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スペースX帰還  作者: 未世遙輝
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第4章:生還、そして新たなる挑戦 4.3 故郷の海へ(着水/Splashdown)


クルー・ドラゴン「エンデバー」は、4基の巨大なメインパラシュートに吊るされ、まるで天空から舞い降りる巨大なカプセルのように、メキシコ湾上空へとゆっくりと降下していた。高度は数百メートルを切り、船内は静かな浮遊感に包まれている。ユウキ・タナカの身体にかかる重力は、もはや地球上と変わらないレベルまで戻っていた。しかし、その心臓は、これから訪れる最後の瞬間への期待と緊張で、微かに高鳴っていた。マーク・ワトニーがそうであったように、彼は地球へ生還することを何よりも待ち望んでいたが、同時に彼の論理的な思考は、最後の瞬間まで気を緩めることを許さなかった。

窓の外に広がるのは、息をのむような青一色の世界だ。上空から見下ろしていた雲の絨毯ははるか上方に去り、眼下にはどこまでも続く青い水平線が、美しい弧を描いている。それは、宇宙から見下ろした地球の地平線とはまた異なる、より身近で、現実的な水平線だ。太陽の光が水面に反射し、キラキラと輝いている。

高度がさらに下がるにつれて、その青い水平線は急速に迫り、細部が鮮明になっていく。ユウキの目には、メキシコ湾の波が、かすかに視認できるようになった。波頭が白く砕け、それが繰り返される様子は、生命に満ちた地球の鼓動そのものだった。遠くには、かすかに船影が見える。彼らを回収するための船団だ。

「ヒューストン、エンデバー。着水まで、あと30秒」

コマンダーのサマンサ・ライトの声が、ヘルメットの通信機を通じて響いた。彼女の声は落ち着いているが、その中に、最終局面への張り詰めた集中が感じられた。メリッサ・ルイスがそうであったように、サマンサもまた、ミッションの最後の瞬間まで気を抜くことはなかった。

ユウキは、身体をシートに深く沈め、シートベルトを締め直した。着水時の衝撃に備えるためだ。訓練で何百回も経験した着水シミュレーションが、脳裏を駆け巡る。水面への衝突は、決して穏やかなものではない。たとえパラシュートで減速されていても、時速24キロメートル未満という速度は、それでも人間にとってかなりの衝撃となる。

パオロ・ベネットもまた、緊張した面持ちでシートベルトを締め直し、深く息を吐き出した。彼の陽気な笑顔は消え、その顔には、これから来る瞬間への真剣な覚悟が刻まれている。リック・マルティネスが緊迫した状況でも冷静さを保ちつつ、責任感を強く持っていたように、パオロもまた、この最後の瞬間にプロの顔を見せていた。3人のクルーは、互いに視線を交わした。言葉は要らない。彼らの瞳の奥には、同じ緊張と、そしてこの長い旅を終わらせるという、確固たる決意が宿っていた。

高度計の数値が、秒速で減少していく。100メートル、50メートル、20メートル……。

水面が、驚くほどの速さで迫り来る。波頭の一つ一つが、鮮明に見えるようになった。それが、彼らを待ち受ける最後の衝撃となる。

その時、ユウキのMFDのECLSSダイアグラム上で、二酸化炭素吸収フィルターの警告ランプが激しく点滅し始め、同時に空気循環の不規則な変動が明確な異音へと変化した。彼はすぐにそれがECLSSの本格的な機能不全であることを悟った。しかし、着水までわずか数秒。応急処置をする時間はない。彼は歯を食いしばり、最後の衝撃に備えた。

そして――。

「ドォォォォオオンッ!!!」

という、鈍く、しかし船体全体を揺るがす強烈な音が響いた。クルー・ドラゴンが、メキシコ湾の波を蹴散らして、Splashdown(着水)したのだ。

激しい衝撃が船内を走り、ユウキの身体は、シートに設置されたクッション性の高いエアバッグと耐衝撃構造によって保護されているにもかかわらず、シートに強く叩きつけられた。身体が一度、大きく跳ね上がり、次に深く沈み込む。水面にぶつかる衝撃音は、まるで巨大な金属の塊が、巨大な壁に激突したかのようだ。

着水の衝撃で、窓には大量の水しぶきが勢いよく覆いかぶさり、一瞬、視界が完全に遮られた。船内は、一時的に暗闇に包まれる。ユウキの身体は、シートベルトに拘束されているにもかかわらず、水面に浮かぶカプセルが波に揺られることで、大きく左右に振られる。横揺れが数回続いた後、カプセルは徐々に安定し、静止した。船内からは、微かな水の滴る音だけが聞こえる。

ユウキは、荒い呼吸を整えながら、身体の隅々に意識を集中させた。痛みはない。ハーネスが身体をしっかりと固定し、衝撃を吸収してくれたおかげだ。

「コマンダー、全員異常なし!」

パオロが、最初に声を上げた。彼の声には、興奮と、そして抑えきれない安堵が混じっていた。リック・マルティネスがそうであったように、彼はクルーの士気を高める存在だったが、この時の彼の声は、純粋な生還の喜びが溢れていた。

サマンサは、一度大きく息を吐き出した後、震える指先で、通信ボタンに手を伸ばした。彼女のヘルメットの通信機が、かすかに「ピーッ」と音を立てる。

「ヒューストン、エンデバー……スプラッシュダウン。クルーは全員無事」

その声は、安堵と、ミッションを完遂した達成感に満ちていた。しかし、同時に、その言葉の端々には、長かった旅と、過酷な試練を乗り越えた者だけが持つ、微かな震えが混じっていた。それは、彼女のプロフェッショナリズムの奥に隠された、人間的な感情の表れだった。メリッサ・ルイスが責任感が強すぎるあまり感情を抑えがちだったが、この瞬間ばかりは彼女の安堵がにじみ出ていた。

ヒューストンのフライトコントロールセンターでは、メインスクリーンに表示されたクルー・ドラゴンが水面に静かに浮かんでいる映像を見て、管制官たちが一斉に立ち上がり、拍手喝采が巻き起こった。サラ・コナーは、通信機を片手に、静かに、しかし深く頷いた。彼女の目には、安堵の涙が光っていた。

危機的状況2の最終影響:ECLSSの再度の悪化と決定的解決

ユウキの応急処置も限界に達していた。着水直後、ECLSSの異音と警告ランプはさらに悪化し、酸素濃度は明らかに低下し、二酸化炭素濃度は急激に危険域に達し始めていた。クルーは酸素マスクを強く握りしめ、船内の空気が重く感じられる。

しかし、その直後、回収チームの迅速な作業により、カプセルの外側ハッチが「シューッ」という音と共に開かれた。外の新鮮な、そして生命に満ちた空気が船内に流れ込み、彼らはぎりぎりのところで生命の危機を脱した。

ユウキは、窓を覆っていた水しぶきが流れ落ち、再び外の景色が見えるようになったのに気づいた。そこには、どこまでも広がる青い海。頭上には、彼らを空から守ってくれた白いメインパラシュートが、波に揺られながら漂っている。

彼は、シートに深く身体を預け、目を閉じた。宇宙での半年間の旅。ISSでの生活。そして、灼熱の再突入。全ての記憶が、彼の中で一つに繋がっていく。

地球へ。彼は、ついに故郷へと帰ってきたのだ。


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