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初デ…出かける日

AM11:00 大宮駅・豆の木前


「どうしてこうなった……」


俺は今、大宮駅で“待ち合わせと言ったらここ”と言われている場所、つまり“豆の木”の前に立ち尽くしていた。

そして、俺が待っている“ある人物”――それが、氷室ヒカリだ。


昨日の放課後、屋上での出来事から、あれよあれよという間に、俺はここで“氷室ヒカリ”を待つことになった。


「……どうしてこうなった」


まあ、自業自得なんだけどさ。


「お待たせ、遥くん」


そんなことを考えていると、当の本人が登場した。


「ッ!……よ、よう」


「? どうしたの?」


「な、何でもない!」


「……そう」


ヒカリは、少しがっかりしたような顔をしていた。


分かってる!

認めよう!確かに俺は一瞬、“氷室ヒカリ”に見惚れた。

そして、服装を褒めなくてはならないことも知ってる!


しかし、だ。

“あの”氷室ヒカリだぞ?


もし俺が“見惚れる”なんて隙を見せたら、今後こいつに何を言われるか分かったもんじゃない。

危ない、危ない。普段通りにしよう。

とにかく、俺のペースに持っていくんだ!


「こ、これから、な、何をすりゅんだ?」


「ッ!」


思いっきり噛んだ!!

まだ大丈夫だ! 挽回の余地はある!

俺は平常心の男だ!

何言ってるか分からんけど!


「ぷっ」


俺の様子を見て、ヒカリが吹き出した。


「あはは。ごめんね。うん、なんかちょっと満足したわ」


ヒカリは、ちょっと嬉しそうに笑った。


「それじゃあ、私についてきて!

ちょっと早いけど、ランチにしましょう!」


そう言って、ヒカリが俺の腕を引っ張る。


……完全にヒカリのペースだった。



AM9:30 ヒカリの家・玄関前


「……ふぅ」


白いワンピースの裾を整え、麦わら帽子をそっと頭に乗せる。


髪型は――うん、大丈夫。

靴も、いつもより少しだけ女の子っぽいデザインを選んだ。


鏡に映る自分に向かって、再び小さく言う。


「これは任務。あくまで任務」


うん、そう。

これは“宝の探索”に必要な戦略行動であり、対象者の協力を得るための関係構築であり――


(……はあ。誰に言い訳してるんだろ、私)


スマホを確認すると、時間はもうすぐ10時。

駅までは例の“アレ”で向かうことにして、私は玄関を開ける。


外は、よく晴れていた。



AM10:15 某・駐輪場(秘密基地仕様)


ヒカリは、鍵のかかった柵の奥に隠されている銀色の乗り物の前に立っていた。

まるで未来のカブトムシのようなフォルム。

それが、“銀河政府仕様”の特別任務用【宇宙船型電動アシスト自転車】だ。


「クロノス、起動確認して下さい」


《はい。現在、動力系統・隠蔽フィールド共に正常です。念のため、目立たないモードで走行を推奨します》


「了解。今日のミッションは――非戦闘、対人交渉、補助任務」


《対人交渉ですか…いったいどなたと…?》


「い、いいでしょ…別に誰とだって!」


《…》


《まさか”男性”ですか?閣下》


「ここでは”閣下”やめてって言ってるでしょ」


《失礼しました。お嬢さま》


《で、いったい誰とお会いになるので?》


《…その服装から察するに…”解析中”…》


《あぁ……要するにデート、ですね?》


「っ!」


「ち、違うけど…で、デートに行くような服装に、み、見える?」


《えぇ、とても良くお似合いかと》

《ただ…どうでしょう、我々のトップが簡単に男性とお会いなるのは…》


「…」


《私としましても”どこの馬の骨”とも分からない男にお嬢様を会わす訳にはいかないですね。

私は”ヒカリ様だけの”執事ですので》


「過保護過ぎよ!そ、それにこれは”デート”じゃないし!」


「それより早く出しなさい!待ち合わせの時間に遅れちゃう!」


《…それ、デートですよね》


「違います!」


ちょっとムカつくこのAI執事を黙らせて、ヒカリはシートにまたがった。


「目標地点:大宮駅・豆の木前。ルート最短でお願い」


《ふぅ…しかたありません。承知いたしました、お嬢様》


”ふぅ”て何よ!?

”デート”じゃないっての!



シュウゥゥゥ……と音もなく浮かび上がる機体。

朝の街をひっそりと滑るように走り出し、ヒカリの表情は――ほんの少しだけ、笑っていた。



「休戦協定を結んだ!?」


マルタは目を見開いて驚愕する。


「ああ。だから、試験が終わるまでは“戦争”はなし」


「……いったいどうやって!?」


「敵の皇帝と話、つけてきた。昨日、学校の屋上で」


「が、学校の……!?」


マルタはさらに目を見開く。


「ちょ、ちょっと待ってください!

