表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/28

化け物と呼ばれた指揮官

オペレーター「その数、およそ…い、10000隻!?」


「バカな!何故その数の艦隊の移動が今までわからなかったのですか!?」


マルタが叫ぶ。


「艦長!直ちに撤退しましょう!

このままでは我々は殲滅されてしまいます」


「…」


艦長は髭をいじりながら黙考する。


俺に至っては何もできずにただ座っているだけだ。

そりゃそうでしょ?戦争?艦隊?

分かるわけがない!

ただピンチと言う事だけはヒシヒシと伝わってきます。


「…全艦撤退の準備をして、急ぎこの宙域から離脱します」


マルタが命令を下す。


「ならん!今我々がこの宙域を離脱してしまうと”リキュール”が敵に見つかってしまう!」


艦長がマルタを止める。


「ならどうしろと!?我々の艦隊はたったの2000隻ですよ!」


「…味方に至急、救援要請を発信。

我々は味方が辿り着くまでに奴らを惑星リキュールから引き離す。

”リキュール”は我々の重要拠点の一つだ、絶対に敵に奪われる訳にはいかん!

これより我が艦隊は宙域D -9に進路を変更。

全艦、速力最大!」


艦隊は決死の戦いに挑む事になった。


俺の初陣大丈夫?





「しかし、この宙域に我々に気づかれずにどうやって10000隻もの艦隊を移動させたのでしょうか?」


マルタが疑問を口にする。


「分からんな…新たなステルス機能でも発明したか?」


「そんな情報はありませんでしたよ」


「「…」」


2人して頭を抱えていた。


え?何で?

簡単じゃん。


「あ、あのぉ、ちょっといいですか?」


ピリピリムードの2人に話しかける。


「なんですか?遥さま。

トイレなら部屋を出て右に行った突き当たりです」


「知ってるわ!自分の家だわ!」


「じゃあ、なんです?今忙しいんです!」


冷た!教えてやるのやめようかな!


「…敵がどうやって現れたか分かったかもしんない…」


「え!」


「遥さま!冗談を言ってる場合じゃないんですよ!」


「冗談な訳あるか!俺だって空気くらい読むわ!」


「聞かせてもらいましょう…日向様」


フェクト艦長がジロリと俺を見る。うぅ……なんかちょっと怖い。


「簡単な話だよ。奴らは極少数ずつ分散して移動して、一気にあの宙域で集まったんだ」


「……無理です! そんな芸当できるわけがないです!」


マルタは強く首を振る。


「この宙域には“宇宙潮流”が流れてるんですよ?

重力波と暗黒粒子の不規則な干渉によって、航路が常に変化しているんです。

最新のナビAIですら対応できず、軍でも“死の海”って呼ばれてるくらいなんですから!」


「要するに“宇宙が勝手にうねってる”ってこと?」


「そうです!だから数隻ならまだしも、あの数を完璧に集結させるなんて……正気の沙汰じゃありません!」


「……」


「AIを使ったって読めない。そんなこと、人間にできるわけが──」


「もし、それをやってのける人間がいたら?」


「……そんな人間、いるわけが……」


マルタの言葉が止まる。


「日向様には心当たりが?」


「ある!」


そう、”K”は両陣営に新しい”指導者”を選んだと言っていた。


ならアイツが選ばれた可能性は多いにある。

アイツならこれくらいはやってのける。

眠そうにしてたし。


「本当に…そんな人間が…」


「敵にも新たな”指導者”が現れたと言う話だが…まさかその者が?だとしたら敵にはとんでもない”化け物”がいることになる…」


「化け物ねぇ…アイツはそんな可愛らしいもんじゃないんだよなぁ」


「化け物じゃない?ではいったい何だと言うのですか!?」


マルタは怯えていた。


「アイツは多分”魔…”」


オペレーター「間もなく宙域D -9に到着します!」


会話を遮ってオペレーターが叫ぶ。


「敵艦隊補足!敵もこちらを補足しています!」


「全艦砲門開け!攻撃開始!」


艦長が命令を下す。


艦隊から一斉に砲火が放たれる。

絵に描いたような宇宙戦争。

現実感のないまま、俺は圧倒されていた。


オペレーター「敵攻撃きます!」


「全艦密集するな!敵に狙われる!」


敵は流れるような動きでこちらに迫ってくる。


「いかんな、このままでは敵に押し潰されてしまう」


「艦長、もう少し交代速度を上げましょう」


マルタが艦長に進言する。


「そうだな。このまま敵を引っ張って行こう」


「全艦につぐ、攻撃を維持しつつ後退する!

