第八話 ゴブリン殺してみた
「アマリス。目的地はここらへんだから注意して。まぁそんな必要なはないと思うけど」
はぁ、昨日あまり寝れなかった。
「あぁ、わかった」
「もう、そんなふにゃふにゃ返事しないで!戦うんだよ」
ゴブリンねぇ。ゴブリンかぁ。私の力は通用するのかな?
「『デバックモード』―—」
発動して索敵をする。半透明の青い立体地図には私の青い点と多分アルルクのだろう緑の点がある。どういう条件で緑になるのかはまだわからない。
その地図をいじってみたら縮小した。そうしたら自分たちのもう少し先に何十個もの赤い点がある。群れ――というか集落みたいだ。
「この先にいるみたいだけど数が尋常じゃないよ?」
流石に多すぎる気がする。試しに数えてみたら26体いた。
「え?依頼じゃ二、三体らしいのですかおかしいですね」
この調子じゃ諦めた方が――
「アマリス、危険っぽいなら帰りましょうか?」
「そうはいかないっぽいよ」
地図を見ると一番近い赤い点がこっちに向かってきているように見える。いや、これは走っているな。確実に気付いている。
「え?え?やばいですよ!」
まぁ、とりあえず木に登るか。
「行くよアルルク。『フェイズダウン』―—」
自分とアルルクを巻き込むぐらい大きく裂け目を開き近くの木に瞬間移動する。
ここで一応準備運動しよう。よいしょ、屈伸屈伸。
少し待っていたら周りを見渡すゴブリンが五匹ぐらい見えた。おおすごい初めて見た。
「結構私と同じように耳長いね。あっちは鼻もだけど」
全身汚い緑に下半身だけしか隠していない雑な麻布。顔は一言で言えばブスだね。私は違うよ。
「でもあれでも普通の人間より力は強いんですよ」
普通の人間よりだったら私いけるくない?
「ねぇ。やってみてもいい?」
「え、あ、いいの?いや、大丈夫だけど数多くない?」
背伸びをして準備運動完了。そして左手を前に出す。
「『ウェポンジェネレート』―—」
現れたのは最後に人間を殺した時に使った大鎌。改めて見ると結構の憎悪が込められているビジュアルだなぁ。
「金属の蛇が巻き付いたような彫刻の柄に刃の根元には金属の頭蓋骨。そしてそのすべてが漆黒って、片目が疼くわぁ」
「何言っているのアマリス?」
おっと奴隷時代にみた一文が頭に浮かんできてしまった。
「それはいいとして、行ってくるね。アルルクはここで見てて」
私は木から落ちる瞬間に裂け目を発動して五匹のゴブリンの目の前に現れる。
「おうおうそんな睨むなよ」
殺気に満ち溢れたその瞳。今から断ち切ると言っても理解できないだろう。
ゴブリンの一匹がこちらに向かって襲い掛かってくる。しかも叫びながら。
「ねぇうるさい」
私は目を閉じ大鎌を高く振りあげる。そうして重力が赴くまま振り下ろす。
叫びの一切が消えた。それと同時に目を開ける。おお、止まっている。
ゴブリンは力が抜けたように持っていた木のこん棒を落とす。ちなみに大鎌には何もついていない。
バサッ
「うぁ………グロぉ…………」
やっぱり縦に一直線で綺麗に切れていたみたいだ。皮膚から骨まで、まるでもともとそうなっていたみたいに真っ二つになっている。
さらに内臓は支えられていないからぽろっと出てきた。へぇ、ゴブリンも人間もあんまり臓器に違いがないみたいだ。それに血は真緑。
例えるならあれだ。縦長のお皿に入っている具材多めのスープって感じ。臓器がプルンとしている。お、あれがさっき食べたものかな、もともと胃だったところにウサギ肉らしきものがある。
人間(悪人に限る)を殺す場合と違って何の因縁もないからちょっとキモイ。でも楽しい。
「もうちゃっちゃと終わらせようかな」
大鎌を解除し、もともと服についている鉄甲を使う。
「『フリーズエラー』―—」
よし準備万端。アルルクはさっきから唖然と口を開けているけど気にしない気にしない。
