第9話 消えた痕跡
額に目玉のついた、黒い角の兜。
魔王めいた男が放り投げてきたのは、皮帽子のようなものだった。
「え……なに?」
とっさに受け止めたセシリア。
見る見るうちに、彼女の目が見開く。
「え、え! きゃあああっ!」
その物体を、魔王に放り投げた。
軽く受け止める。
「……どうした?」
目玉の兜の下から、リオルが目を向けた。
「ひっ! ひとっ! ひとの、顔っ!」
「ああ、よくできているだろう。安心していい、作り物だ」
「な、なんで急に投げるのよ!びっくりしたじゃない!」
涙目のセシリアが詰め寄る。
「……説明が面倒。現物を見せた方が早い」
───
白髪の老婆は、銀貨を払うと乗合馬車に乗りこんだ。
「ばあさん、どこまでだい?」
御者の男が聞いた。
老婆は答えない。
「おーい、ばあさん? 耳が聞こえないのかい?」
「えっ、私?」
「あ?あんた、声は若いんだな?」
「……ごほんっ!……二つ先の町まで……ドゥルセ商会の……支店」
「あー、そこまでは行けないよ。手前の村までだね、なんか野盗のグループが追い剥ぎしてるらしくてな」
「そ、そうですか……では、その村までで……宿がとれるところなら」
老婆はうなだれながらも、馬車に乗り込んだ。
御者はうなずき、たった一人の客を乗せて出発した。
(もうっ、この仮面なに……顔かゆいし、ヘンなにおいする……髪に塗った薬のせいで頭もかゆい。早く宿で外したい!)
───
猛スピードで帝都街道を騎馬が進む。
十に満たない少女が先を、
赤毛の逆立つ髪の女が後ろを進む。
「ベアトリス、遅いわよ!」
「く……お嬢様、それは私の方が重いから……ですっ!」
少し悔しげなベアトリス。
「わたくし、軽いから、まだお菓子食べていいわよねっ!」
メイリーンは手綱を片手に、もう片手で懐からビスケットを取り出し、かじる。
「お、お嬢さま、なんて器用な……いえ、お行儀が悪いです!」
「なーにー?聞こえなーい」
「ああっ……お菓子の屑が、私の顔に……!」
前を走るメイリーンはどこ吹く風。
「出どころ不明の、傭兵の募集!怪しすぎるわっ!」
「はい!先回りしましょう!」
───
街道沿いの宿場外れ。
粗末な馬繋ぎ場に、三人の男が集まっていた。
「女一人だとよ」
「報酬は?」
「生死問わずで、金貨十」
短い沈黙。
安くはない。
だが――妙だ。
「……顔も出てねえのに?」
「貴族筋らしい。逃げた小娘だとよ」
男たちの視線が、自然と細くなる。
「まあ、盗賊稼業のついでだ。片っ端から、通るやつ襲えばいいさ。女子供だろうが、年寄りだろうがな」




