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第一章:Case No.055「友情と愛情の狭間」 パート2:国家機関への共同作業の案内状。事件は現場で起きている。

事務所を出て、錆びついた階段を下りていく。

目の前を歩く譲おじさんが羽織った濃紺のスーツのジャケットは、パッと見た感じはくたびれて使い込んだ安いスーツだが、よく見ると歪な縫製で所々歪んで見える。


私は知っている。

おじさんのスーツは中古で買って無理矢理直して使っていることを。

ハードボイルドを気取り、芝居がかった物言いで対応する探偵。

依頼も少ないのだろう、そんな中で凛さんをパートに雇いお給料を支払うのだから、私たちに見えない所で必死に倹約しているのだろう。


……というか、他に依頼する人がいるのだろうか?

私がこの街の高校に入学してから、頻繁におじさんの事務所に出入りしているけれど……大抵はやっすいコーヒーを飲みながら、エアガンを塗装している所しか見ていない。


凛さんは何か忙しそうにパソコンを弄ってるのに……

依頼も無いのに、凛さんは一体何をしているのかも不思議だけど……


そんな事を考えつつ、近くの交番に到着した。

交番の中から白髪交じりの体格のいい怖い顔のお巡りさんが譲おじさんを見てギョッとした顔をして出てくる。


「よぉ、譲。なんだ?お前が用事なんて珍しいな?」

「おやっさん。譲ではない。俺の名はジョウ。この街の闇を暴く私立探偵だ…。」


「おやっさんじゃねぇ。大矢(おおや)だ。大矢巡査部長。」

「……で、どういったご要件かな?」

ため息をつきながら大矢さんは私たちの方を見る。


ええ、実は…と、二人のやり取りが終わったのを確認した凛さんが淡々と事情を説明してくれた。

一通りの説明を追えた私達は交番の中で、大矢さんが警察署に問い合わせをしてくれている間に、若いお巡りさんに教えて貰いながら遺失物届を書きはじめた。


「……事件は、会議室でも交番でも起きてはいない……愛した者との証を失った……少女の中で起きているのさ……」

することがなく手持ち無沙汰な譲おじさんが、パイプ椅子に足を組んで座ったまま窓の外を見ながら呟いた。


「…お前、そんなセリフ考えるほど暇なら探しに行ったらどうだ。」

呆れ顔で吐き捨てるように告げる大矢さんに目も合わせずに固まる譲おじさん。



「確かに。私たちがココにいても効率が悪いですね。駅前のカフェに先に行きましょうか。」

凛さんがそう言いながら、おじさんの腕を掴み外に引っ張って行く。

あぁ、犯人は戻る。それが定石だ。と呟きながら引っ張られて行くおじさん。


正直、おじさんに頼んだのは失敗だったなと今更後悔しつつ、千波の方を見る。



「…大丈夫?手、震えてるよ?」

届け出に書かれた文字からも、小刻みに震えているのがわかる。


「う、うん。こうゆうの初めてで…」

書類をじっと見つめつつ、震える声で答える千波。

私だって初めて交番でこんな手続きを見ているんだ。

悪い事をした訳でもないのに、普段とは違う世界に来たようで、何故か緊張している。



「大矢さんの顔が怖いからっすよ。安心してね。中身は優しいから多分。」

若いお巡りさんが千波を見ながらニコリと微笑んだ。


「長野。巡査部長な。それと多分じゃなくて優しいだろうが。」

「あー…ゆっくりで、いいからな?別に間違えても問題ないから。」

大矢さんは長野と呼ばれた若いお巡りさんを少し睨みつつ、私たちの緊張しているであろう様子を見て、怖い顔が少し柔らかくなる。


「あ…ハイ。すみません…。」

書類に目を向けたまま、おずおずと答える千波。


「まぁ……キーホルダーだっけ?こういうのはねぇ。あまり見つからないから、期待はしないでくれな?」

「あ…そうなんですね。」

大矢さんの申し訳なさそうな優しさのこもった気遣いの言葉に、千波の声が少し安心したかのように聞こえた。


届けを出した後、大矢さんとともに交番から駅前のカフェに向かって歩き始めた

「見つかるといいね」

長野さんの優しい声に千波は振り返り、笑顔で答えた。



凛さんに合流しに向かっている事を送信すると、可愛らしいウサギがOKと答えるスタンプが送られてきた。

普段キリッとした顔で表情があまり変わらないお姉さんだが、スタンプはいつも可愛いのを選ぶ。

画面の中の凛さんの可愛らしいギャップに口角が上がる私に、大矢さんから思いがけない名前が出てくる。


「えぇと、結衣ちゃんは譲の姪っ子さんなんだよな?護と香ちゃん元気かい?」

「あれ?パパとママを知ってるんですか?」

大矢さんの口から両親の名前が出るとは思わず、驚きを隠せなかった。


「まぁ、譲が昔からあんな感じだからな。いや、昔はもっと酷かったが。その度に護や香が巻き込まれたり叱ったりな。」

……今以上に酷いという想像ができない…。

千波のえぇ……というドン引きの声も聞こえる。



「ちなみに、おじさんは何をしたんですか?」

聞きたくはない……が正直興味が勝ってしまった。



「そうだな……あいつが小学生の頃だ。近所のバァさんの家に生えてる柿をな……」

「勝手に取ったんですか……」

ありきたりなイタズラだ。普通に悪い子だったんだな……と思ったのに……。



「いやぁ、そうなんだけどな?最初はたまたまバレてなくてな。それを良いことに探偵ごっこ初めて、勝手に推理と聞き込み初めて、果物屋に疑いかけてな。最終的に証拠を色々集めて探偵が犯人を当てるように自分だと自白したよ。」

「意味わかんないだろ?まぁ聞いた感じ、探偵ごっこしたかったが良心の呵責に耐えられなかったみたいなんだよな。」


……何やってるんだあの人は。

横を歩く千波から、今日何度目かのえぇ…という引いた声が聞こえる。




駅前のカフェが見えてきた。

歩道には縁石の影や沿道の植え込みの中などを捜索している譲おじさんと凛さんがいる。

おじさんの手にはカフェでテイクアウトしたであろうコップがある。

苦いのが駄目で猫舌なので、絶対にブラックじゃないしホットでもない。

……というか……



「おじさん…。銭湯いかないつもり?」

明日は絶対に事務所に遊び行かないと決めて聞いた。



「私が貸しました。」

こちらに目を合わせず、チビリとコーヒーを飲むおじさんを冷たく見ながら凛さんが答える。

従業員に借りたのか、この人…。

後ろから大矢さんの呆れたため息が聞こえる。

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