勉強の次は戦争ですか!?
教室のドアを開けるとすでに教室の中は生徒たちの喧騒で賑わっていた。
「おっす。遥!」
「おぉ、おはよう…ふぁあー」
「眠そうだな?ゲームのやり過ぎか?」
「…勉強だよ!」
「相変わらずのギャグセンスだな、はっはっは」
そう言うとクラスメイトは自分の席に戻った。
「マジだっての!あのマシンのせいで…」
そうなのである、俺は本当に深夜まで勉強していたのだ。
あの忌々しい”スパルタ勉強マシン コミットくん”の強制で!
「確かに出来ない俺が悪いんだけどさぁ、
少しは手加減しろよなぁ…若干手がまだ痺れてるぞ」
そんな事をブツブツ言っていると”氷室ヒカリ”が教室に入ってくる。
まあ相変わらずの人気だこと、みんなが挨拶してる。
それにしても珍しく今日は登校時間が遅いな。
いつもなら俺より先に登校しているのに…。
「ふぁ…」
これまた珍しい”氷室ヒカリ”の生あくびである。
「あら、おはよう、遥くん。今日も眠そうね」
「ちゃんと勉強したのかしら?」
相変わらず俺に対してだけ”棘”があるな、こいつは。
「まあな、勉強し過ぎで腕が痺れてるぜ」
「あははは、相変わらず面白いね!遥くんは」
本当の事です。
「で、本当は何してたの?ゲーム?」
どいつもこいつも人をいったい何だと思ってるんだ?
間違ってないけど…。
「まあ、そんなとこ…。
氷室こそ珍しいな、こんな時間に登校とは」
氷室ヒカリは欠伸を殺しながら
「ふぁ、ちょっとね、色々調整が大変なのよ」
なんの”調整”?勉強?
「そうか、それは大変だな。まあ頑張れよ」
興味もないので軽く流す。
「ありがと、遥くんも”勉強”頑張ってね」
ちゃんとやってますぅ!痺れるくらいな!
※
午前の授業が終わりお昼休みになると、教室から氷室ヒカリの姿が消えていた。
いつもならクラスメイトに囲まれて昼食を取っているのに。
ちなみに俺はクラスメイトに席を奪われて、屋上でお昼を過ごす。
べ、別にボッチではない!
あぁ…早く席替えしてぇ…。
キーンコーンカンコーン
午後の授業開始の鐘が鳴っても”氷室ヒカリ”は教室に戻ってこなかった。
「…珍しいな…早退か?眠そうだったしな…」
退屈な午後の授業が終わり、クラスメイトたちが嬉しそうに下校する。
「はぁ…気が重い…そして眠い」
そんな中、俺は1人陰鬱な気持ちで下校する。
※
着いてしまった。
楽しい”我が家”に。
靴を脱ぎ、階段を一歩一歩踏み締め2階にあがる。
自室前。
「どうか夢でありますように!」
ガチャ
そこにはとても美しい”銀河”が広がっていた。
「お帰りなさいませ、遥さま」
筋肉ダルマ兼美人秘書のマルタが部屋の中にいた。
「…分かってたさ、ちゃんと分かってた。
これは夢じゃないって…腕の痺れがちゃんと教えてくれてた」
「?」
「けどちょっと早過ぎじゃない?来んの?」
「少しは休憩させろー!」
俺は天に向かって叫んだ。
「それは申し訳ございません。
しかし昨夜の勉強は睡眠時間や休憩時間も考慮するように設定しておりましたが…」
「…」
「まさか…あの”程度”の問題に苦戦したとか…プッ」
「わ、笑うなぁ!うわぁーん!」
俺は床に突っ伏した。
※
「あのぉ…もうよろしいでしょうか?
とりあえず、ごめんなさい」
突っ伏す俺にマルタは頭を下げた。
チッ!”このまま寝てしまおう”作戦は失敗か。
俺は起き上がると笑顔で答える。
「気にしないでくれ。悪いのは全部僕なんだから」
「えぇ、おっしゃる通りです」
「普段から遥さまがちゃんと勉強していれば、このような事態は避けられたはずです」
クソ!返す言葉が欲しいです!
「…で、今日は何をするんだって?」
切り替えの早さが俺の長所だ。
決して耳が痛いからではない!
「はい、本日は早速実戦演習にて指揮を振るっていただきたいと思っています」
「は?ちょっと待って、俺、指揮なんて取った事ないんだけど?」
「ご心配には及びません。私たちがしっかりサポートしますので!」
「それに”習うより慣れろ”とも言いますし」
「どこ銀河の生まれだよ!」
「まあ、分かった。”演習”なら問題ないか…」
「はい!なのでしっかり指揮や作戦を学んで下さい!」
「また勉強かよ…」
「それでは本日の作戦内容をご説明します」
「お、なんか本格的になってきたな!」
ちょっとワクワクしてしまっている。
「本作戦は我々の拠点惑星の一つの”リキュール”の周辺の警護及び戦闘演習を目的としております」
「戦闘演習に関しましては無人艦隊を配備しておりますので実弾演習となります」
「また惑星警護ですが、この”惑星リキュール”はまだ敵にも補足されておらず、安全な艦隊運用ができるため”艦隊運動”の練習にはもってこいです!」
マルタの説明だと今回は本当に”習うより慣れろ”が目的らしい。
「なるほど、分かった!
で、どうすればいいんだ?」
「しばしお待ちを…」
マルタの目の前に端末が現れる。
こうして外見だけ見ると”できる美人秘書”だな。
中身は筋肉ダルマだけど。
フォン
突然部屋の景色が変わる。
兵士A「おぉ、あの方が“K”様に選ばれたという……」
兵士B「しかし、ずいぶんと若いな……まさか、本当に……」
景色が宇宙船の中に変わると同時に周りの兵士たちが騒めく。
「なんか……すごく見られてるんだけど……」
小声で隣のマルタに話しかける。
「ご安心ください。皆さん、遥さまの指導者としての才覚を目の当たりにするのを楽しみにしているのです」
「そのプレッシャー、半端ねぇな!」
「皆の者、静粛に!傾注せよ!
こちらに座すのが我らが新しい”指導者”、
”日向 遥”様だ!
図が高い!控えおろう!」
「黄門さまか!」
「はっはっはっ、相変わらず”時代劇”がお好きなようですな、中佐」
立派なヒゲを蓄えた初老の男が笑顔で近づいてマルタに話しかける。
マルタて”中佐”だったんだ…。
「これは艦長殿…お恥ずかしいところを…」
「よいよい、まあ、多少クルーは度肝を抜かれたようですがな。ワッハッハ」
艦長は豪快笑うと俺の方を見る。
「初めまして、日向様。
私がこの艦隊を率いる、フェクトと言う者です。
以後お見知りおきを」
フェクト艦長は笑顔で頭を下げる。
「は、はい…よ、よろしくお願いします」
なんか緊張するな…。
緊張する俺を他所に、マルタは咳払いをする。
「では、ブリーフィングを開始します」
ホログラムが展開され、リキュール周辺の星域マップが浮かび上がる。
「現在、我々はこの宙域に展開しています。目的は演習および艦隊運動の訓練。敵対勢力の接近は皆無と思われ──」
オペレーター「失礼します!偵察艦から報告。未確認艦影、宙域D-9にて発見!」
「……!」
「何?何?えぇ…なんかヤバいぽい?」