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バカと戦略と時給アップ

オペレーター「我が艦隊の右翼に敵が突撃を開始した模様!」


くっ!やられた!


「急ぎ援護に向かって下さい」


きっと間に合わない…。


オペレーター「ダメです!間に合いません!連携システムが上手く作動できないみたいです」


復旧するまでにはまだ時間がかかりそう。


なら…。


「敵艦隊をそのまま後に逸らしましょう。

右翼には無理に抵抗せずに、道を開けるように指示して下さい」


オペレーター「了解しました」


「陛下…。偵察艦から連絡がありました」


クロノスが耳元で報告する。


「どうやら”未確認の惑星”を発見したそうです。恐らくヤツらの拠点惑星の一つかと…」


「そう…これで彼らの動きの理由が分かりましたね」


「…作戦を変更します。これより敵の拠点惑星に向かい、惑星を”占拠””解放”します」


ブリッジが騒つく。


「皆さん、陛下のお下知です。

返事が聞こえませんが…?」


「申し訳ございません!直ちに”拠点惑星”に向かいます」


代表して艦長が謝罪する。


「よろしい」


ニコリとクロノスが微笑む。


そこまでしなくてもいいのに…。


「後の敵艦隊をどういたしますか?

小規模とはいえ背面を突かれればやっかいです」


クロノスの進言はもっともだ。


「だからこそ、急ぎ”拠点惑星”に向かい”占拠”してしまいましょう」


「なるほど…人質ですか…素晴らしい判断です。陛下」


…本当はちょっと気が引けるのよね



「遥さま、計算は終わりましたか?

こちらは無人艦隊を接敵ポイントに向けて発進させました。

後はタイミングを合わせるだけです」


マルタはキビキビと作業を行なっている。


「マルタ中佐…」


「はい、なんでしょうか」


「全然分かりません!」


「何でよ!っ…失礼しました」


「だって考えてよ?俺だよ?無茶振り過ぎるだろ!?」


「…っく!何故か納得できて言い返せない!

だから普段からの勉強が大切ー」


「わー、わー、聞こえない!」


「…。分かりました。計算は私の方でやりますので、1分ほど時間を下さい」


「い、1分!?

あの…そ、そんなに簡単な計算なんですか?」


何だか自分が情け無くなってきた…。



「計算でました。接敵ポイントまでおよそ40分ほどとなります」


…1分かかってません。


「…ギリギリだなぁ。もう少し急がせる事はできる?」


「速度的に脱落してしまう艦も出てしまいますが?」


「構わない。少し急がせてくれ」


「了解しましたわ」


マルタはコンソールに向かい操作を始める。


俺はフェクト艦長に声を掛ける。


「艦長、さっきの戦闘で敵、味方の損害は?」


フェクトは難しい顔しながら答えた。


「こちらは50隻ほどやられましたな。

あの規模の突撃にしては被害は軽微だと言えますが…。

逆に敵は1000隻程度しか削れませんでしたな。

やはり敵の指揮官は優秀ですよ。すぐにこちらの意図に気がつき、自ら艦隊を分断させてみせたのですからな。

ワシももう少し削れると踏んでいましたよ」


「ええ、俺もですよ」


やっぱりアイツは面倒くさいなぁ。


「艦長、無人艦隊とタイミングを合わせる為に少し敵艦隊の足を止めたいんだけどできますか?」


「了解しました。後ろからちょっかいかけてみますかな」


艦長はブリッジから全艦に向けて指示を出す。


「全艦に告ぐ、前方の敵艦隊に向け一斉砲撃。

当たらなくても構わん!打ちまくれ!」


無数の閃光がブリッジのモニターを埋め尽くす。


「これで敵が少しでも足を止めてくれれば儲けものですが…」


アイツの事だから難しいかな…。

それにしてもアイツの艦隊”足”早すぎない?

これが”艦隊運動”の成果なのか?


