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男女の友情は果たして成立するのか?検証してみた件。

男女の友情は果たして成立するのか?実態を検証してみた件~陵編

作者: 愛龍

さくらりょうは、小さな町で生まれ育った幼馴染だった。

家が近く、毎日のように遊んではケンカをした。


中学3年のある日、陵は桜の部屋でボロボロになった一冊の絵本を見つけた。


「こんなの、もう捨てちまえよ」

何気なくゴミ箱に放り込んだ瞬間、桜の目に涙が溢れた。


「なんで勝手に! それ、お母さんと一緒に読んでた本なのに!」

泣き叫ぶ桜は、次の瞬間、烈火のように陵のすねにローキックを叩き込んだ。


「痛っ……! な、何すんだよ!」


「バカ! 陵のバカ!」


「俺、悪くねぇ……!」


涙と怒りと痛み。

でも、その日を最後に陵と桜は口をきかなくなった…


―――高校進学する頃、二人は別々の道を歩むことになった。

陵は跡継ぎとして寺に入り、僧侶として修行することになった。


桜は目指す道のために進学校へ…


道は別れそれぞれの日々が過ぎた。


26歳の時、陵の体を蝕む病が見つかる。

完治はできない――医師からそう告げられた。


「五分五分だな。長く生きられるか、早く死ぬかは」


死を受け入れるのは、僧としての務めだ。

そう自分に言い聞かせたある日、


「ふざけるな。諦めるな」

彼女は真っ直ぐに陵を見据えた。


彼女は新米医師として陵の目の前に立つ。

「私が必ず生かしてやる。諦めるな!」


その横で彼女の指導医は優しく微笑んだ。


――――


そこからは空白の時間など無かったかのようによく飲みに行ったりしていた。


行きつけの居酒屋でビールを手に桜が陵を睨む。

「お前、健康診断ちゃんと行ったの?」

「……行ったよ」

「で?」

「……尿酸値が高いって言われた」


拗ねたようにビールを煽る陵。

「俺、悪くねぇ……」


その言葉に桜はケラケラと笑い転げた。

「昔からそればっかり!」


居酒屋を出ると、そこには一人の男が待っていた。

「迎えに来たよ」

桜の元の指導医で先輩医師、田崎たざきだった。


「ありがとう」

桜は迷いなく彼の隣に立ち、陵に手を振る。

「じゃあ、またね」


街灯にきらめく指輪が、陵の胸を締めつけた。


(……違う道もあったのかな。いや、ないか)


「それなら、死ぬまで友達の座は譲らない」


心の中でそう誓い、曖昧に笑って手を振り返した。



田崎と桜は結婚し、医師として共に働いた。

一方で陵の病はゆっくりと進行していった。


桜は治療の最前線に身を置きながらも、時間を見つけては陵を診た。

食事制限、投薬、生活指導。

僧侶としての修行に加え、病との闘いは過酷だった。


「厳しいな……」


「当たり前。生きる気があるなら言うこと聞け」


「……俺、悪くねぇ」


「はいはい」


桜は笑いながらも、誰よりも必死だった。


桜が50歳の時、田崎が交通事故でこの世を去る。

葬儀の間も凛とした姿で気丈に振る舞う桜。その姿を陵は僧侶として見守った。


やがて桜は涙を拭い、再び医療の道に戻った。


数年後、ついに特効薬が誕生した。

桜の根気強い治療と指導の成果も重なり、陵は奇跡のように七十を越えて生き延びていた。



春。川沿いの桜並木は満開だった。


「……本当、相変わらず世話が焼ける」

陵は酒と弁当を抱えてやってきた。腰は少し曲がり、歩みも遅くなったが、その声は昔のままだった。


「いいでしょ!」

桜はケラケラ笑い、皺だらけの手で弁当を広げる。


恋人にも、夫婦にもならなかった二人。


だが人生のすべての季節を共に歩み、支え合ってきた。


誰よりも深く、長く、確かに。


花びらが二人の肩に降り積もる。


桜は笑いながらそれを払い、陵も笑い返した。


友情という名の絆―


それは恋よりも強く、時に愛よりも深く。

二人の声は春の風に溶け、舞い散る桜に吸い込まれていった。


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