チケット
夏の日差しも少し弱まり幾分過ごしやすい夕方近く、いつもの屋上の扉を開くとヒカリとマルタ、クロノスの姿が目に入った。
「お待たせー」
「遅かったじゃない、何してたの?」
ヒカリが少し口を尖らせる。
「わるい、わるい。
これを買いに行ってた」
俺は冷えたペットボトルを3人に配った。
「…スポーツドリンク?」
クロノスが首を捻る。
「ああ、この間この屋上でぶっ倒れたヤツがいるからな」
俺はマルタの方を見てニヤリと笑う。
「熱中症対策だよ」
「なるほど…」
クロノスも納得顔でマルタを見る。
「あ、ありがとうございます」
恥ずかしそうに礼を言うマルタ。
「…ふーん、随分マルタさんに気を使うのね。
とりあえず礼は言うわ。”ありがとう”」
不穏な空気を醸し出すヒカリ。
ま、マズイ!
「ちょっ、ちょっと落ちつけ!ヒカリ!」
「…何よ」
「ご、誤解だ!
またマルタが倒れたりしたら、話が進まないだろ!?俺が考えた作戦は時間がないんだ!」
俺は慌てて言い訳を始める。
するとヒカリの表情が緩む。
「冗談よ、私もちょっと心配だったからね」
そう言ってヒカリはニコリと微笑むとポケットから”塩飴”を取り出した。
「はい、マルタさん」
マルタに塩飴を手渡す。
「…ヒカリさん…」
うるうるした瞳でヒカリを見るマルタ。
多分余程恐ろしかったのだろう…。
ボスッ
スポーツドリンクが俺に投げ返される。
「ありがたく頂戴いたします…」
クロノスがヒカリの前に跪き両手を掲げる。
「え?マルタさんの分しかないわよ」
ヒカリがキョトンとして言い放つ。
「…」
クロノスは無言で立ち上がり、再び俺からスポーツドリンクを取り上げると一気に飲み干した。
その目に涙が浮かんでいた事は内緒にしといてやろう…不憫過ぎる!
「で、作戦と言ったな。ポンコツよ」
「おい、コイツ、今泣いてたぞ!」
速攻でチクる俺。
「な、泣いてなどいないわ!」
珍しく慌てるクロノス。
「…し、塩飴舐める?」
憐憫の目でクロノスに塩飴を差し出すマルタ。
「い、いらんわ!」
クロノスが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「な、なんかごめんね」
頬をかきながら謝るヒカリ。
…相変わらずカオスであった。
ピコピコ
お知らせ:
おーい、話すすめよー
ごもっともである。
※
「遥くん、作戦あるの?」
ヒカリが期待に満ちた目で俺を見る。
「…ああ、まあ、”ある”って言えば”ある”」
「どう言う意味?」
「これだよ…」
俺はスマホの画面を3人に見せる。
「カグ・ミューゼ握手会…」
「龍ヶ崎ルナに直接会うとなると、これぐらいしか方法はない…」
「…それは、確かにそうだけど」
ヒカリが不安そうにスマホを見つめる。
「…しかも、これ応募期間過ぎてるじゃないですか!CDも買ってないし!」
そう、マルタが指摘した通り”応募期間”はとっくに過ぎているのである。
「ふ、やはりポンコツだな」
さっきの仕返しとばかりに、クロノスが鼻で笑った。
「”塩飴涙”のクロノスは黙ってろ!」
「っく!泣いてないし!」
俺はクロノスに新しい”2つ名”をつけた。
「もう!わかったから!
で、どうするつもりなの?」
睨み合う俺とクロノスを呆れながら止めるヒカリ。
「あ、ああ、そこは、その…未来科学の力でちょちょいと…」
言い淀む俺。
「…不正するって事かしら?」
なんか怒ってるな。
まあ、優等生”ヒカリ”様だしなぁ…。
「ま、まあ…」
「…ふぅ、それしか手はなさそうね…」
珍しくヒカリが”不正”を黙認した。
いったいどうした?
「いいのか?」
「…良くないわ!私的には絶対に認められない…。けど、今回の件は私が原因だから…」
ヒカリの顔が悔しそうに歪む。
「…なんか、わるい」
「…いいわ、その代わり”絶対”に成功させるわよ!」
「ああ!」
「”K”聞いてるか?」
俺は空に向かって尋ねる。
ピコピコ
お知らせ :
聞いてるよ!
握手会のチケットでしょ?
OK!ちょっと待ってて!
”正規”のチケット送るね!
「え?なんて!?」
ピコピコ
お知らせ :
うん?
正規のチケット送るって。
「何で正規のチケット持ってんだよ!?」
ピコピコ
お知らせ :
え?だって私の会社、今回の握手会のメインスポンサーの一つだし。
「会社てなんだよ!?」
ピコピコ
お知らせ :
私が昔作った会社が日本で大きくなったの。
ゲーム会社なんだけどね!
「…もう、何でもありだな、お前」
ピコピコ
お知らせ :
えへへ…照れるなぁ。
「褒めてねーよ!」
ピコピコ
お知らせ :
つれないなぁ…遥くんは。
まあ、いいや!
チケット送るねー!
すると空間からチケットが現れる。
「…本当に手に入っちゃった…」
ヒカリが呆然とチケットを見つめる。
「…さすが”K”様です…」
「…」
マルタもクロノスも呆れ顔だ。
「ま、まあ、これで”不正”せずに握手会参加できるんだから…」
「そ、そうね!これで一安心?」
ヒカリも慌てて言い募る。
「じゃあ、作戦内容を話すぞ!」
………




