ひかりの海
ジリジリと夏の陽光が世界を照らしつけていた。
うるさいからとリビングにある窓すべてをぴっちりと閉めたのに、レールとの隙間を縫って蝉の合唱は今なお聞こえてくる。
真夏特有の嫌な倦怠感が、身体の中で渦巻き始めてきた。
さらには極めつけとばかりに、アブラゼミがミンミンゼミが、一様に声を張り上げだす。
エアコンの効いた部屋にいてさえも、その熱気が伝わってくるようで正直辛い。
あー……。と覇気のない声をあげると、佑夜は思わず手にしたシャーペンを投げ出した。
手足からすべての力を抜き、椅子の背に寄りかかりながら深い息を吐き出す。
ため息と共に佑夜は瞼を伏せる。
閉ざされた視覚の分、蝉の鳴き声はより鮮明に耳を突いていった。
今は夏休みもまだまだ序盤。
世間では甲子園出場を懸けて、各地区の高校球児たちが熱き戦いを繰り広げている。
そんな最中の平凡な昼間。佑夜もまた、別の静かなる熱戦を繰り広げているのだ。
というのもこの世の中の学生には、二つの派閥がある。
『宿題は早めに終わらせる派』と『宿題はギリギリまで残す派』のことだ。
佑夜の場合は紛れもなくこの前者。
邪魔なものはさっさと終わらせて、後半はのんびりと過ごそうという寸法だ。
だがその前に待つのは限りない地獄。
つい今しがた『漢字プリント』という強敵を射止めたが、だからといってそれが何になろう。
腱鞘炎になりそうなほど頑張ったところで、夏休みの魔物はなかなか成敗できない。
何が休みだ。何が長期休暇だ。
夏休みなんて名目だけの牢獄じゃないか。
休暇とか見せかけておいて、世の中はまったくもって人に優しくないのだ。
放り出した数学のプリントに両肘をつき、手の甲に顎を乗せた。
グシャッと実に不快は音が、肘のすぐ下で聞こえてくる。
コロンと転がる筆記具をよそに、佑夜はひたすらに外を眺め続けていた。




