第七話 アルルクと添い寝してみた
「ねぇアマリス。ここらへんで野宿しない?」
「まぁ確かにちょうどいいかもしれないね」
歩き始めから半日。太陽は沈みかけ焼けた空に朝はなかった雲がぽつぽつと浮かんでいる。
アルルクからの野宿の提案は予想外だった。
「とりあえず交代で見回りをしながらあそこの木の根元で睡眠をとりましょう」
アルルクの指の先には他より多少大きな木があった。
でもこのぐらいの木なら交代しなくても睡眠できるんじゃない?
「アルルク、そんなことしなくても木に登れば済む話じゃない?」
「え?」
「え?」
驚きと何言ってんのって言う気持ちが混ざった顔をしている。私そんな変なこと言ったかな?
「アルルクは登らないで休むの?そっちの方が襲われやすくない?」
「アマリス………普通の人はそんなことしませんよ。落ちたら大変ですし」
「体を木に縛ればいいんじゃない?」
「え?」
「え?」
「えぇ…………」
今度は、は?みたいな顔している。いや、なんかごめんって。私ずっと木に登ってたんだもん。
「でもまぁ。確かに上った方が襲われにくいかもしれないね。あの木なら安定した場所もあるかもしれないからそれにしよう」
なんかアルルクが譲ってあげたみたいな雰囲気なんだけど。ま、いっか。
木に近づき枝を掴み華麗な動きで登る。でも、アルルクは華奢な体だから登り辛そう。手を貸して上に引っ張る。服のお陰かアルルクが軽いお陰か、羽を持ちあげる感覚で引っ張れた。
「それにしても意外と大きいね。この木」
アルルクに頷きを返しておく。そのうちに私はいい感じの寝床を探しておいた。
それは木の中心部分で一人だと広くて二人だとぎり狭いぐらいの場所だった。
「アルルク!こっちにおいで」
手招きをするとすぐに来た。
「…………意外。木にもこんな寝やすそうな場所があるなんて。危険な地面と大違い…………」
寝やすそうって言ってもまっ平の超硬いんですけどね。
「布団もないことだし一緒に寝ようよ。女の子同士だし大丈夫でしょ?」
思いかけず言ってしまったその言葉を後々後悔したのはまた後ほど。
「別にいいけど。ちょっと小腹が空かない?」
まぁ、確かに。もう食べてから半日ぐらいたってるしね。
「そうだね。試しに周りを見渡してみる」
こっそりと発動しておこう。「『デバックモード』…………」
今日二回目の黒白からの鮮やかな視界。今回はさらに暗視付き。もう太陽がないのに遠くまでくっきり見えるよ。
「お、良いの発見…………アルルク!ちょっと待っててくれない?」
「え、分かったけど」
私はちょっと先にあるもの目指して足に力を籠める。
いくぞぉ!
「はぁぁ!」
太い枝を走りながら思いっきりジャンプする。
結果は想像通り。『ウェポンジェネレート』で造った服によっての身体の補助―—限りなく強化に近い――によって空高く飛ぶ。
「本当に凄い!」
口からは感嘆の声が漏れたが今はそれどころじゃなさそう。
目的地に向かって放物線を描きながら向かっているが、もちろんジャンプしたなら必ず地面に着地する。でも今の私の高さは木々に邪魔されずに遠くの山が見えるほど。
ここから落下したらどうなるかは私にもわからない。
「あぁ…………もうちょい考えればよかった」
あぁぁ、悔いなし…………なんちゃって。
「別にここから落ちても大丈夫だと思うけど。一応ね」
私はぶつかってくる風に邪魔されながら唱える。
「『フェイズダウン』―—」
通るであろう空中のある位置に裂け目を出現させて一瞬で目的地にとうちゃ~く。
え?なんだって?最初から『フェイズダウン』使えよって?もちろんアルルクに良い所見せるために決まってるじゃん。
目的の木。その木には夜にもかかわらず紅の色を放つ果実がたくさん実っている。確か、アルプルと言った気が…………
見えている理由はさっき使った『デバックモード』だよん。
アルプルを何個か『フェイズダウン』の裂け目に入れて私は『フェイズダウン』の瞬間移動で戻る。本当に便利だなぁこれ。
景色がさっきの木の上に戻ると暗いにもかかわらずアルルクがまっちゃ疑問そうな顔をしていた。
「高速で木の棒を回したり、人外みたいな脚力に…………しかも飛んでいる途中消えてましたよね!ただのエルフにそんなことできるはずがない」
おっと。てっきり「アマリス、めっちゃすごい慕ってます」的なこと言われると思ったのに全然違うじゃない。
「えっと、そのぉ、それはぁ」
「何か私に隠し事してません?これからずっと一緒にいるのにひどいですよ!」
まぁそうか…………って、え⁈今「ずっと」って言った?
「すみません全部話します」
私は素直に全部白状した。もちろんすべてだ。奴隷のこと、母が目の前で殺され自分も殺されそうになったこと、その時に覚醒したこと、人間(悪人に限る)を殺そうと決めたこと。もろもろだ。
「うぇ~ん。ごめんさない。そんなことがあったのに私はあんなことを」
話し終えたと同時に泣き出した。いや、話してる途中から涙目だったけどね。
「奴隷とか、お母さんのこととか、もう過去だから大丈夫だよ。今はこれからを見つめなきゃ」
「そんなこと言ったってぇ」
「い、い、の!」
泣いたと思ったら体にくっつくし、心臓に悪いからやめて。
私はアルルクが泣き止んだら『フェイズダウン』からアルプルを取り出す。さらに『デバックモード』は切っておく。
「ほら、これ食べて。そして寝よう」
目を赤くしながら食べる姿が愛らしい。どうしてだろうか、同い年のはずなのに。
私が一個。アルルクが三個ぐらい食べてようやく寝る体勢になった。
「おやすみ、アルルク」
「おやすみ、アマリス」
チュッ
「…………っ⁈」
頬にキスされた。なぜ!と聞きたかったが彼女はもう寝てしまっている。まぁ、友達としてのキスだろう。でも、もしかしたら…………
「違う…………のかな?」
頭を振ってやましい考えを飛ばす。だが体のムズムズはなかなか取れない。それに二人でぎりぎりきつい狭さだからアルルクの肌の熱を感じてしまって目が覚めてしまう。
奴隷時代では一生かなわないと思っていたこと、恋愛というのはもしかしたらできるのかもしれない。
どうも意識してしまう。不意にアルルクの寝顔を見る。
あぁ、綺麗、美しい、可愛い、そして…………
――とても好きな顔だ。
経験なしの十五年、反動は今ここにきてしまった。私の目はハートになる。