接放たれる。
――――カストレイア流刀術、〈螺旋功〉。
二重螺旋を描く烈が放たれ、〈シバリオン〉の体内をズタズタに破壊する。本来〈螺旋功〉は刀身を中心にして二重螺旋を描く烈を放射状に放つ技なのだが、今回は刺さっている刀身の長さが短く、普通に技を放っても効果が薄い。そこでルクトは二重螺旋の烈に指向性を持たせて太刀の切っ先から放ったのだ。練気法の応用である。
悲しげな悲鳴を上げながら〈シバリオン〉がマナへと還っていく。それを見てラキアはいまだ完全には消えていない〈シバリオン〉の脇をすり抜け、その後ろからゆっくりと迫る〈ゴーレム〉に肉薄した。
ラキアが接近してくると、〈ゴーレム〉はその太い腕を振り回した。岩石でできた腕の一撃は重く、また大きな破壊力を有している。だがその反面、重鈍で大味だ。こと鋭さにおいては、カストレイア流を学ぶ者の足元にも及ばない。だからその攻撃を回避することはラキアにとって簡単だった。
「ルクト! 早くしろ!」
「あいよ」
ただし、ラキアのほうからは攻撃していない。彼女は回避に専念し、そうすることで〈ゴーレム〉をひきつけ足止めする。そうしている間にルクトは〈エレメント〉と〈シバリオン〉が残した魔石とドロップアイテムを回収する。回収しておかないと、正確には迷宮の床に放置しておくと消えてしまうのだ。
前述したとおり、ルクトとラキアは主に武器の関係で〈ゴーレム〉とは相性が悪い。だから倒すのには時間がかかるだろう。その間にせっかくの戦果が消えてしまっては元も子もない。それに、消えるのを気にしていては戦いに集中できないだろう。
なのでさっさと回収しておくのだ。幸い〈プライベート・ルーム〉に放り込んでおけばいいだけだし、また〈ゴーレム〉は足が遅いので余裕を持って回収できる。最後に〈シバリオン〉の魔石を回収すると、ルクトは一つ頷いてから〈ゲート〉を消し、太刀を鞘から抜いて〈ゴーレム〉の背後に回った。それを見てラキアは一旦後ろに下がり〈ゴーレム〉から距離をとった。
「足を狙うぞ。右の膝関節だ」
「了解した」
ルクトとラキアはそう短く言葉を交わす。動かさなければならないため、関節はその構造上どうしても他の箇所より脆くなる。つまり弱点だ。ここを狙わない手はない。
前後を挟まれた〈ゴーレム〉は後ろを気にするそぶりを見せ、数秒の間動きを止めていたがやがておもむろに動き始めた。狙いは正面にいるラキア。
「ルクト!」
「分かってる!」
〈ゴーレム〉が狙いを定めたのはラキア。なのでラキアは回避に専念し、ルクトが攻撃を担当する。
ルクトは太刀を振り上げると、そのまま斜めに振り下ろす。だが〈ゴーレム〉は遠く間合いの外。刃は空を切るばかりだ。だが、振り下ろされた刃からは烈の刃が放たれている。
――――カストレイア流刀術、〈翔刃〉。
カストレイア流のなかでは基本的とされている技だ。ただし、ルクトが放ったのはただの〈翔刃〉ではない。練気法を併用し強化したものである。
放たれた〈翔刃〉は狙い違わず〈ゴーレム〉の右膝関節を直撃する。だが動きを止めるには至らない。それを見てルクトは躊躇わずに前に出た。そして低い姿勢で〈ゴーレム〉に背後から近づき、右の膝関節の裏に太刀の切っ先を突きたてる。
――――カストレイア流刀術、〈千鎧貫き〉。
本来は硬い甲殻や鱗を持つモンスターに対し、細分化されて細く鋭い刃となった烈を放ってその内部を直接攻撃して破壊するための技だ。ただ、中まで硬い岩石の〈ゴーレム〉に対しては少々効果が薄いかもしれない。
「グゥオオォォォォオ……!」
しかし効果はあった。〈ゴーレム〉がくぐもった悲鳴を上げる。口などなかったように見える〈ゴーレム〉がどうやって悲鳴を上げているのか、そもそも岩石の塊である〈ゴーレム〉が痛みを感じるのか、ルクトの頭に疑問がよぎる。だが、今はその疑問について考えている場合ではない。
「ラキ、スイッチ!」
