表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺されかけた皇女、魔王と生き抜く 〜帝国最大商会が味方なので反撃します〜  作者: 水戸直樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/22

第8話 分岐点

 セシリアは街道を踏みしめる。


 慣れない徒歩移動。


 履き慣れない靴――のはずだった。


 だが、足取りは妙に軽い。

 靴擦れの気配もない。


 ――まずは靴からだ。


 無愛想な声が、ふっと蘇る。


 あの夜。

 何も言わず膝をつき、リオルは彼女の足に触れた。


 冷たい指先。

 けれど、触れ方だけは妙に丁寧で。


「……彼なりに、紳士なのかしら……」


 小さくこぼして、セシリアは歩みを速めた。


 でも。


 洗濯のためとはいえ、

 嫁入り前の皇女の服を脱がせて。

 素足まで、あんなふうに触っておいて。


 ――そのくせ、素っ気ない。


 あの男らしいと言えばいいのか、投げやりと言えばいいのか。


「……本当に、もう……」


 言葉の続きは、息に溶けた。


 街道の先で、鳥が一斉に飛び立つ。


 セシリアは、わずかに歩調を上げた。


───


 ローレイド伯爵家先遣隊。

 森の南縁。


 フェリクスは、街道の先を静かに見据えた。


「皇女の生死は、まだ定かでないな」


「は。確定しておりません」


 副官の即答に、フェリクスは小さく息を吐く。


 ――だが、やることは変わらない。


 宰相からの捜索依頼。

 生存の見込みが、高いのだろう。

 

 そして、この一帯なら――


 使う道は限られる。


 視線を上げる。


 ここまで街道を駆け上がり、残すは帝都へ続く一本道。


 自分たちは騎馬。

 皇女が生きているなら、馬車か、徒歩。


 距離さえ詰めれば、捕捉は時間の問題。


「仮に誘拐の場合、戦闘もあり得る。固まって動く」


 即断だった。


 副官がわずかに目を見開く。


「追撃を優先なさいますか」


「ああ、そもそも街道にいなければ、もう死んでいる可能性が高い。脇道は、捨てる」


 短い判断。


「全騎、前進」


 号令が落ちた。


 騎馬が一斉に石を蹴る。

 土煙が低く広がった。


───


 四頭立ての公爵家馬車が、街道を疾走していた。


 車輪が石畳を激しく打つ。


 だが速度は落ちない。


「次の宿場まで、あとどれくらい?」


 車内で、お菓子をつまみながらメイリーンが地図を睨んだ。


「順調なら半刻ほどです」


 向かいに座るベアトリスが即答する。


 メイリーンは小さく頷いた。


「予定通りね。馬の交換も遅れてない」


 この馬車は、すでに二度、馬を替えている。


 宿場ごとに待機させた予備馬へ。


 速度を落とさないための、強行軍だった。


 指先で、地図の一点を叩く。


「ここ。魔王の森南縁。このあたりから足取りが消えてる」


「……魔王の森に入った可能性は?」


「わたくしは、それだと思う」


「……では、皇女殿下は……」


「生存の可能性が高いわ」


「なぜです?生きて帰れない場所だと聞きます」


「あそこの魔王は……悪い者じゃないのよ」


 呟くと、お菓子を一口。


 空っぽになった菓子箱。


「……お嬢様、食べ過ぎです」


 メイリーンの瞳が、わずかに細まる。


「大丈夫――セシリア皇女に作ってもらうから」


 短い宣言。


「ベアトリス」


「は」


「次の宿場で、諜報班に早馬。森南縁の動きを洗って」


「承知」


 間髪入れない返答。


 ベアトリスは直ちに命令書をしたため始める。


 メイリーンは、そっと新たな菓子箱を取り出した。


◇◇◇


 街道。


 風向きが、変わった。


 セシリアは、わずかに足を止める。


 前方。

 街道は、そのまま帝都へ続いている。


 ――見晴らしが、よすぎる。


 ほんの一瞬。


 あの夜の低い声が、脳裏をかすめた。


 ――その靴なら、川沿いも山道も歩ける。


 指先が、わずかに強張る。


「……もう」


 小さく息を吐いた。


 観念したように、街道脇へ視線を滑らせる。


 踏み固められていない、細い脇道。

 森の縁へ沿う、目立たない迂回路。


 普通なら、選ばない。


 だが。


 セシリアは、迷わなかった。


 外套の裾を押さえ、静かに進路を外す。


 石畳を離れ、土の感触が靴裏に移った。


 それでも――


 足取りは、軽いままだった。


(……この靴のおかげだわ……)


 フードの奥で、小さく呟く。


(……ここまで……私に合わせてくれたんだ)


 誰に向けた言葉でもなく。


 セシリアは、そのまま細道へと消えていった。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