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 兄である将斗まさとは、重い病気を抱えていた。

 先天性の心臓疾患と、それによる合併症。

 早ければ乳児検診までには見つかるらしいのだが、将斗の疾患と合併症が発見されたのは中学一年、十二歳にまで成長していた。

 確かにそれまでにも異常があったのだが、なかなか発見されなかったらしい。

 発見が遅れたがために、合併症まで引き起こしていたのだ。

 それにこの疾患は、十歳以前に手術をしないと生存率も通常より低くなる。加えてこんな合併症まで引き起こしていればなおさらだ。

 本当なら今すぐにでも手術しなければならないというのだが、その手術に耐え切れるほどの体力が、すでに将斗にはなかった。

 手術をしなければ、死は着実に近づいてくる。

 けれど手術をすれば将斗の身体が持たないかもしれない。

 どちらにせよ迫ってくる死への恐怖は、将斗にとって相当大きなものだった。

 そして病名を知ったその日を境に、周囲からの対応さえも変わってしまったのだ。

 今までできたことも、一気にできなくなってしまった。

 日に日に病状は悪化の一途を辿るばかり。

 それは将斗にとって、酷い負担になっていた。

 高校進学の時もそうだ。

 膨らむ心配からか、養護学校に行けと両親に告げられた。

 公立高校前期選抜出願の、直前のことだった。

 将斗は考える間もなく、両親の進めを押し切っていた。

 本当は解っていたんだ。自らの身体がどういう状況なのかも。

 けれどこれ以上人とは違うということを、内心では認めたくなかった。

 普通がかけ離れたものだと、思い知らされたくなかった。

 ……それでも人とは違う生活であることに変わりない。

 病気だと解ってからは、今まで好きだった体育もできなくなった。

 急な動悸は日を追うごとに回数を増し、しゃべることもままならない。

 人と同じままでいたいという意志とは裏腹に、無情にも病状は悪化していく。

 おかげで何度も入退院を繰り返した。

 それがどれほどの悔しさを、将斗にあたえただろう。

 もう普通の生活を送れないと、どれだけ思い知らされただろう。

 極めつけには医師から聞かされた、余命宣告。


『非常に言いにくいが、君は衰弱しきっている。このままだと、二十歳までは生きられないかもしれない』


 今までは四十以前だと聞いていた。勿論そのことに変わりはない。

 けれど二十歳といったら、あとわずか三年ぽっちしかないのだ。

 多くてあと、三年ちょっと。

 いきなり縮まった余命宣告に、どうすれば耐えられよう。

 両親も先生も、今まで以上に気を使うようになった。

 余命までは知らないとはいえ、友人たちも気遣う部分が見えてきた。

 明日死ぬかもしれない運命。

 その中で見つけた唯一の場所は、他ならぬ弟だった。

 誰よりも普通に接してくれる佑夜だけが、唯一安らげる場所だった。



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