「固まってないでいくぞゴブリン。まぁもう意識はないだろうけど」
『フリーズエラー』を発動させたから凍ったように固まっている。体はちょっとずつずれていっている。
拳を硬め、服の身体の補助(ほぼ強化)を使い一匹一匹のはらにぶつけていく。時を止まらせているから体に大きな変化はない。
「よし、いいかな。アルルク!見ててね。解除―—」
ちょっっと刺激が強いけど汚い花火を見れるからいいでしょう。
『フリーズエラー』を解除すると同時に四匹のゴブリンの腹がへこむ。と思ったら内側から膨らむようにはじけ飛んだ。
元々の森の緑に生物の緑の血がまんべんなく加わった景色。ちょっと微妙な感じ。
胴体にある内臓も骨も皮膚も消し飛んだ。残ったのは手足の先と真っ直ぐ上に飛んで行った頭のみ。てかまって、生臭いんだけど。
へぇ~と感心していたら続々と現れるゴブリンたち。仲間を殺された恨みなのかみんなさっきより唸っている。
でも全員来るのは卑怯じゃない?1対20だよ?てかあと一人は何で奥に残っているんだろう。
「アマリス!私も戦う!」
背後からアルルクの声がする。でも私にはある策があった。
足に付いた緑の血を『ウェポンジェネレート』の靴の部分だけ解除してすぐに起動して落とす。そうしてから左側に来た戦闘態勢のアルルクを左手で制す。
そのうちに右手を高く上げ想像する。
「一気にやりたいからなぁ、高速で武器を飛ばすか、いや、シンプルにあれがいいかな」
「よし、やろう!『ウェポンジェネレート』―—」
疑問の顔を浮かべているアルルクを無視しながら生成を始める。
それと同時に地面に影ができる。それはどんどん大きくなる。
影がゴブリンの足元まで来ると拡大は止まった。
私以外のみんなが私の上を向いている。そして武器を落とす。戦意喪失と受け取っていい程に絶望した顔をしている(これはゴブリンのみ、アルルクは愕然としている)
「はは。顔が私達と全然違くても意外とわかりやすいんだね。絶望って…………」
それとも私が一回絶望したから?まぁそれはいいや。
そのまま実行するつもりだったが試しに私も上を向いてみる。
「アマリス…………これは…………?」
やっと思考が追いついたアルルクがそう尋ねてくる。私は笑みを返した。
「見てわかる通りハンマーだよ」
そう、私が生成したのはただのハンマー。だけどその大きさは規格外。どんなものでもその重量だけで潰せられそうなその見た目はただの狂気だ。
何で持てるのって?私にもわからない。てへっ。
片手で構えていたのを両手にして振り下ろす。想像より全然軽いから少し不安だったけど見た目通りの重量らしく…………
ドーン!
地面がへこんだ。そしてひびが少し離れた私達まで届く。
ゴブリンの断末魔さえ聞こえなかった。それほどまでに圧倒的な一撃だった。
武器を解除するとそこには緑色の池がある。骨、肉、内臓、皮、何もかもが潰れきって血だけが残った。
「凄いでしょ。えへへ」
「本当に凄いよ…………」
少しばかり可愛らしさアピールしたがアルルクはそれどころじゃないみたい。まぁそれもそうだよね、逆に能力を得たばっかの私が驚かない方がやばいと思う。
「でも、まだ奥に一匹いるみたいだよ?」
「え?こんなに倒していてまだいるなんて」
さっきから微動だにしない赤い点が一つ。ついでに殺すために集落の中に入ろうかな。
「行こ!アルルク」
手を掴んで引っ張る。でもなんか不安そうな顔をしている。
「ゴブリンって知能が物凄く低いのに仲間意識だけはとても高いんだよ。仲間を殺されているのに動かないなんて何かおかしい…………」
「大丈夫だよ。なんたって私がいるんだから」
油断する気はないけど安心はしてほしいな。それでこの残った赤い点、今更だけど他のゴブリンより大きい気がする。