「間も無く”無人艦隊”ポイントに到着します!」


マルタが叫ぶ。


「思ったより早かったな。

けどギリギリ間に合った」



「…勝ちましまたね。流石です陛下」


クロノスが無表情でこちらを見る。


「…えぇ、そうね」


確かにこちらの方が艦隊移動の速度は速い。

その為に嫌ってほど”艦隊運動”の調整を計算した。

この宙域に艦隊を集結させる為に100隻前後の編成で”宇宙潮流”も超えさせた。

若干のトラブルも上手く回避できた。

負ける要素はどこにもない…。

けど何かが引っ掛かる…。


「陛下?何かご懸念が?」


「いえ…何でもありません」


「?」


クロノスが心配そうに私を見つめる。


「大丈夫ですよ。クロノス。

ただもう少し進軍速度を上げましょう」


私は”不安”を悟られないようにクロノスに微笑む。


「…かしこまりました」


ビュン


ブリッジのモニターに閃光が光る。


「何事ですか!?」


オペレーター「敵からの砲撃の模様。ただし射程圏外であるため、脅威ではありません!」


「敵も焦っているのかしら…。

何のつもりでこの距離からの砲撃を?」


「…分かりません。ただ焦っているのは本当でしょう」


「そうね…」


敵の攻撃の意図を考えていると、オペレーターからの報告が飛んでくる。


オペレーター「後方の足の遅い艦が被害を受けている模様」


「いかがいたしますか?陛下」


私は一瞬思案する。


「このままでも問題はありませんが、味方の被害も大きくなってきました。

ここは一旦速度を落としましょう。

先ほど指示は撤回します。

この距離と速度差を維持しつつ味方艦の被害を最小限に留めて下さい」


「御意」


これで大丈夫。

私の”初陣”はこの上なく上手くいく。

後は敵の”拠点惑星”を落とすだけ…。



オペレーター「前方に新たな艦影!敵艦隊です!」


「何ですって!」


本当に大丈夫?私の”初陣”?



ブリッジのモニターから敵艦隊の後ろ姿が写し出される。


オペレーター「敵艦隊、進軍速度が落ちました!」


「間に合いましたな。日向様」


艦長が俺に笑顔を向ける。


「はぁぁ、良かったぁ」


俺は脱力して背もたれに寄りかかった。

実の所”間に合うか””間に合わないか”は賭けだった。

艦長の判断で”間に合わせた”と言っても過言ではない…話の分かる人で本当に良かった。

最後の砲撃がなかったらと思うと”ゾッ”とする。



「遥さま!まだ戦いは終わってませんよ!」


マルタが俺に”喝”を入れる。


「分かってるけどさぁ…少し一息入れたいなぁ、

計算とかもあったし」


「してないじゃん!計算!っ…失礼しました。

つい本音が…」


「段階遠慮がなくなってきたな!」


結構言いたい放題じゃない?


「はっはっは、そう言うなマルタ中佐。

日向様は今回が”初陣”。

その中でこれだけの作戦をやってのけたのだ。

疲れない訳なかろう?」


「しかし、敵が前方の艦隊が”無人”だと気がつくのは時間の問題でしょうな…あの指揮官なら特に」


艦長が少し悩まし気な表情を見せる。


「それにあの戦力差では気が付かれたらあっという間に殲滅されてしまいます」


マルタも同意する。


「分かったよ!シャンとするから攻撃準備をお願いします!」


2人共謀して俺に”喝”を入れにきたみたいだ…大人て怖い!


