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 もうすぐ九時になろうとしていた。

 病院のロビーにある時計が、そう時間を知らせていた。

 佑夜ゆうやは走って病院を後にした。

 追悼式の集合時間は、今晩十時。

 ここから家に帰って花を持って、港へ行くには短すぎる時間だ。

 けれど諦めようとは思わなかった。

 いや、違う。諦めちゃいけなかったんだ。

 腕を振りたくり、バカみたいに走りながら佑夜は思い出した。

 あの将斗まさとの、泣きそうな笑顔を。

 今までどんなことがあっても、将斗の弱い部分なんて見たことがなかった。

 そんな将斗が、あれだけの表情を浮かべたのだ。

 口調からは感じ取れないほどの、微かな弱さ。

 それを思い出せば思い出すほど、今回の追悼式は絶対に出席しなければいけないように思う。

 勝手な解釈だが、将斗は悲しんでいたのだと佑夜は感じていた。

 真の両親に会わないと言った、佑夜の言葉に。

 そしてそこには、将斗が倒れたからというのもあるのだ。

 自分が倒れたから、佑夜は両親のところへ行かないと言う。

 そのことに少なからず責任と悲しみを感じていたんじゃないだろうか。

 だから強がる言葉の裏で、あんな悲しそうな表情を浮かべていたんじゃないだろうか。

 疑問は尽きない。

 けれど結局は兄弟して、自分に責任を感じていたということだ。

 なんてことだろう。

 なんて洒落にもならないことだろう。

 佑夜は奥歯を噛み締めた。

 途端脳裏にはやはり、あの笑顔が浮かんでくる。

 根拠はない。

 けれど今回ばかりは何かが違った。

 この追悼式が何かもっと、特別なもののような気がしたのだ。

 間に合え、間に合え。間に合ってくれ――

 取り戻せない時間に懇願しながら、佑夜は夜道を駆けていった。

 時間は刻一刻と過ぎ去っていく。



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