敵の勢いに飲まれるな!ここが踏ん張り所だ!」


「「おぉ!」」


艦隊の指揮は以外にも高い。

艦長のおかげかもな。


「それにしても、敵の艦隊運動は見事ですね」


「うむ…あんな美しい艦隊運動を見たのは、ワシも始めてだ…」

「よほど敵の指揮官が優秀なのだろう…」

「いよいよ日向様の言っていた”化け物”が信ぴょう性を帯びてきたな…」


マルタが唾を飲む。


あれ?なんか敵の動が…おかしい?

俺は敵の艦隊の一部に違和感を感じた。



敵艦隊の旗艦の司令官席に1人の少女が座っていた。

美しく伸びた黒髪、端正な顔立ち、座ってるその姿からは気品すら感じさせる。


その横には燕尾服に白い手袋をはめた美青年が立っている。


「どうやら、上手くいってるようですね。陛下」


「そうね…でも油断してはダメよ。

少数ながら敵の攻撃も粘り強い、どうやら敵の指揮官は優秀なようね」


「はい、おっしゃる通りかと」


「もう少し敵が削れたら”降伏勧告”を出しましょう」


「御意のままに」


それにしても敵に引っ張られてるわね?

まるで何かから遠ざけているみたい…。

少し偵察艦を出して探りを入れましょう。


「敵の動きに思う所があります。

少数でいいので偵察艦を敵の動きの反対方向に飛ばして索敵して下さい」


「かしこまりました」


燕尾服の男は綺麗なお辞儀をすると指示を出しにいく。


オペレーター「陛下、我が艦隊の一部に連携システムのトラブルが発生している模様」


「分かりました。すぐに対処するように伝えて下さい。こちらの艦隊運動でカバーします。

それくらいの違和感なら敵も気が付かないでしょう」


オペレーター「了解しました」


艦隊は軌道修正して艦列を維持する。


「新しい艦列を構築します。

このままでも気が付かれないとは思いますが…。すぐに計算を始めます。準備して下さーー」


ゴォーン


「キャッ!」


ブリッジが揺れる。


「陛下!ご無事ですか!?」


燕尾服の男が駆け寄る。


「当たり前です。ここをどこだと思ってるんですか?」


「そうでございました。失礼いたしました」


「けど、心配してくれてありがとうございます」


「…陛下…勿体ないお言葉」


「それより何事ですか?」


「どうやら、敵がこちらのトラブルに気がついたようです」


「何ですって!?

あれに気がついた人間がいるのですか!?」


トラブルのカバーは完璧だった。

こちらの艦隊運動にほぼ違和感はなかったはず…。

そんな些細な違和感を感じて的確にそこを攻められる人間を私は1人しか知らない。


「…まさか、ね」


アイツがこの銀河の戦争に出てくるなんて有り得ない。


「きっと今頃部屋でゲームでもしてるんでしょ」


「は?何か?」


「ううん、何でもないわ。

これより敵艦隊の動きに合わせてこちらも少し引きます」


「修復が終わり次第、再度全面攻撃に移行します。

準備して下さい」


「「は!」」





「…あれ?」


俺はスクリーンに映る敵艦隊の動きに違和感を覚えた。


「……なんか変だな」


「どうしました?遥さま」


マルタが振り向くが、俺は答えずスクリーンを凝視する。


「一部の艦隊、動きが遅れてる……他とタイミングがズレてる?」


「えっ……?」


マルタが目を細め、スクリーンを注視する。


「いや、ちゃんと布陣してますよ?」


「あれほど綺麗な艦隊運動は見たことありせん」


マルタがドヤ顔で語る。

ドヤ顔してどうする!


「そうなのか…?

