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口調!

海賊の支配区域を抜けた俺たちは、“惑星ダーネット”へ急行した。


「陸戦兵の準備を急がせろ! 時間がないぞ!」


ブリッジではクルーが慌ただしく動き回っている。


「マルタ中佐! 陸戦部隊は貴官に任せる。いけるな?」


フェクト艦長の指示に、マルタは胸を張る。


「はっ! お任せください!」


どうやらマルタは上陸作戦の指揮を取るらしい。“惑星ステイトの戦姫”の名は伊達じゃない。


「日向司令官!」


「は、はい!」


俺はドキドキしながら指示を待つ。


「あなたは試験勉強の続きを──」


「なんでだよ!」


俺だって「はっ!」とかやってみたいじゃん!

せっかくだし、一応やっとく?


「あの……フェクト艦長。せめて軍隊っぽい仕事を……」


おねだりしてみた。


「うーむ……では、日向伍長!」


「ご、伍長!? 司令官って伍長でもいけるの?」


「貴様には“クルー”へのお茶配りを命じる!」


「昭和のOLか!」


昭和知らんけど。


「遥さま、あまり無茶言わないでください! 艦長だって困っておられます!」


マルタが間に入る。


「……はは」


フェクト艦長は頭をかき、困った笑みを浮かべた。


「遥さまは何もできないんですから、大人しく勉強していてください!」


「……はい」


オペレーター「ダーネット政府より入電! こ、降伏するとのことです!」


「「「早っ!」」」



惑星ダーネットに降り立った俺たちは、すぐに代表との面会へ向かった。

東雲の月からは俺、フェクト艦長、マルタの3人が代表として選ばれ、護衛に2個中隊の陸戦部隊がつく。


代表のもとへは車で移動する。


「……随分と活気がありませんな」


フェクト艦長が窓の外を見ながら呟く。

俺もつられて外を見ると、確かに人通りが少ない。繁華街らしき通りもシャッター街と化していた。


「……折からの不況で……」


迎えの役人がぎこちない笑みを浮かべる。


「……なるほど、ね」


マルタの目が鋭く景色を見回していた。


やがて着いた先は──まさかの“高級料亭”だった。



「どうぞこちらへ」


仲居に案内され、奥の一室へ。

テーブルには豪華な料理が並び、その向こうにデップリと肥えたオッサンたちが鎮座していた。


「足など崩されて、ゆっくりとご寛ぎください」


言われるがまま席につくと、オッサンたちは一斉に平伏した。


「この度はよくぞ起こし下さいました…」


最初に声を上げたのは、この星”惑星ダーネット”の代表だった。


「こちらには我が惑星で取れる最高の食材を使った料理をご用意しております…お口に合えばよろしいのですが…」


もう1人の肥えたオッさんが遠慮がちに料理を進める。


「時間がないのでな、すぐに話を始めたいのだが……」


フェクト艦長の声に、代表が慌てて口を開く。


「まあまあ、そう言わずに艦長殿……君! お酌をせんか!」


「いえ、結構。任務中ですので。

我々は今後の話をするためにここまで来たのであって、“もてなし”を受けに来たわけではありません。先ほども申しましたが、時間がないのです」


……料理がもったいない。でも嫌な予感しかしないので我慢。

隣のマルタは料理しか見てない。後でカップラーメン差し入れしとくか。


「……分かりました。では、こちらをどうぞ」


代表が高級そうな木箱を差し出す。

フェクト艦長が蓋を開けると──


「っ!」


声が出そうになった。箱いっぱいの金子。

ちなみにマルタは金子に目もくれず、料理をガン見中。


「ふぅ……で、我々にどうしろと?」


フェクト艦長の問いに、代表たちは嬉しそうに顔を上げる。


「いやぁ、話が早くて助かります! 実はですね、我々は“東雲の月”に加えていただきたいのです」


「ほう。我々と共に歩もうと?」


「その通り! 我々は銀河連邦に属しつつも自治を認められておりました。

しかし、新しく皇帝の座についた“小娘”のせいで、代々守ってきた自治が奪われそうなのです!」


艦長は黙って聞いている。


「あんな顔だけの小娘に誇りを奪われては堪らない──そう思っていた矢先に、あなた方が我々を“解放”しに来てくださった。まさに救世主です!」


「分かりました。受け入れるかは上層部と話し合って決めます」


「ありがとうございます!」


「ただし、今は我々がこの惑星を占拠している。この事を公表してよろしいか?」


「もちろん! ……ただ、その前にお願いがありまして」


代表が身を乗り出す。


「我々が加入後も、このダーネットの自治を認めていただけるよう、お口添えを……もちろん謝礼はいたします」


うん、“ザ・悪代官”だ。


「……そのような話、受け入れるとでも?」


「は?」


「我々をバカにするのも大概にしろ」


フェクト艦長が立ち上がり、怒りを露わにする。


「マルタ中佐!」


「へ? あ……はっ! 調べはついております!」


絶対話聞いてなかったよな?


「よろしい。彼らに教えてやれ。自らの愚かさを」


マルタはにこやかに役人たちを見回す。


「よくもまあ、ここまで好き放題やらかしましたねぇ!」


「な、何を言って……」


「国民からの搾取、賄賂、脱税……そりゃあ皇帝陛下も自治権を取り上げるべきだって思いますよ。私たちも、ね」


「ひっ!」


マルタの表情が変わり役人たちが怯える。


「……しょ、証拠でもあるのかね!?」


来た、このお決まり台詞。


「○月○日、財務官と会食 二千万円。

○月○日、連邦議員と会合 五千万円。

○月○日……まだ続けます?」


「い、いつの間に……!」


「そんなの、ここに来るまでに全部調べてますよ。バカにしてます?」


誰、この人? うちのポンコツどこ行った?


「くっ……そこまでバレては仕方ない。警備兵! 出合えい!」


悪代官、テンプレ通り。


現れた警備兵が俺たちを囲む。


「……愚かな」


フェクト艦長は微動だにしない。


「ふっ、貴様らが連れてきた兵力には及ばないが、3人程度なら造作もない! 貴様らを捕らえて皇帝陛下との取り引き材料にしてくれる!」


「……マルタ中佐」


「はっ!」


デデンデンデデン──マルタが“筋肉ダルマバージョン”に変身。


「き、貴様……! そのなりで女のフリしてたのか!? キモいわ!!」


代表がごもっともなセリフを吐く。


「誰がキモいのよ!」


「中佐! 口調!」


その姿でその口調はやめろ! キモいわ!


「あ、ごめんなさい……つい」


だからやめろ!


マルタが表情を変える。


フッ


一瞬の出来事だった。


ズガーン──建物が揺れる。

一瞬で数名の警備兵が壁にめり込んだ。


ズドーン──代表を守っていた警備兵が吹っ飛ぶ。


マルタは代表に顔を近づけ、ニコリと微笑む。


「まだやりますぅ?」


……だから口調!!


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