そう叫ぶが早いか、ルクトは後ろへ飛んで〈ゴーレム〉から距離をとる。一瞬遅れて、ルクトがいた場所に岩石の拳が叩き込まれた。〈ゴーレム〉が今度はルクトを攻撃目標に定めたのだ。だから、今度はルクトが回避に専念して〈ゴーレム〉をひきつけ、ラキアのほうが攻撃を加えることになる。
ルクトが「スイッチ!」と叫んでもラキアはすぐには動かなかった。まずは集気法を使って烈を補充する。〈マーキング〉で共有化してあるので二人分だ。そして十分な量の烈を練り上げると、一気に〈ゴーレム〉との間合いを詰めて太刀を振るう。狙いは、やはり右の膝関節だ。
――――カストレイア流刀術、〈回旋牙〉。
ラキアの握る太刀の刀身の周りで、烈が渦を巻くようにして回転する。ただ回転している訳ではない。刃のような鋭さを持った烈が幾つも展開され、それが高速で回転しているのである。
ラキアは〈ゴーレム〉の右膝関節の裏に太刀を押し当てる。すると展開された〈回旋牙〉の刃が「ガガガッ!」と鈍い音を立てながら岩石を削る。そう、この技はカストレイア流の中でも珍しく、削り、抉るための技なのだ。
たまらず〈ゴーレム〉はくぐもった悲鳴を上げながら腕をでたらめに振るってラキアを振り払う。どうやらルクトの〈千鎧抜き〉より効果は大きかったようだ。〈ゴーレム〉は再びラキアを狙うようになり、ルクトは攻撃役に戻る。
そうやって何度か回避役と攻撃役を入れ替えながら戦っていると、ついに〈ゴーレム〉の右膝関節が砕けた。前のめりになって倒れる〈ゴーレム〉は、しかし両手を白い床について身を支え完全には倒れなかった。
「ラキ、腕を払え!」
ルクトは右腕を、ラキアは左腕をそれぞれ払って〈ゴーレム〉の支えを奪う。支えを失った〈ゴーレム〉は今度こそ大きな音を立て、白い床の上にうつ伏すようにして倒れた。
「集気法頼んだ!」
そう叫ぶとルクトは太刀を逆手に持ち替え、その切っ先を〈ゴーレム〉の後頭部に突きたてる。そして〈千鎧抜き〉を放ち続ける。
普通、技を放っている間は烈を補充することはできない。だから技を放っていればそのうち烈が切れて、それ以上は技を放つことができなくなる。だが〈マーキング〉によってラキアと烈を共有化しているルクトは、彼女が集気法を使い続ける限り、その烈を使って技を放ち続けることができるのだ。
うつ伏せに倒された〈ゴーレム〉は、しかし再び両手を支えにして起き上がろうとする。〈ゴーレム〉の身体がわずかに持ち上がるが、その上に乗ったルクトは構わずに〈千鎧抜き〉を放ち続けた。
一秒か二秒か。あるいはもっと長い時間が経っていたのかもしれない。〈ゴーレム〉が動きを止め、そして再びうつ伏せに倒れこんだ。その時の衝撃でルクトはわずかにバランスを崩し、〈ゴーレム〉の上から飛び降りて白い床に着地する。油断なく太刀を構えるルクトとラキアの視線の先で、〈ゴーレム〉はマナへと還っていった。
「やったな、ルクト! ……ってルクト?」
満面の笑みを浮かべて幼馴染のほうに視線を向けたラキアはいぶかしげな声を上げた。ルクトがしゃがみ込んで脛を押さえているのだ。どうやら〈ゴーレム〉の腕を払ったとき彼は足を使ったらしい。つまり〈ゴーレム〉の腕を蹴り払って、その時脛をぶつけたのだろう。岩石でできた硬い腕に。ちゃんと脛当てはしているのだが、どうやらそれでも相当痛かったらしい。
「あ~、イテ……。痣になったかな、これ?」
「痣ぐらいで済んでよかったじゃないか。烈を回しておけばすぐに治る」
少々涙目のルクトに、ラキアは苦笑しながらそう言った。やがて痛みが引いてきたのかルクトが立ち上がる。そしてラキアのほうに視線を向けたルクトは、なぜか眉間にシワを寄せた。
「……ラキ、太刀がヒドいことになってるぞ……」
「ん? って、……え?」
ルクトが指差す先にあるラキアの太刀。見るも無残なひびが無数に走っている。もはや実用に耐えないことは一見して明らかだ。
「ああああ!!!!」
悲鳴を上げるラキア。その理由は、あえて語らずとも良かろう。
この話でちょうど100話目ですwwww
狙ってみました。
今回はひとまずここまでです。
続きは気長にお待ちください。