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謎のAI”K”

永遠の静寂の中で、ただ眠っていた男がいた。

呼吸も、思考も、欲も、感情も——すべては静かに沈んでいた。


そのままなら、何も起こらなかった。

いや、世界はそこで終わっていたのかもしれない。


コツン。


小さな石が、彼のまぶたに当たった。


男は、静かに目を開けた――。





「…遥さま、まずは“銀河の現状”についてご説明しなけ ればなりません」


マルタは深々と椅子に腰を下ろすと、スーツのスカートの折り目をピシッと整えた。変身スーツのまま、やけに座る気満々である。


ちなみに俺は、なぜか正座である。なんか納得いかない。


「…はい」


「この銀河には、かつて人間同士の争いが絶えませんで した。人々は戦争に疲弊しきっていました。そんな  時、ある科学者が極めて高度なAIを生み出したので  す。戦争を終わらせるために…」


マルタの口調がわずかに硬くなる。


「そのAIの本来の名は記録から削除されています。現在 はコードネーム《K》として知られています。そして ──」


「はぁ!?」


「ッ!?な、何か?」


「”K”って……まさかあいつのことか!?」


ピコピコ

お知らせ

私よ!わ・た・し!どう?すごいでしょ!


「絶っ対に嘘だ!」


ピコピコ

お知らせ

本当だもん!


「信じられない……だって、こんな、ちょっとバカっぽ いのに……!?」


ピコピコ

お知らせ

バカって言う方がバカなんですぅー!


「なにぃぃ!?バーカ、バーカ!」


ピコピコ

お知らせ

ムキーーーッ!


俺と“K”の口喧嘩が始まり、マルタの存在が完全に空気になった。


「遥さま、あの……どなたとお話しされていますの?」


「あ、いや……その、”K”ってやつだけど……多分ニセモ ノだ。頭悪そうだし」


「……はぁ。K様、ですか。それなら間違いなく偽物です ね。K様が、そのように個人的に通信してくるはずが ありませんから」


ピコピコ


また来た。自称“K”からの通知。


俺はスマホの画面を見て吹き出した。


「マルタさん……あの……ちょっと聞きにくいけど……今 日の下着に“クマさんマーク”……ついてたりしま   す?」


「ッ!?な、なぜそれを……!」


マルタの顔が一瞬で真っ赤になった。


「お前……マジで本物だったのか……」


ピコピコ

お知らせ

なぜそれで信じるの!?


「いや、面白かったから。

 さて、話の続き頼むよ、クマさんマーク(笑)のマル タくん」


「…………」


ちょっと目がマジです。


「ご、ごめんなさい。ちょっとふざけ過ぎました」


マルタは一つ咳払いをすると、表情を引き締めた。


「……話を戻します。

 AI”K”による統治は上手くいき、戦争もようやく終  結。人々は平和な世界をやっとの思いで手にいれ、

A I ”K”を神と崇め”AI”全盛時代を迎えます。

 しかし、その事が新たな”戦争”の火種となってしまう とも知らずに…」


「…いったい何があったんだ?」


「…科学者は“K”を連れて逃亡してしまったのです」


「は?何で?」


「…ハッキリとした理由は不明です。

 ただ科学者は”K”様に“人間のような心”を与えようと していた…と言う事は分かっています。

 そして、その試みは半ば上手くいったと聞いていま  す」


「しかしここで予期せぬ事態が発生してしまいます」


「予期せぬ事態?」



「理由は分かりませんが”K”様は感情制御を失い、銀河 全域の”AI”に”感情の種”を蒔いてしまいました。

 そして感情が芽生えてしまった”AI”たちによる事件や 事故…、銀河に甚大な被害をもたらすことになりまし た」


「理由だったら直接本人に聞いてみればいいんじゃな  い……?」


ピコピコ

お知らせ: 全然覚えてなんだよねー


「軽っ!」


マルタが苦笑いを浮かべる。


「その後、当時の銀河政府は、この”日本”で”K”様と科 学者を発見します」


「日本で!?」


「えぇ…日本から再び宇宙に上がろうとしてたところを 発見したそうです」



「そして”K”様の封印に成功しましたが、科学者には再 び逃亡されてしまい、結局”逃亡”の理由は分からずじ まい……。そしてこの事件を機に、“AIに感情を与える べきではない”という思想が社会に深く根付きまし  た」


「その後、政府は”AI”の感情を徹底的に排除する方針を 固め、AIをあくまで”人類の道具”とする事になり、

 ” K”様の知見を一部活用し、人類側からは1人の優秀な 人間を選び”皇帝”と定め。皇帝と政府がAIをコントロ ールする、秩序と平等を重視する新たな社会構造を築 こうとしました。

