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赤蛇海賊団と整い神

「そのまま進軍を続けよ!

海賊どもからの攻撃があっても、こちらからは手を出すなよ!」


フェクト艦長が真剣な顔で指示を飛ばす。

とても”コミットくん”の話をしてた人には見えないな…。


ブリッジの空気がピリついていた。


ビービー


オペレーター「き、来ました!海賊船団です!

四方から接近中!我々を取り囲む気です!」


艦隊の数ならこちらの方が多い…だけど戦闘してる時間はない…。


「回線を開け!ワシが直接話してみよう…」


フェクト艦長が海賊と話をつけるみたいだ、流石に肝が据わってる。


オペレーター「回線繋がりました!映像出ます!」


メインモニターに海賊船内部が映し出される。


中央には大男が偉そうに船長椅子に座っている。


「よお!東雲の!

なんだよ、そんな大軍率いて。

俺たちを討伐しに来たのかい?」


大男はニヤニヤ笑いながらこちらを探ってくる。


「あ、あれは”赤蛇海賊団”…ま、マズイ」


マルタから声が漏れる。


「え、そんなにヤバいの?」


「…ええ、ヤツらに話は通じません。

ヤツらは”戦闘狂”です。

数が不利でも絶対に引かないでしょう…。

くっ!ここまできて!

ヤツらに出くわしたからには”戦闘”は避けられません…」


最悪だ!俺何か悪いことした!?


「我々は今作戦行動中だ。

そこで貴殿らの領域を通過する許可をいただきたい…」


フェクト艦長は言葉を選びながら交渉を始める。


「…あんた。

フェクト艦長か…?」


赤蛇船長の目の色が変わる。


「いかにも私がフェクトだが?」


「おお!やっぱりあんたが、あの”整い神”か!」


?”整い神”?


話が変な方向に向かってない?


「古い呼び名だ…私の”異名”を知っている…と言うことは貴殿も?」


「ああ!俺もだ!

こんな所で”心の師”に出会えるなんてな!」


強面の船長が満面の笑みを浮かべる。


おやおや、これはなんか上手くいきそうな雰囲気では…?


「…だが、すまねぇ、師匠…」


フェクト艦長”師匠”になっちゃったよ。


「いくらアンタの頼みでも、ここをタダで通す訳にはいかねぇ…、他の海賊団に示しがつかなくなっちまう…」


赤蛇船長の顔が苦渋に歪む。


「…そうか…悲しい定めだな…弟子よ…」


「…し、師匠っ!」


何この展開?そして何の話?赤蛇船長”弟子”になってるし。


「じゃあ、戦闘開始するぜ…師匠!」


「来い!弟子よ!胸を貸してやる!」


「開始すんな!」


バシッ


見かねたマルタがフェクト艦長を叩いた。


「ちょ、おま、し、師匠に…」


マルタは構わず続ける。


「赤蛇海賊団、船長殿。

我々の新たな指導者が貴殿との交渉を望んでおります。お連れしても?」


「へ?

あ、ああ構わないぜ!

ただ誰が来ようと話は変わらないがな!

ワッハッハ!」


赤蛇船長もかなり動揺していた模様。


で、


俺が交渉すんの!?


「さ、遥さま、こちらに…」


ニコニコと微笑むマルタ。

コイツ今回暴れ過ぎだろ!


どうにかあの船長の心象を良くできないだろうか?

俺は辺りを見渡す。


はっ!この帽子!


こいつなら船長もきっと笑ってくれる!

蛇ついてるし!


俺は再び帽子を被りマルタの元に向かう。


「ぶっ!な、なんでまた”変な”帽子かぶってるんですか!?」


マルタが焦っている。


「…いや、ちょっと和んでもらおうかと…」


「和むどころか、逆に怒らせちゃいますよ!

いいから、脱いで下さい!」


俺とドタバタと取っ組み合いしていると、赤蛇船長がシビレを切らす。


「おい!早くしろ!何してやがる!」


「「は、はい、ただいま!」」


俺はマルタを振り切り、モニターの前に飛びでる。


「あぁぁ…」


マルタがぐずれ落ちた。


「お待たせした。船長。

私が”東雲の月”の司令官の”日向 遥”だ!」


どう?この口調と見た目のギャップ?

面白い?


「ワハハハハ!」


成功!?


「何の冗談だ!こんな小僧を寄越して!

早く”司令官”連れて来い!」


ああ、失敗ね。


「変な帽子被りやがって!

