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 力尽きそうな気がした。

 見るからに半端ない量の宿題が、まだ眼前に聳え立っている。

 中学の頃はこの半分くらいだったな、宿題の量……。

 読書感想文がないからって浮かれすぎただろうか。と心中で毒づきながら、テーブルに突っ伏したまま一番上にあるプリントを手に取った。

『英語科 夏休みの課題一覧・期初めテスト出題範囲』

 ポップ体の可愛らしい文字で書かれているのは、先生の趣味だろうか。

 でも当たり前の如く、内容は一向に可愛さを見せてくれない。

 授業でしていない単元のノートまとめなど、ある種のいじめにさえ感じてしまう。

 加えて両面刷りの問題演習プリント類がわさわさ……。

 佑夜ゆうやはため息をつくと、元あった場所へとプリントを戻した。

 これ本当に、終わるのか?

「佑夜、起きてる?」

 すると背後で、買い物袋のかさばった音が耳についた。

「起きてるよ、一応ね」

「じゃあ勉強に手がつかない? って聞いた方がよかったかな」

「まあね」

 兄である将斗まさとはダイニングキッチンまで行くと、笑いながら冷蔵庫に買ってきたものを詰め込み始めた。

 勿論兄とはいっても、実際の兄ではない。佑夜からすれば義兄だ。

「つか、買い物だったら行ってきたのに」

「俺が行こうと思った時、佑夜うたた寝状態だったじゃん。数学と見つめ合って」

「うわー、ロマンチックじゃねぇ」

「逆にロマンを感じたら、兄として引くよ。どん引き」

 野菜室の戸を閉めすくっと立ち上がると、将斗は腕を思い切り振り下ろした。

 振り下ろした腕からは、なにやら小さな塊が佑夜に向かって思いっきり飛んでくる。

 反射的に手を眼前に翳すと、確かな感触が掌に触れた。

「格闘するくらいなら買ってこいってんだ」

 あー、すっきりした。と呟く将斗の声と共に、佑夜は手中のものを確かめる。

「……消しゴム……」

 なるほど、格闘とはそういうことだったのか。

 確かに最近、やたらと小さな消しゴムと内乱を勃発していたかもしれない。

「けどさ、兄貴。……平気だったのかよ」

「平気じゃなかったら、今頃くたばってるっつの」

「そりゃそうだけどさ」

 前の椅子に腰掛けた将斗を見ながら、佑夜は消しゴムをテーブルの上に置いた。

「あんま無茶すんなって。明後日だろ、検査」

 置きっぱなしにしていたプリントを手にしたまま、将斗は一瞬動きを止める。

 ただその一瞬がやけに長く感じて、佑夜は罪悪感に似た何かを苦々と感じていた。

 蝉の声が、世界から消え去っていく。

「ま、ドンマイ!」

 心配させないせいか、空気を読み取ったせいか。

 将斗は普段と変わらぬ明るい声でそう言うと、笑顔のままに宿題を突きつけてきた。

 佑夜はそれを、普段と同じようにふるまって受け取る。

 動き出した世界は同じようで、何かが違った。



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