夢
竹が揺れる。
笹の葉たちの騒めきが静寂を破る。
ゆらゆらと揺られる私の頬を心地よい風が撫でた。
”気持ちいいなぁ”
「あらあら、目が覚めたのね」
母の嬉しそうな顔が間近に見える。
何故だか私も嬉しくなった。
「あ、あんた。この子が笑ったよ!」
この時私は生まれて初めて笑った。
※
ピコピコ
スマホから”K”からの”お知らせ”音が鳴る。
「…」
俺はベッドに脇のスマホを取ると時間を確認する。
「…5時て」
とりあえず寝てしまおうかと思ったが、しつこそうだから内容を確認してみよう。
お知らせ:
おはよー!遥くん!
なんか今朝ね、変な”夢”を見たの!
「…寝てれば良かった…」
ピコピコ
お知らせ: 冷たいこと言わないでよー。
私と遥くんの仲じゃん!
「疲れてんの!昨日の戦いで!
て言うかAIて”夢”見んの!?」
ピコピコ
お知らせ: うーん、初めて見たかも?
「…それなら、ちょっと驚くな。
で、どんな”夢”だったんだよ?」
ピコピコ
お知らせ: なんか”気持ち良い”夢。
あまり覚えてないかも…。
「そっか、まあ”夢”なんてそんなもんだ」
ピコピコ
お知らせ: 遥くんは”テストで赤点取る”夢でも見てたの?
「なんで知ってんだよ!?」
ピコピコ
お知らせ: え、だってうなされてたし…。
「…起こしてくれて、ありがとうございます!」
ピコピコ
お知らせ: どういたしまして!
それにしても昨日のヒカリちゃんは怖かったねー。正に”魔王”だね!
ちなみにヒカリちゃんには内緒ね!
「言えるか!
まあ、今回は何とかなったけど、もう勘弁してもらいたい…」
ピコピコ
お知らせ: まあ、誰のせいかは問わないけどね。とにかく遥くんも凄かったよ!
”帽子”の件は”あれ”だけど。
「ありがとさん。
けど何でお前は戦いの最中は一切連絡してこないんだ?聞きたい事とかあるのに…」
ピコピコ
お知らせ: 私は”戦争”に介入できないんだぁ。
そう言う”決まり”なの。
「…そう言う事か。なるほどな」
ピコピコ
お知らせ: 遥くんも”サウナー”への道を歩み出したし、これで”立派な指揮官”になれるね!
さすが私のフェクト師匠だ!
「なんで”お前の師匠”なんだよ!」
ピコピコ
お知らせ: え?だって私の”座右の銘”だし。
「…ここにもいたよ…弟子が」
ピコピコ
お知らせ: まあ、いいや!
また後で学校でね!
「何で学校?」
ピコピコ
お知らせ: だってヒカリちゃんと話し合うでしょ?宝について。
「お前も参加すると?」
ピコピコ
お知らせ: 当たり前だのクラッカー!
「昭和生まれか!」
ピコピコ
お知らせ: そんなわけだから、また後でねー。
「ああ、また後でなー」
もうこの”ピコピコお知らせ”面倒くさいんだが…。
直電とか出来ないのかな…。
もう寝れなさそうだし学校行く支度でもするか…。
※
「おはよー」
教室内ではいたる所で朝の挨拶が交わされていた。
「ふぁぁ、眠い…」
朝早くから”K”に叩き起こされた俺はいつも通りの”遅刻ギリギリ”の時間に登校した。
早起きしたのだから何故早くに来ないのか?だって?
朝の時間は貴重だ!
一分一秒でも長くダラダラしたい!
まあ、母親には呆れられたが…。
「…おはよう、あ、相変わらず、ね、眠そうね」
ヒカリにしては珍しく”淀みのある”挨拶をしてくる。
「よう、今日はいつもの”キレ”がないな、何か良い事でもあったのか?」
「べ、別に”良い事”なんてないわ!」
ヒカリが顔を真っ赤にして立ち上がる。
うん、いつもと変わらず”煽り耐性ゼロ”で一安心だ。
「みんなが見てるぞ」
「っ!」
ヒカリが恥ずかしそうに席につく。
「…ほんとに、あなたって人は…」
「悪い、悪い」
からかうのはこれくらいにしておこう…面白いけど。
「…今日の放課後、忘れないでよ」
「分かってるよ…マルタも呼んだけど大丈夫だろ?」
一応確認だ…怖いからな。
「…”筋肉ダルマ”バージョンでしょうね?」
「も、もちろん!」
目が怖いって…。
「なら、大丈夫よ。クロノスも呼んであるし…」
「そっか、なんか”K”も参加するみたいだぞ」
今朝の出来事をヒカリに説明した。
「AIて夢見るの!?」
驚くヒカリ。
「…なんでも”初めて”らしいぞ」
「…」
「…なんで”K”は”5つの宝”探しに協力的なのかしら?」
「…なんか”夢見るAIと関係”があるのかもな…分からんけど」
「そうね…。そう考えるのが自然かもしれないわね…」
ヒカリが考え込む。
「まあ、放課後聞いてみればいいさ」
「…そ、そうね」
ヒカリの目が少し不安気に揺れていた。
※
昼間の暑さも陰りを見せ始めた夕刻、私は学校の屋上の扉の前に立っていた。
ガチャ
そっと扉を開く。
「…誰もいないみたね」
フェンス越しに見える街を見渡しながら私は口元を緩めた。
「…本当に未開の地ね…気温調整も出来ないなんて」
昼間の暑さから少し和らいだとは言え、日差しの強さと暑さはまだまだ健在だった。
「…暑いわね」
先ほどから汗が止まらない。
「…筋肉スーツは冷却機能がついてるはずなのに…」
そんな事を考えていると空間から1人の男が現れる。
「おやおや、貴方だけですか?」
ヒカリさんの”執事”のクロノスだ。
「貴方こそ、随分早い到着ね」
「当然ですよ。主人を待たせる執事がどこにいますか?ところで…」
クロノスが珍しく言い淀む。
「何か?」
「その姿で、その口調やめてもらえますか…何と言いますか…”キモい”です」
「キモいて言うな!」
そうだった!私は今遥さまの言う所の”筋肉ダルマ”だった!
「これは失礼を。根が正直なもので…。
ところで…」
「今度は何よ…だ!」
「…まあ、いいでしょう。
何故貴方ほどの人があんな”小さなポンコツ”の世話を焼いているのですか?」
「遥さまを悪く言うのはやめてもらおうか」
「おっと、貴方を怒らせる気はないのですよ。
ただ”あの男”に何かあるとは私には思えないのでね…」
「やめろと言っている!
確かにあの方は”ポンコツ”だし”ものぐさ”だ。
しかも”勉強”も出来ない…それでも…アレだ?
えーと…くっ、何も出てこない!
けど、と、とにかく”何か凄い”んだ!」
「…大丈夫ですか?無理してませんか?」
憐れみの目を向けるクロノス。
「その目をやめろ!
これ以上続けるのなら、あの日の続きを始めてもいいのですよ!クロノス!」
「…分かりました。
やめておきましょう。ところで…」
「まだ何かあるのか!?」
「…汗凄いですよ。大丈夫ですか?」
再び心配される私だった。
この暑さおかしいでしょ!?




