第五話 服着替えて少女と話してみた
「よっこいしょっと。ふぅ」
結論から言うと、人間の死体を片付けるのは無理だった。意外と重たいせいで…………
「とりあえずこれでいいとして…………」
殺した死体は放棄することになるけど別にいいと思う。自然の摂理でいつかなくなるはず。
私と獣人の女の子は私の『フェイズダウン』で少し移動したところにいる。景色はあまり変わってないから気づかれることはないと思う。
気絶している獣人の女の子を木に寄りかからせておく。そうしたら大体準備完了のはず…………
「あぁぁ、服どうしよう」
返り血をたっぷり浴びたボロボロの服、それに多分自分の顔にもついているかもしれない。
顔は近くの葉っぱで拭くとして。今私はこのボロ雑巾みたいな服一枚しか着てないからこの服を脱いだら裸なんだよね。
とりあえず座りながら考えよう。
「うーん。まぁあれが一番可能性が高いよなぁ」
思いついたらすぐ行動する。これ私のモットーね。
見つからないように草陰に隠れる。そしてベトベトしている服を脱ぎ畳んで投げる。もう使わないからね。
体に着いた血はそこらへんにあった葉っぱで軽くふく。乾燥していたからパラパラ落ちた。
はたから見たら森の中ですべてをさらけ出している女性に見えるだろう。変態じゃないからね!
邪な考えを払い、深呼吸して集中する。
イメージが大事…………
「『ウェポンジェネレート』―—」
そう呟いた時、胴体が白い光に包まれる。同時に何かが私の体を覆い始めているのを感じる。
白い光は武器を生成するときとは違って少し生暖かい感じがした。
足の指まで何かで覆われたら白い光が一瞬さらに光ってはじけ飛ぶように消えていく。
時間にして30秒と意外に長かったがとてもいい仕上がりになった。
上着は七分丈の黒いトップスでズボンは濃紺のレザー調フィットパンツ、くるぶしまでの軽いブーツで、装飾は腰に紫色の細い帯布を付けてて手にさっきつけていた鉄甲がついてある。
でも鉄甲はさっきよりコンパクトだ。
「ズボンってこんなにぴちぴちなんだ」
私のブロンドの髪と翠眼によく似合っているし、憧れのズボンも履けたので気分は上々。
ボンキュッボンじゃないのが――まだ成長途中だからね――唯一の懸念点だけどまぁいいでしょう。
流れるように着替えられたが一応『ウェポンジェネレート』は武器生成の能力だから、もちろんこの服も異常なほど攻撃力が高い気がする。
試しに獣人の女の子が寄りかかっている二、三本となりの木に拳をぶつけてみる。
「軽くパンチ…………え⁈」
自分的には多少「痛っ」ってなる程度のパンチだったけど目の前には穴の開いている木があった。
バキッて折れるならまだ分かる――いや分からないけど、殴った部分だけ消し飛ぶなんて…………
「よし、まぁどうでもいいや!」
楽観視、これぞまさに究極の現実逃避。
「んん…………ここは?」
おっと消し飛んだ音で起きてしまったらしい。
「あら、やっと起きたね。立てる?」
「はっ!人間の人たちは?」
周りを見ながら焦ったように言っている。
「追い払ったけど…………大丈夫だった?」
実際にはほとんどぶち殺したけどね。
そう言った途端、彼女の顔は穏やかになる。
「本当ですか⁈あなたは命の恩人です!」
命の恩人って少し大げさな気もするけどまぁいいか。
「名前、聞いてもいい?」
そう言うと、もちろん!と頷いて、
「私の名前はアルルクと言います!」
「アルルクね。私はアマリスって言うの。それでさっきの人間達は何だったの?」
アルルクの顔が一気に暗くなる。禁句だったかな?
「いやいや。話したくなかったらいいよ」
手の平を振って、大丈夫大丈夫と言った。
「いいえ、話します。でもそんなに深いことはありませんよ。たまたま冒険者同士の依頼がかぶってしまって一緒にやろうって話になったんですけど。多分聞いたと思いますが、ああやってことあるごとに誘ってくるんですよ」
うう。聞いただけで寒気を感じてきた。やっぱり駄目な人間はとことんクソダメですね。
「それは災難だったみたいだね。それより、アルルクって冒険者やってるんだ」
冒険者、人間の町とかでよく見かける野蛮な男や布面積が少なすぎる服を着ている女性たちのことかな。奴隷時代の時によく見た気がする。
「そうなんですよ。実は私の母が重い病気になってしまって、それの薬が買えなくて仕方がなくって感じなんですけどね」
ははは、って笑いながら言っているみたいだが明らかに辛そうな日々を送っているのは体を見ればわかる。
「傷だらけになるほど頑張っているなら。本当にお母さんのことが好きなんだね」
そう言うとアルルクは照れたように頬を赤く染めた。
おっふ、かわいい。
「そういえば、冒険者ってお金稼げるの?」
「依頼の難易度にもよりますが、私ができるものでいえば大体銀貨1枚ちょっとぐらいですね」
ふむふむ。私、お金の価値を知らなかったわ。
「えっと。ぎんかいちまい?しか稼げないんだ」
知ってる風を装っておこう。
「そうなんですよ。今回やろうとしたのが討伐系の依頼で「ゴブリン退治」と言うんですが…………」
「あぁ!ゴブリンね。はいはい知ってますよ青色のどろどろのやつね」
「それスライム…………」
自信を持って言ったが恥をかいてしまったらしい。
「まぁなんでもいいでしょ。そしたら試しに私もその依頼手伝っていい?」
断られたらそれでいいけ――
「本当ですか!ぜひお願いしたいです!」
顔を近づけてきた。鼻息が当たる位置にまで。
「実は一人だと心細かったんですよ」
そう言いながら頭をかく。
ぐうぅぅ…………
誰かの腹の虫がなる。まぁここにいるのはアルルクと私だけなんだけどね。
「…………」
アルルクは下を向く。顔を覗き込むと顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。
「さっき動物狩ったんだけど。よかったら食べる?」
「…………はい」
あら可愛らしい。
私は木の枝を持ってくるように頼み。そのすきに『フェイズダウン』から牛肉を取り出す。