バカにして…ん…の…!?」


赤蛇船長の目が見開く。

よほどこの帽子がひどかったのだろう。

やはりこの帽子のダサさは銀河級だ。


「こ、小僧…その帽子…どこで手に入れた?」


「へ?ああ、じいちゃんからもらいました…」

ちょっと凹む俺。


「じ、じぃちゃ…。そうか分かった。

小僧、その帽子はな…」


「船長!帽子の話はもうやめておきましょう……意味はお分かりになるでしょ?」


分かってるでしょ?

俺がこれ以上この恥辱に耐えられない事を。

泣くよ!マジで!


「…なるほどな。

それでお前が司令官に…やっぱりアンタは面白いな!おかしら!」


赤蛇船長が天に向かって叫んだ。


ガバッ


赤蛇船長が跪く。


「これより我ら”赤蛇海賊団”は”日向司令官”の麾下に加わる!」


「「「は?」」」


クルー全員の声が綺麗にハモった。





果てしなく広がる星々を眺めながら、俺は思った。


「何故こうなった?」


来週から始まる(来週!?)期末テストに向かって邁進する予定だった俺が、いまや…。

”東雲の月”と言うレジスタンスの司令官に任命され、同級生のヒカリと銀河をかけて戦争することに…。

挙句の果てに…。


「遥司令官!さあ、ご命令を!

なんなら銀河政府の艦隊をぶちのめしにいきましょうか?」


赤蛇海賊団が俺の配下になると言う、とんでも展開に発展した。


もう一度言おう。


「何故こうなった!?」



「いや、あの、そこまでは…」


「そうか…」


モニター越しに赤蛇船長がつまらなそうにする。


「どうするんですか!?この展開!!」


小声で叫ぶ(器用だな)マルタ。


「知るか!俺だって困ってるんだ!?」


小声で叫ぶ器用な俺。


「と、とりあえず穏便に引き上げてもらおう!」


激しく首肯するマルタ。


「あ、あのぉ、ちょっといいですか?」


フェクト艦長と仲良く談笑している、赤蛇船長に話かける。

フェクト艦長適応能力高すぎるだろ!


「お、何か決まったかい?殲滅か?略奪か?

どっちだい?」


何その物騒な2択!?


「いや、今回はここを通して頂ければ、それで…」


「なんだ、そんな事でいいのか?つまらねーな、」


「申し訳ない!」


俺は全力で頭を下げた。

なんなら土下座してもいい!


「まあ、いいか。

この宙域はもう好きに通っていいからよ。

これからもよろしく頼むぜ!司令官!」


「は、はい!」


「そうだ…俺の名前を伝えてなかったな。

まあ、赤蛇船長でも構わないがな」


「お願いします!」


「俺の名前は”ポチャコ”だ」


「は?ポチャ…ぶっ」


何だそのギャップ!

帽子なんかより、よほど破壊力あるじゃねーか!


「…司令官…今笑ったか?」


ポチャコ船長の眉がピクピク動く。


「め、滅相もございません!」


俺は顔を真っ赤にして必死に堪えた。

周りを見たらダメだ!

他のクルーの我慢してる姿を見たら、俺は絶対に耐えられない!

集中だ!集中!

ここが生死の分かれ目だ!


「まあ、いい。

とにかく、何かあったらすぐに俺を呼べ。

駆けつけてやるからよ!

じゃあな!」


ポチャコ船長は俺に向けて片手を上げる。


「それでは師匠、失礼します!」


フェクト艦長に綺麗に頭を下げる。


この人”誰の”配下になったのかな?


こうして”赤蛇海賊団”は俺たちの艦隊から去っていった。





東雲の月の艦隊が遠くに映る。


まさかこんな未来が待ってたなんてな…。


「…船長。何故あんな小僧の配下に?」


「そうか…おめぇは知らなかったな」


副官が恐る恐る俺に尋ねてくる。


「あの帽子はな…」


………



「き、聞いた事あります!あの伝説の…」


副官は驚きを隠せないでいた。


「…そう言う事だ」


…おかしらはやっと”後継者”を見つけられたんだな…。


俺はしばらく遠ざかる”東雲の月”の艦隊を見つめていた。






「す、凄い胆力です!遥さま!

あの破壊力によく耐えられましたね!」


開口一番それかよ。

まあ、確かに全てを掻っ攫うくらいの破壊力だったが…。


クルー全員が首肯する。


「な、名前で笑うなんて失礼過ぎだろ…ぷっ!」


「わはははははははっ!

無理だ!耐えられない!名前つけた親を表彰したい!」


俺の笑い声を聞いたクルーたちが今まで我慢していたものをいっきに吐き出すように大声で笑いだす!


そこには大変平和で、大変失礼な空間が出来上がっていた。


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