「それでは始めますかな。

全艦、敵艦隊に一斉砲撃!撃て!」


艦長が命令を下す。


「無人艦隊からの砲撃も開始します!」


マルタがコンソールを操作する。


数の差はあるけど理想的な”挟撃作戦”になった。

後は救援艦隊まで時間を稼げば、敵艦隊と互角以上の戦いができるだろう。


ただ相手が”アイツ”だからなぁ…。

ちょっと心配です。



旗艦のブリッジが揺れる。


モニターには無数の戦火が飛びかっていた。


どこから共なく目の前に突然”敵艦隊”が現れ、私たちに攻撃を仕掛けてきた。


「これが狙いだったのね…」


まさか挟撃されるとは思っても見なかった。

しかも”最高のタイミング”でだ。

こちらの”欲”を上手く利用された。


「悔しいですね…。後一歩だったのに」


クロノスが悔しそうに呟く。


確かに悔しい…けどまだ負けた訳じゃない。

まして相手艦隊は私たちに比べて圧倒的に数が少ない。

敵の援軍が到着するまでに前方の敵を殲滅してしまえばいい…。


私は何気なく前方の敵艦隊を見た。


「?」


「ちょっと待って…何か前方の艦隊おかしくないかしら?」


クロノスがモニターを凝視する。


ヒューマノイドタイプのAIである彼ならきっと何か見つけられるだろう。


「あの攻撃の仕方には無理がありますね…。

まるで”1人”で操作しているような…、違和感があります」


「やっぱりね…、ねぇ、あの艦隊”誰も乗っていない”なんて事ないわよね?」


「…!?」


クロノスが目を見開く。


「え?あり得るの?本当に?」


「普通ではあり得ませんが、それだと敵艦隊の動きに理屈が通ります。

恐らく遠隔操作による攻撃かと」


誰がこんな”最前戦”の”最終防衛ライン”に”無人艦隊”を配置するのよ!?

ありえない!

こんなふざけた事をできるなんて、よっぽどの”バカ”か”天才”しかいない。

そんな事を考えていると、ふとある男の顔が浮かんできた。

いつも眠そうにしている”あいつ”の顔が。


「やっぱり…アイツがいるの?」


「陛下?」


「ごめんなさい。何でもありません…、ただ」


「ただ?」


「なーんか腹が立ってきました。前方の敵を今すぐ殲滅してしまいましょう。できますよね?」


ニコリと微笑み、クロノスを見る。


「も、もちろんです。陛下」


「よろしい。全艦前方の敵に一斉攻撃。私たちの艦隊の恐ろしさを思い知らせてあげましょう」


「「はっ!」」



俺は椅子に腰掛けながらモニターを見つめていた。

今のところ作戦は上手くいっている。


「後は味方艦隊が到着すれば…」


オペレーター「敵艦隊に動きがあります!こ、これは…」


「どうやら敵に気付かれたようですな…」


艦長が厳しい目で戦況を見つめる。


「もう気付かれたのですか!?」


コンソールを操作しながらマルタが悲痛な声を上げる。


マルタ…君は頑張った、ただ相手が悪かった。


「けど最後まで粘ってみせますよ!私にも意地があります!」


マルタのコンソールをいじる速度が上がる。


ズガガガーン


「あ」


思わず間抜けな声があがる。


オペレーター「無人艦隊壊滅!」


「早過ぎだろ!ちょっとは手加減しろ!」


思わず叫ぶ。

同時に”アイツ”のドヤ顔が浮かぶ。


マルタは茫然自失だ。

本当に君は悪くない…そして、なんか”ごめんなさい”。

何故か無性に謝らなくてはならない気がした。

何故だろう?


「いかん!このままでは”リキュール”に取りつかれる!」


「クソ!アイツの実力を見誤った!」


本当にアイツは容赦がない!

だから”嫌な女”て言われるんだぞ!

主に俺から!


「万事休すか…」


艦長が悔しそうに呟く。



ビービー



ブリッジに警報が鳴り響く。




オペレーター「敵前方に新たな艦影!

こ、これは!

味方です!味方艦隊が到着しました!」


オペレーター「その数およそ5000!」


ブリッジに歓声が沸く。



「間に合ったのか…」


俺は一瞬何が起こったのか分からなかった。



艦長は無言で艦長椅子に深く腰掛ける。


マルタに至ってはへたり込んでいた。



どうやら、本当に助かったらしい。





ズガガガーン


目の前の”無人”の艦隊が消滅する。


「お見事です。陛下」


クロノスが恭しくお辞儀する。


「さあ、後は前進するだけですね。

最大船速で”拠点惑星”に向かいます。

後ろの艦隊では私たちについてこれないでしょう」


どう?

悔しいでしょ?

悔しがるアイツに私はドヤ顔を披露した。

心の中で。


またしてもブリッジが揺れる。


アイツのいる艦隊は攻撃の手を緩めない。

どうやら引く気はないみたいね。

いいわ。

アナタの艦隊も殲滅してあげる。

泣いて謝ったって絶対にやめないからね!


私が指示を出そうとした、その時…。


ビービー


オペレーター「ぜ、前方に新たな艦影!」


私は急ぎモニターを見る。


オペレーター「敵です!敵の増援艦隊と思われます!その数、5000!」


まったく次から次へと…。

本当に頭にくる!

