第0話 アテイン帝国
アテイン帝国。そこは幸せの国。国王が変わってからというもの、「豊かな国」「強大な軍事力」を維持している。民は豊かに暮らし、戦士は、圧倒的な強さで戦に勝利する、まさに人々の理想の国であった。
特に民にとっては…。
__________________________________________________________ アテイン帝国の強大な軍事力によって戦に敗れ、1人の生き残りの戦士が、やっと母国へと帰ってきた、のだが…
「これは一体…。」
彼の目に映ったのは、荒れ果てた母国。
草木は枯れ、人がいる気配が感じられない。
「誰か!誰かいないのか!」
彼は叫んだ。だが聞こえてくるのは、乾いた風が砂ぼこりを巻き上げる音や枯れた草木が揺れる音だった。
彼は歩き回ったがどんなにあちこち歩いても人に会わなかった。
だれもいなかった。
(俺が住んでいた国はこんなんじゃない。)
彼は、我が家へと向かった。
息が切れる。戦いで負った傷が彼の体力を奪う。
しかし、彼は力のある限り走った。
家には、彼の家族が、彼の帰りを待っているのだ。
そして彼は家に辿り着いた。
この日が来るのを彼は、どんなに待ち続けたことか。
彼は思いっきりドアを開けた。
「ただいま!!生きて帰っ…て…」
彼への返事はなかった…。
家はもぬけの空。彼の帰りなど誰も待ってはいなかったのだ…
彼は泣き崩れた。
「約束したんだ…。"必ず生きて帰る。だから待っててくれ"と…。なのに…!」
・・・・
「お前さん、戦士の生き残りか?」
「!?」
彼は、顔をあげた。
そこには一人の老人が立っていたのだ。
彼は老人の両肩を両手でガシッとつかみ、老人に投げかけた。
「なあ、じいさん!!この国どうなっちまったんだ…?やっと帰ってこれて、家族にも会えると思っていたのにっ!…何があったんだよ、この国で…」
老人は彼の手首を握った。
「もうこの国にはわしとお前さんしかおらん…。皆、この国を捨て、アテイン帝国へと行ってしまった。」
「連行されたのか…?」
「いや、違う。…民は…民は皆望んでアテイン帝国へ行った。アテイン帝国から使いが来て、皆アテインで暮らさないかと民を勧誘しておった。皆"幸せになれる、幸せになれる"と言って喜んでいた。皆生活が苦しくなっていた頃だった…。お前さんとこもそうだろう。…お前さんも気の毒だ…。国や民を守るために、命をかけて戦っていたのに…」
「じいさん」
「なんだね?」
彼はか細い声で問うた。
「じいさんは…何故ここにいる?」
「わしかね。わしは、もう長くない。それにな、わしはこの国が大好きじゃった。小さい頃からここで暮らしていたのだよ。だから最期はこの国でむかえたいと思ってな。」
「そうか…。」
彼は歯をくいしばりながら、そう答えた。
その後、老人が再び彼の家を訪れたとき、彼は息を引き取っていた。
冷たい家の壁に、一人、もたれながら…。