て、敵の皇帝が学校にいるんですか!?」


詰め寄ってくるマルタに、俺は小さく頷いた。


「……あ、ああ。しかも同じクラスで、席は俺の前」


「クラスメイトじゃん!!」


「“K”様はいったい何を考えて“指導者選抜”を行われたのですか!?

学級委員長や副委員長を決めるんじゃないんだから!」


それには俺も激しく同意する。


ピコピコ

お知らせ:う〜ん、勘?


「おい!!」


思わずスマホにツッコむ。


「“K”様は何と……?」


マルタが恐る恐る聞いてくる。


「“勘”だと……」


マルタがプルプルと震えだす。


「“AI”が“勘”て何なのよ!

もっとちゃんとしてよ!」


ごもっともである。


ピコピコ

お知らせ:まあまあ、私も色々考えているのだよ。


「「絶対に考えてないだろ!?」」


ピコピコ

お知らせ:クマちゃんマークのマルタちゃんはおっかないなぁ。


「……“K”様、絶対に私のこと嫌いですよね……」


ピコピコ

お知らせ:そんなことはありません。私はいつもあなたを応援しています。


「「嘘くさっ!!」」


マルタはそのまま項垂れた。


「……はぁ、もういいです。

それより、皇帝とどんな話し合いが行われたのですか?」


「え?……あぁ、まあ、あの女には俺の話術で……ちょちょいと……」


マルタがジト目で俺を見てくる。


「で、いくら払ったのですか?」


「賄賂じゃないわ!」


「では、土下座でも?」


「するか! 俺はプライドの男だぞ!」


……自ら申し出たとは言えない。


「なら泣き落としですか?」


「お前はエスパーか!?」


「ではどうやって“休戦協定”を結んだのですか?

遥さまの“話術”なわけが、絶対にありません」


「……俺ってそんなに信用ない?」


「えぇ」


ノータイムで答えやがった!


「……ちょっと条件を出しただけだ」


「その“条件”とは?」


「“何でも一つだけ言うことを聞く”ってやつ」


「……バカなの?」


「ちょっとは歯に衣を着せて!」


「なんでそんな条件を出すんですか!?

それ、相手の“思う壺”じゃないですか!?

もし“指揮官降りろ”なんて言われたらどうするんですか!?」


「あ、それは大丈夫」


「……何故です?」


「俺の泣き顔を絶対に見るんだと、昨日決めたらしい」


「めっちゃ嫌われてんじゃん!!」


「それに、お願いは“すでに”聞いた」


「!?」


「そ、その願いとは……?」


マルタが真剣な顔で尋ねてくる。


「“明日話すからちょっと付き合って”って」


「……それデートじゃん」


マルタが無表情でツッコんだ。


「デートじゃない!

あの女はそんなに可愛気のあるヤツじゃない!」


「ほーん」


「……何?その顔?」


「いや、別に。なんかちょっと“嬉しそう”だなぁ……と」


「ッ!

そ、そんな訳あるか!

本当にこれから何を言われるのか分かったもんじゃないんだからな!」


「なら余計悪いじゃないですか!?

本当に大丈夫ですか? 私も付いていきましょうか?」


「だ、大丈夫だ!……多分」


「……心配ですね」


「ほ、本当に大丈夫だから!

あ、もう時間だ! 俺、もう行くから!」


俺は急いで家を飛び出した。


「……本当に大丈夫かしら……」


マルタは、遥の出ていったドアをじっと見つめていた。



AM11:10 大宮駅前・ランチを求めて


大宮駅を出ると、相変わらず日差しは強い。

もう夏は目の前……というより、この暑さはもう“夏”だ。


「あちぃ……」


俺はシャツの襟元をパタパタと仰ぐ。


「帽子くらい被ってきなさいよ。

こんなに日差しが強いんだから……」


「……以後気をつけます」


慌てて出てきたんだからしょうがない。

……反省はしている。たぶん。


「で、遥くんは何食べたい?」


何食べたいかなぁ……そうだ!


「何かこの辺に美味いラーメ――」


「ストップ」


「え?」


「ねぇ、遥くん」


ニコリと微笑むヒカリ。

その笑顔、なんか怖い。


「私も“ラーメン”は大好きよ?

けど、“今”は違うんじゃないかしら?」


「……えっと?」


「今日はふたりの“初デ……出かける日”なのよ?」


「すみません……」


なぜか責められている俺。


「ふぅ……しょうがないなあ。

私が決めちゃっていい?」


「はい、よろしくお願いします」


「任せて!」


ヒカリは再びニコリと笑って、俺の前をスタスタと歩き出す。


……この人に逆らえる日は来るのだろうか。


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