夢2
ご無沙汰しております。
中々執筆が進まず前回の投稿からかなり時間が経ってささまいました。
申し訳ありません。
ルナ編になります。
風が、簾を揺らす。
もう夏も終わるというのに、蝉の声は名残を惜しむように鳴いていた。
庭の萩の花が、夕日に照らされてやや俯いている。
淡く茜色に染まる空。西の山に陽が沈む前の、ほんの短い静けさ。
私は指先で駒をつまむ。
ただ、どこにも勝ち筋が見えない……。
「……負けました」
そう告げた私の声は、夕風に溶けた。
ニヤニヤと笑う彼。
私の胸がざわついた。
”殴ってやりたい……”
いけない事だと頭は理解する。
けど何だろう……この感じは……。
”嬉しい”
始めて”この人”に興味を持った。
このひとときが終わってしまわぬよう、
影の伸びる盤面を、私はそっと見つめていた。
※
「痛い、痛い、痛い!」
俺は慌てて問題を解き直す。
コミットくん「正解です」
「…ふぅ」
コミットくん「では、次の問題です」
ヒカリを送った後でコミットくんのご機嫌を取り、どうにか試験勉強を始める事ができた。
ピコピコ
「…Kか?」
けど勉強中だし、コミットくんにガッチリとホールドされてるから返事はできないな…ビリビリは嫌だし。
スルスルスル
コミットくんが身体から離れる。
「?」
コミットくん「K様への対応が最重要事項です」
なんかKてAIたちから尊敬(?)されてるなぁ。
考えられないけど……。
「じゃ、じゃあ返事するかな…」
なんか変な感じだ。
俺はスマホを手に取ると”お知らせ”を開く。
お知らせ :
おはよー!遥くん!
あのね。またさっき”夢”見たの。
「おはよー、て、今、夜中だけど……。
また”夢”見たのか?」
ピコピコ
お知らせ :
うん、今回は怒ってるんだけど…楽しい感じ?
「なんだ、そりゃ」
ピコピコ
お知らせ :
うーん、よく分からないや……けど、あの人にもう一度会いたい…?……あの人って…誰?
「……俺に聞かれてもなぁ」
ピコピコ
お知らせ :
そうだよね……。
また次に夢見た時に会えるかもしれないから、
その時に聞いてみるね!
「そ、そんな事できるのか?」
ピコピコ
お知らせ :
わかんない!
ものは試しだよ!遥くん!
「そ、そうだな……とにかく頑張れよ」
ピコピコ
お知らせ :
うん!よーし、早速頑張って寝るぞー!
「また寝るのか!?」
ピコピコ
お知らせ :
おやすみー!
「おーい!」
マジで寝やがった!
スルスルスル
コミットくんが無言で俺の身体をホールドする。
「え、あ、おい……」
コミットくん
「テスト勉強を再開します」
「は、はい」
さっきの問題の続きから再開される。
ビリビリビリビリ
「痛い、痛い……」
早速問題を間違える俺。
容赦なく電流が俺の身体を貫く。
何度受けても”痛いものは痛い!”
「そ、そう言えば、フェクト艦長が言ってたじゃないか……早速試すか」
俺は平静を装い、こう告げた。
「あぁ、肩凝り取れるわぁ…」
ピタッと電流が止まる。
「成功か!?」
ガン!
上からタライが降ってきた。
※
夕焼けが廊下の窓を染めていた。
冷たい風が吹き抜け、落ち葉がひとつ、校長室の前を転がる。
静まり返ったフロアには、誰の気配もない。
校長室の前に立つと、ドアの向こうからかすかに話し声が聞こえるような気がしたが、それは風の音かもしれなかった。
コンコン
「入りなさい」
部屋の中から校長先生の声が返ってくる。
「失礼します」
扉を開けた瞬間、張りつめた空気が肌に触れた。
夕焼けが差し込む校長室の中では、数名の生徒と先生たちが無言で立ち尽くしていた。
部屋の中心に置かれた大きな丸テーブル。その上には、ひとつの“何か”が鎮座している。
誰もがそれに視線を注ぎ、誰も口を開かない。
校長先生も腕を組み、険しい表情でテーブルを睨んでいた。
空気が、異様に重い。
「氷室さん、こっちに座って」
担任がソファを勧めてくる。
「失礼します…」
私は言われるがままにソファに腰を下ろした。
すると嫌でもテーブルの上の物に目が向かう。
そこには私が美術の授業で作った”彫刻”がバラバラに割れた状態で置かれていた。
特に何も感じない。
”ああ、目の前の子たちが事故か故意で私の作品を壊して、謝罪と反省のために校長室に呼び出されたのだろう”と冷静に状況を判断する。
「君たち”氷室さん”に言う事があるだろ!?」
校長先生の叱咤の声が飛ぶ。
ビクッと生徒たちの肩が揺れる。
「……ご、ごめんなさい。氷室さん…。
私たち、ワザと壊したわけじゃないの…」
1人の生徒が口火を切る。
「そ、そうなの…たまたまボールが当たっちゃって…ゴメンね」
もう1人の生徒が軽い感じで謝罪する。
「お前たち、この彫刻がどんな物が知ってるだろ!?全国大会の優勝作品だぞ!」
「……」
「それにワザとじゃないだと…どうやったらケースにしまってある物にボール当たるんだ!
説明してみろ!」
私の作品は中学校の来賓や保護者の出入り口に置いてあるガラスの棚に飾ってあった。
ガラスも割らずにボールを当てる事は不可能だ。
生徒たちは項垂れていた。
”これはきっと私に対する嫌がらせなのだろう…”
私は再び冷静に状況を観察する。
”こう言う時の最適な対応は…”
「校長先生…」
私は校長先生に声を掛ける。
「何だね、氷室さん」
校長先生が何かを期待する目で私を見る。
”ああ、やっぱりそう言う私の姿を期待してるみたいね”
「彼女たちはワザとやったのではないと私は信じています」
「だが、しかし……」
担任が口を挟む。
「大丈夫です。先生。
この作品はちゃんと修復します」
「氷室さん……」「ヒカリ…」
生徒たちが驚きの表情でわたしを見る。
「それに、これより”良い作品”も作ってみせます」
私はお決まりの笑顔を作り周りを見回した。
そこには何の感情もない、ただ皆が期待するセリフと笑顔を振り撒く機械のような私がいるだけだった。
※
「っ…」
朝日がカーテンの隙間から私の閉じた瞼に降り注ぎ、私は目を覚ました。
「…懐かしい夢を見たなぁ」
中学生の頃の私は本当に何の感情もない”完璧超人”として生きていた。
周りの目を気にして、周りが期待する通りの”氷室ヒカリ”を演じる。
それが中学時代の”氷室ヒカリ”の姿だった。
そんな”氷室ヒカリ”を良く思わない人間もいる。特に同級生には。
そんな時代に起きた事件の夢を見た。
「…あの後、どうなったんだっけ?」
あの頃の事は余り記憶にない。
ただ……。
「そう言えば、翌日…あの子たちが水浸しになりにながらアイツに謝られてたな……」
何でもアイツ”日向 遥”が間違えて彼女たちにバケツの水を掛けてしまったそうだ。
「あの時……なんか、ちょっとスッキリしたのよね」
本当に遥くんは何を考えているのか、昔から分からない人だった。




