龍ヶ崎ルナ
握手会は滞りなく進み、いよいよ俺たちの番が近づいてきた。
「ここからが本番だな…」
3人が俺の言葉に頷く。
「まずはクロノスね!頼みましたよ!」
「お任せを」
クロノスはヒカリに発破をかけられ、恭しくお辞儀をする。
「次の方どうぞ〜」
スタッフの声が聞こえた。
いよいよ作戦開始だ!
※
「ふぅ…」
誰にも分からないように私はため息を吐いた。
ミニライブからの握手会。
正直ちょっと疲れた。
私は誰かを喜ばせることが好きだ。
いや、喜ばせる事は私の”使命”みたいなものかもしれない。
そして誰かの喜ぶ姿をみると、私も嬉しくなってしまう…。
だから長い年月を生きて人前で何かをして、大勢の人が喜ばせてきた。
ある時代では”役者”だったり、またある時代では”踊り子”だったり…とにかく大勢の人を喜ばせる職についていた。
そして今はアイドルをやっている。
これほど多くの人の喜びを一斉に感じられる職業は他にはない。
だから私は”アイドル”が私の天職だと思っている。
けど…。
「……これは本当に”本物”の感情なのかな…」
私はネックレスを弄りながら、ずっと頭にある疑問を思わず口にしてしまう。
「ルナさん、大丈夫ですか?次の方呼びますよ」
スタッフに声をかけられ我に返る。
「は、はい!大丈夫です!」
私は笑顔を作り次のファンを迎える。
「次の方どうぞ〜」
私のブースの入り口から燕尾服を着た長身イケメンが入って来る。
スタッフも私も一瞬度肝を抜かれるがそこはプロ、すぐに気持ちを切り替える。
「今日はありがとうございます!」
私は笑顔で手を差し出しす。
燕尾服の男はニコリともせずに私の手を握ると私にだけ聞こえるように囁いた。
「”龍の首の珠”を渡してもらおうか…」
私の胸が跳ねる。
何故その事を……。
「何の話ですか?」
動揺を一切見せずにキョトンと笑顔で首をかしげてみせる。
「ふん、流石だな」
男は手を離すとスタスタと出て行ってしまった。
なんなの…いったい…。
表情とは裏腹に私はかなり動揺していた。
”龍の首の珠”の事を言われたのは”あの子”に言い寄った”バカ貴族”以来だ……。
「次の方どうぞ〜」
私の動揺を他所に握手会は進行して行く。
次に現れたのは”燕尾服”と同じくらい場違いな美人秘書風の女性だった。
ただ先ほどの事もあって女性である事に少し安心してしまう。
「今日はありがとうございます!」
再び手を差し出して満面の笑顔を浮かべる。
「私はAIです。貴方もでしょ?天女様」
手を握ると美人秘書は再び私にだけ聞こえるように囁いた。
「っ!な、何の話でしょう?」
ギリギリの所で再び笑顔で小首を傾げる。
美人秘書は手を離すとニコリと微笑み足早にブースを出て行った。
ほ、本当に何なの!?
「次の方どうぞ〜」
ここまで来ると次のファン(?)にも嫌な予感しかしない。
するとブースの入り口に立っていたのはアイドル以上の存在感を放つ”超絶美少女”が立っていた。
さすがのプロのスタッフも息を飲んでいた。
「き、今日はありがとうございます!」
何とか体制を立て直し笑顔で挨拶をし、握手をする。
「私は”K”ちゃんからの依頼でここに来ています」
もう平静ではいられなかった。
「…”K”ちゃんって……」
「ありがとうございます」
美少女は礼儀正しくお辞儀をするとブースから出て行ってしまった。
「……」
いったい何が起こっているの……。
※
ヒカリがブースから出てきて、俺に向かって親指を立てる。
どうやら上手くいったようだ。
俺の立てた作戦は……。
※
「じゃあ、作戦内容を話すぞ」
俺は3人を見回す。
「握手会のチケットが手に入って、これで龍ヶ崎ルナに接触する事が可能になった」
3人が頷く。
「けど握手会で長々とルナと話する事は難しい…と言うか不可能だ」
「1人に対してどれくらい時間が貰えるの?」
「調べたところ”10秒〜15秒”らしい…」
「……とても会話なんて無理ね」
ヒカリが口に指を当て考えこむ。
「だから、その短時間でルナを揺さぶる言葉をかける!」
「どう言うことですか?」
マルタが真剣な顔で俺を見る。
「だから”関係者”以外知らない事を伝えるんだ」
「例えば?」
「”龍の首の珠”とか”天女”とか”K”の事とか…」
「なるほど……」
マルタが納得する。
「そうやってルナの方から俺たちに接触させる」
「そう上手くいくのか?ポンコツよ」
クロノスの疑問はもっともだ。
「……多分大丈夫だ」
「多分て何よ。心配になるわ」
「大丈夫だ、ヒカリ。
多分俺は最強の”爆弾”を持ってる」
「?」
「それはな……」
※
これが俺の考えた作戦だ。
今のところ上手くいっている。
「次の方どうぞ〜」
そんな事を考えていると俺の番がくる。
ブースの中に入ると引き攣った笑顔のルナがいた。
どことなく母さんに似ている気がした。
「き、今日はありがとうございます…」
ルナがぎこちない笑顔のまま、手を差し出してきた。
俺はその手を握ると、静かに口を開いた。
「――リンの息子です」
俺が考えていた最強の爆弾を落とす。
その瞬間、ルナの目が見開かれた。
「……は? え、嘘でしょ!?」
突然、大声で叫ぶ。
「リン姉さん、結婚したの!? ていうか息子って何!?いつの間に!?」
考えていた通り、いや、それ以上の反応を見せるルナ。
\キャーーーーッ!!!/
\結婚!?誰!?/
\なに今の!?リアル!?ドラマ!?/
会場が一気にザワついた。
「ありがとうございます。これからも応援してます」
俺はルナの手をそっと離し、スタスタと歩き始める。
「ちょ、ちょっと待ってよ! ちょっと、ほんとに!」
ルナが慌てて俺を追いかけようとする――が、
「次の方どうぞ〜!」
スタッフが割り込んできて、ルナを席へ戻す。
作戦終了。
後はルナが動くかどうかだが、俺には何故か上手くいくと言う確信があった。
ただ俺の次に並んでいたファンには申し訳ない事をしたと思う。
きっとあの様子ではルナも普通ではいられないだろう……。
ファンの人!本当にごめんなさい!




