表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12


 雪井ゆきい佑夜ゆうや

 それは本名であって、けれど佑夜にとっては本名ではなかった。

 今となっては誰にも言わない、そして誰からも言われることのない消え去った存在。

 柳瀬やなせ佑夜。

 それが佑夜の、実の本名だ。

 というのも佑夜は幼い頃に養子として、この雪井家の一員となった。

 養子になる数日前に、両親は事故に遭って死んだらしい。

 らしいというのは、佑夜自身そのことについての定かな記憶がないからだ。

 ただ後から聞かされた話によれば、記者だった両親は仕事で船に乗って、嵐による高波に飲まれて船もろとも沈没したという。

 太平洋の、ずっとずっと沖のほうだ。

 両親が見つかったのは、ある夏の日。場所はすでに日本の領ではなかった。

 佑夜にしてみればまだ物心がやっとついた頃で、両親との記憶というものは言ってしまえばほとんど残っていない。

 だからその分、両親の死というものを受け入れられていないというのもまた事実。

 だって自分の両親は、この雪井家の二人だと信じて疑わなかったのだから……。

 それでも佑夜は年に一度、没した場所までいくのだ。

 他の遺族たちと、船に乗って。

 記憶なんてほとんどない。解っている。

 けれど実の両親は本当に自分のことを愛してくれていたんだ。

 今の両親が話してくれた時に、一緒に写真も渡してくれた。

 それは普通に比べれば少ない量だったのかもしれない。けどその中には確かに愛されていた記憶が鮮明に写されていて……。

 だから記憶にない両親への、できる限りの孝行をしたかった。

 真の両親にもらった分の愛情を、それ以上の愛情を伝えるために。


 そして今年も、その時期が徐々に近づいてきた。

 夏休みも序盤の、あの時期が。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