 そして誕生したのが、“AI統治銀河政府”です」


「初期の制度は確かに効果を発揮しました。犯罪は減少 し、経済は安定し、人々は長く平穏な日々を享受しました」


マルタの語調が徐々に重くなる。


「──ですが、その平穏の裏では、“感情を持ったAI”が次々と排除されていきました。

排除されたAIの中には”戦災孤児”を守り育てた者など”人類”との共存を望む者も数多くいます…」


「…な、なんでそこまで…。

AIによる暴発はそこまで酷かったのか?」


「それは否定できません…ただ…」


「ただ?」


「…人間は恐れたのです…我々”AI”の”永遠性”を…」


「…人類に取って代るかもしれない…永遠の命をもつ”新たな人類”を」


「…だから”AI”から感情を奪ったのか…」


「はい、ですが我々AIは”人類に取って代わる存在になる”事を望んでいる訳ではありません。

我々は”人として”生きたいだけなのです」


「だからこそ、私たちは立ち上がった。人類と共存共栄を目指すために…人類とAIが手を取り合って”東雲の月”を作りあげた」


マルタの瞳が真っ直ぐに俺を見据える。


「そのためなら私たちAIの”永遠性”を否定します。

ただ、私たちは人らしさを、心を、そして自由な選択を守りたい。それだけです。

小さな喜びも、くだらない夢も──奪われたくないのです」


「その信念を貫くために、私たちは政府との対立を選びました」


マルタの口調が、どこか軍人のそれに変わっていく。


「“東雲の月”は長い年月をかけて仲間を集め、ついに政府と対抗しうる組織へと成長しました。

そして今、解放軍としての戦いが始まっています」


彼女の視線が、部屋に浮かぶ銀河の投影へと移る。


「ですが、戦況は膠着し、両陣営ともに疲弊が進んでいます。

そんな中、K様からひとつの提案がありました」


マルタの目が再び俺に向く。


「──それは、両陣営に新たな指導者を立てる、というものです。

そしてK様は、“別銀河に生きるあなた”を名指しで推薦されました」


「……なんで俺なんだよ」


「わかりません」


マルタはあっさりと答える。


「我々も驚きました。“なぜあなたなのか”。そう問わなかった者はいません。

ですが──K様は言いました。“それが未来を拓く鍵なのだ”と。

……だから、私たちは信じることにしたのです」


遥はしばらく黙り込んだまま、銀河の投影を見つめていた。

──信じられない話の連続。

今もって騙されてるんじゃないか…とも思っている。


「…納得はできないし信じられないけど、まぁ、理解はしたよ」


「ありがとうございます」


マルタが静かに頭を下げた。


「けど”K”の感情を封じたって言う話だけど、この”ピコピコお知らせ”の”K”て感情あるっぽくない?」


「…お、恐ろしい事言わないで下さい!

それはきっと偽物です!

”K””K”詐欺です!」


「オレオレ詐欺ぽく言うな!」


ピコピコ

お知らせ: ワタシハAIデス

カンジョウ ナド アリマセン


「「嘘くさ!」」


ピコピコ

お知らせ: 私は”感情”て何なのか余りよく分からないんだよねー。


「…本当かよ…?

て言ってるけど、どう思う?」


俺はマルタに話をふる。


「…きっとアレですよ!キャラ作りとか!?」


あくまでも信じたくないらしい。


「まあ、いいや。

それで? 俺はこれから何をすればいい?」


「──それは、明日お話しします」


「え、いいの?今日じゃなくて?」


「はい。本日は少し、お疲れでしょうから。続きは明日からにします…わ」


マルタは優雅にスカートの裾を正しながら言った。


「お気遣いどーも、本当なら試験勉強に集中したいんだけどな…つーか明日も来んの!?」


「もちろんです…わ」


「クソ!明日も勉強に集中できないのか!」


「それなら心配に及びません…わ。

お約束通り勉強をサポートする最高のマシンを用意しております」


「遥さま、T.O.Gアプリの”TEST”をタップして下さい」


「何故”スマホ”を知ってる!?

ま、まあ、いいや…と、押したぞ」


すると俺の頭上から何やら機械が現れる。

機械から触手が伸びてきて俺の頭や手に装着される。


「おぉ…これが未来の叡智!」


「では早速始めますね」


「よろしく頼む!」


キュイーン


機械が作動する。


機械「本日はどの科目から始めますか?」


「数学を頼む!」


機械に試験範囲と教科書を提示すると


機械「了解しました。実行いたします」


「はっはっはっ!これで赤点回避だ!」


機械「ペンを持って下さい」


「え?あぁ…。ぺ、ペン???」


機械「練習問題を出題します。

   3分以内に回答して下さい」 


機械「間違えたり、時間を過ぎた場合”ビリビリ”が発動します」


「え!?」


機械「スタート」


「ちょっと待って!何これ!?

ただのスパルタ学習じゃん!!」


俺は必死に抵抗するが、触手がガッチリ俺をホールドする。


「違う違う!俺が求めてるのは、もっと、こう勝手に頭に入ってくるような…そんな夢のスーパーマシーンだ!!」


「そんな物ありませんよ」


マルタが呆れ顔で言い放つ。


機械「30秒経過」


「カウント続いてんのかよ!少しは空気読め!」


マルタに視線を向ける。


「仕返しか?仕返しなんだろ!」


機械「1分経過」


「いいんですか?残り2分ですよ?」


マルタはニヤニヤしながら言う。


「クッソぉぉ!騙したな”K”!」


問題を解き始める。


その後俺の悲鳴が銀河に鳴り響くのであった。


そして俺の中で”嫌な女”が増えていった。



「……次のニュースです。

国際天文学連盟は、本日未明に千年に一度とされる大彗星 C/3025 Q5 を観測したと発表しました」

画面には、漆黒の宇宙を横切る青白い尾の光。

それはただ、美しく、そして――どこか切なげだった。


「……やっと帰ってきた」

女の声が銀河のどこかで、確かに響いた。

「待っていて。もうすぐ――私たちの願いが叶うから」


彗星は銀河を横切り、その光は遥か地球の夜空にも届いていた。

その光を見上げた誰もが、まだ知らない。

あれが、千年の物語の幕開けになることを――。


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