今度はアイツのニヤニヤ顔が浮かんだ。

とりあえずぶん殴っておこう…心の中で。


「いかがいたしますか?陛下」


クロノスが静かに尋ねる。


「ふぅ…」


一度心を落ち着かせる。


「どうやら”ここまで”のようですね」


「これ以上の戦闘は消耗戦になってしまいます。

敵の”拠点惑星”を発見できたのですから、今回の遠征は無駄ではありませんでした。

後ろの艦隊を殲滅出来なかった事は心残りですが、欲張っても良いことはありませんからね。

再戦の時を楽しみにしておきましょう」


「御意」


クロノスは再び恭しく頭を下げると、撤退の指示を飛ばし始めた。



「やっぱり”あなた”が敵側にいるのね…。

面白くなってきたわ…」


私は後方の敵艦隊を見つめながら呟いた。



オペレーター「敵が引いていきます。恐らく撤退するものかと…」


皆が敵の動きに注目する。


「遥さま、味方艦隊と合流して追撃もできますが?」


マルタが進言してくる。


え!?まだやんの!?


「…いやぁ、もういいんじゃない?

それにこちら側も皆疲れてるし…」


俺は”皆疲れてる”ムーブで追撃を阻止しようとする。

決して俺が疲れたからではない!


「何を言ってるのですか!?

この状況で”疲れた”なんて言う者なんていませんよ!」


マルタは興奮気味に俺に詰め寄る。


俺はブリッジを見渡す。


全員”苦笑い”である。


やっぱりねー。疲れたよねー。


「マルタ中佐…皆は君みたいに体力バカばかりではないんだよ」


中身は”筋肉ダルマ”だし。


「誰が”体力バカ”よ!」


マルタが更に詰め寄る。

本当に遠慮がなくなってきたなぁ。


「と、とにかく追撃はなし!」


俺は皆の気持ちを”代弁”する。

皆も頷く。


「くっ!艦長!艦長はどうお考えですか!?」


今度は艦長を巻き込むマルタ。


「うーむ、ワシも歳だし…もういいかなぁ…て」


髭をいじりながら目を逸らす艦長。

意外とお茶目だな、フェクト艦長。


プルプル震えるマルタ。


しょうがない、納得できる理由をつけて上げよう。


「別に面倒くさいから反対してる訳じゃないんだよ。マルタ中佐」


「…」


マルタはジト目で俺を見る。


「そもそもで”あの艦隊”に追いつく事ができないだろ?それに今は敵を追うより”惑星リキュール”の今後を考える方が先決だよ。

存在がバレた訳だし…。

だから今は一刻も早く味方艦隊と合流して”惑星リキュール”の防衛ラインを構築しよう」


「「おぉ」」


パチパチパチパチ


クルーから拍手が起こる。

…皆結構お茶目ね。


「…分かりました。どうやら遥さまが正しいようです」


余り納得してない顔でマルタは了承してくれた。

あれだね。マルタは真面目過ぎるんだな。

まあ、不真面目な軍人よりかはいいけどね。



「よっ!日向司令官!」


クルーたちから軽口が飛ぶ。


「よ、よせやい!俺はただの”バイトリーダー候補”だ!」


俺はテレながら皆の軽口に乗る。


「しかし遥さま、これで”バイトリーダー”試験は不合格ですね?」


「え?」


「確かバイトリーダー試験は本日では?」


「ヤバ!バイトリーダー試験だ!」


ガシッ


「…おい、離せ」


マルタが嬉しそうに俺の腕を掴む。


「まさか、まだ”防衛ライン”の構築も終わってないのに”バイト”なんて行かないですよね?

試験勉強もございますし…」



なんつー力だ!まったく腕が離れない!



「た、確かに試験だから”シフト”は入れてない!けど”バイトリーダー”試験は別なんだ!今日を逃したら次は半年後になってしまう!」


「ダメですよぉ、これから”防衛ラインの構築”と”テスト勉強”がありますからね♡」


めちゃくちゃ嬉しそうだな!おい!

つーか勉強もあるのかよ!


「頼む!後生だ!行かせてくれー!」


「ダーメ♡」


「うわぁーん!俺の時給アップがぁぁ!50円がぁぁ!」


俺はそのままマルタに引きずられ部屋に戻ることになった。




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