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 涙を拭う妹の背を撫でる。

 お互いあまりしない触れ合いに少し気まずそうに、浅く笑い合う。トントン、とおしまいの合図に軽く妹の背中を叩いて、建物を出る。


 書類にサインをしながら、ペット火葬のみのここでは、一時間半は待てないと聞き、すぐ近くのお店へ行くことになった。

 緩慢な動きで火葬場を離れながら、煙突からもくもくと昇る煙をぼんやりと眺める。


 車で五分ほどの距離の駐車場に停め、トイレ休憩をし、四人揃って売店でコーヒーを買って飲んだ。

 私は、コーヒーを飲み終えると、隣のお店で土産をぶらぶら見たいとその場を離れた。


 こんな理由で来たところで買うものを恋人へのプレゼントにするのは微妙だろうか。

 そう思いながら、店内を見回る。




 一時間半後は、11時50分だったが、せっかちな父は、11時半頃に向かおうと言っていたので、半頃に車に戻る。


 すると、アクシデントが起きていた。


 私以外の全員が車に戻っていたのでいざ出発と思いきや、肝心の車が動かない。エンジンがつかなくなっていた。

 火葬場には車が動かないので遅れる、と連絡した。


 色々試したり、車の説明書を読んでもわからず、メンテナンスを頼んでいる所に電話し、それでも解決せずに結局JAFに電話することとなった。




 JAFが来て、直せればともかく、直せなければレッカーだという。どうしたものか、と全員で顔を見合わせた。


 結局、車はJAFの人が来てすぐに直った。

 待ち時間の方が長かったくらい、すぐに直った。原因といえば、いわゆるバッテリーがあがっていたようなのだ。


 しかし、バッテリーもまだ新しめで、ライトをつけっぱなしにしたり、アイドリングのまま放置したりもしていない。冬場の低温でもない。

 定期点検もしっかり行っていたのに……と瞬きした。




 火葬場に行くと、納骨は済んでいて、彼女の骨を拾うことはできなかった。

 男性が、骨壺と、ペット用のお香を渡してくれる。


「骨みたかったなあ」


 と思わずこぼすと、彼は「見ますか?」と言って、丁寧な手つきで骨壺をあけてくれた。


「一番上にあるのが頭の骨です」


 と言った。父からまた順番に覗く。


「おもちゃみたいだな」


 と父はこぼした。


 自分の番に覗いてみればたしかに。

 プラスチックっぽいというか、プラモのような薄さだったのだ。黄色味の少ない白さも、ニセモノっぽさをだしているのだろう。

 生々しさはない。


「頭にはみんな面影がありますよ」


 と男性が言った。その言葉の通り、頭はなんだか犬らしくなくて、それがまた彼女っぽいと思った。




 正午の頃には火葬場を出ている予定が、一時を過ぎていた。


 終わってしまうと逆に諦めがつくのか、行きよりも空気は穏やかだった。

 骨壺を抱いた妹が、彼女に話しかけながら骨壺を撫で、その仕草がとても悲しかった。

 愛おしく撫でるのが、美しい刺繍の布なのだから。



 ぽつぽつと雨が降っていた。

 急な故障のことを恋人に話すと「彼女がイタズラしたようだ」と言った。


 自分も実はそう思っていた。


 最初は、こんなタイミングで、と不満に思っていたが、彼女がみんなが泣いているのを見て、もう泣かないで欲しかったのかもしれない。

 骨を拾う時にまた泣いてしまうだろうと、私たちを近づけてくれなかったのかもしれない。


 そう思いたいなと、思っていたので、恋人の言葉は私に笑顔をくれた。



「笑美ちゃんがしたのかもね」


 と言うと、母も「骨拾って欲しくなかったのか?」「見られたくなかったのか?」と小さな骨壺に納められた彼女に声をかけた。


「骨見ちゃったけどね」


 と、妹がこぼした。

 恋人と、恋人が昔飼っていた愛犬と、彼女の話をしながら、帰り道を穏やかに進んだ。

 遅れた昼は、海鮮のお店へ入る。


 少し豪華目のメニューを選び「献杯だ」と父がビールを。私たちも倣ってお冷三つを合わせた。





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