うーん、けど何か違和感があるんだよなぁ…」


「遥さまは”素人”だからあの一部の隙のない動きが分からないんですよ」


こいつ絶対に俺に恨みがあるだろ?

まあ身に覚えしかないけど…。


そんなやり取りの間も敵からの攻撃は続く。

やはり数の差は圧倒的だな。

素人の俺から見ても押されているのが分かる。

けど…あの”右翼”の動きは…。


「あぁ、なるほど…分かったわ…」


「何が分かったのですか?」


「敵の動きが“整然としすぎてる”んだよ」


俺の声が少し大きくなった。


「…」


マルタは再びモニターを凝視する。


「この乱戦の中あそこの右翼だけ攻撃が一定の調和で行われてるように見えるんだけど…」


「まるで完璧に見せかけてるけど、実際は連携が取れてないんじゃない?」


「……!」


フェクト艦長が目を見開く。


「…連携システムのトラブル」


「すぐに右翼の動きを精査しろ!」



フェクト艦長が命令を下す。



「敵の一部、連結システムにトラブルを起こしてる可能性があります!」


オペレーターが補足するように叫んだ。


「つまり……あそこが“綻び”と言う事か…」


フェクト艦長は再び髭をいじりながら黙考する。


マルタは目を見開き俺を凝視している。


「遥さま…あなたはいったい…」



「日向様、よく気が付かれましたな」


艦長は顔を上げると俺に話かけてきた。


「まあ、たまたまだよ…」


「あなた様は”K”様に選ばれたお方、

私は遥様に何かあるのではと思いいたりましてな」


「やめてくれよ。俺はしがない落ちこぼれ高校生だよ」


艦長は遠くを見るような目で俺を見る。


「そうですよ!艦長!

遥さまは”ただの落ちこぼれ”です!」


「おい!ちょっとはフォローしろ!泣くぞ!」


「しかし先程も敵の艦隊集結の理由も看破なされた…偶然とは思えませんが…」



「日向様にはこの先どのように動くのが”最適”か分かっているのではないですか?」


フェクト艦長が試すような目で見てくる。

まあ、”最適解”か分からないけど、手はあると言えばあるんだけどよなぁ…。

かなり裏技だけど…。


「…とりあえず、あの右翼を叩いちゃおうかな。そのまま敵艦隊を抜けちゃおう」


俺は思ったままを口にした。


「そんな事をしたら敵とリキュールの間に遮る物がなくなってしまいます!」


マルタは俺の案に全力で反対する。


「…」


艦長が目で先を促す。


「どっちにしろこのまま戦いが進めば、この艦隊は敵艦隊に殲滅されるよ。

だったらこちらの戦力を維持しつつ、敵の戦力を削った方がいいでしょ?

それにアイツの事だからこちらの動きから”何かある”て勘づいてるだろうし、”リキュール”が見つかるのは時間の問題だと思うよ」


「…確かに、しかし、そのまま進軍されれば”リキュール”はなすすべなく占領されてしまいます」


「そこでなんだけど…。

艦長、仮想敵として配備されている”無人艦隊”はこちらから動かす事は可能ですか?」


「可能ですが…。

なるほどブラフですか…」


フェクト艦長は気がついたみたいだ、

優秀な艦長で助かるね!


「その通り、タイミングが大事だから到着時間を計算しないと…逆にこちらが殲滅されちゃうからね」


「そうですな。時間もありません。

今取り得る手では”最適”でしょうな。

すぐに作戦行動に移りましょう。

これから私は各艦隊に指示をだします。無人艦隊の運用はマルタ中佐に一任しよう」


「はっ!」


マルタが敬礼する。


「日向様は最適なタイミングが分かっているとお見受けします。

なので日向様には無人艦隊の到着時間のタイミングを測っていただきたい。」


「は、はい!」


到着時間の計算とか考えないとな。

計算…?


「大丈夫ですよ!遥さま!

私が計算方法教えますから!

AIを使えば簡単ですよ」


マルタが俺の不安を見抜いて声をかけてくれる。


「お、お願いします…」




「では作戦を開始します」


艦長が開始の合図を告げる。

もし少しでも楽しめたら、感想・ブクマいただけると励みになります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF / 学園 / ギャグ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