第一話 奴隷人生から逃げてみた
「はぁ………はぁ………」
「あそこだぁ!追えぇ!」
後からきてる。怖い人間の大人の人たちが…………
「気に留めないで。今はただ走るしかないよ」
息を荒く吐きながらもそう優しく言ってくれるお母さんは私の手を握って一緒に走っている。でも、後ろの声はだんだんと近づいているような気がする。
「わ…かった」
もう限界の足を無理やり動かして走る。あるはずの希望を追いかけて…………
「奴隷どもぉ。諦めやがれぇ!」
その声が聞こえたと同時に足首から激痛が来る。この世の終わりみたいな痛みが。
バサァ
握っていた手を放してしまい。顔面から地面に転び落ちる。それも痛かったけど足首ほどじゃなかった。
「…………え?」
急いで原因を知るために足首をみる。そこには一本の鋭い矢が私の足を骨ごと貫通していた。
酷く興奮していたのか痛みによっての恐怖はあまり感じなかった。
「アマリス!大丈夫なの⁈」
すぐ振り向いたお母さんが両足をつけて私の容態を見ようと触り始める。
「…………」
足首の部分の感覚がもうほとんどない。これはもう歩けないのかな。
「お母さん。私を置いて逃げて…………」
かすれた声でお母さんにそう伝えた。出血のせいか寒く感じ始めて感覚が遠くなってきている気がする。
「置いていけない」
それと同時に私は抱えられお姫様抱っこという形でまた走り始めた。
「はぁ………はぁ………」
明らかに私のせいでさっきより遅くなっている。後ろを見るともうすぐそこに人間の大人達が迫っていた。
その中の1人に私の足を撃ったであろう弓使いがいて弓を構えている。
「お母…さん。避けて」
弱り切った声で弓矢が撃たれそうなことを伝えたがそんなことは意味をなさなかった。
グサァッ
一直線に飛んできた矢はお母さんの脇腹に刺さり肉を切り裂く。あぁ、もう意識が遠のいてきた。視界が暗くなってきている。
バタン
お母さんも痛いのに私を抱え守るように二人とも倒れた。
「よし。ヒットォ!。これ追加料金貰えるくね!」
「馬鹿。商品を殺すようなことをしたらダメだと教わっただろ。しかもあれは希少種族のエルフだぞ」
すぐそこで人間達の笑い声が聞こえる。足音も聞こえ始めた。
「まぁしょうがないか。もともと弱っていたし。依頼主は性奴隷としてほしかったらしいが証拠隠滅のためにここでやっておくか。おいお前らなんか理由を考えておけ!」
その声が聞こえると急に髪がが引っ張られた。そして腕を2人がかりで掴まれる。その動作で少し意識が戻ってくるけど目の前には…………
「お…母…さん?」
目の前には背中を足で押さえつけられていたお母さんが見えた。そして悟った。
――これから殺されてしまうのだと
私は痛みとは別の恐怖に襲われ涙があふれそうになる。
「まずはお前からだ大きい方の女」
そう言ったリーダーらしき大人は剣を高く持ち上げる。
私は一生懸命に助けてと視線を送るが帰ってくるのは笑顔。
お母さんはせめて恐怖心を減らしてほしいのかいつもの穏やかの笑顔をしている。
もうどうにもならないと心の中で叫んでしまう。
「じゃあいくぜ!」
周りの怖い大人たちにひゅーひゅーと言われながら夜の森の奥で死刑が始まる。
剣が振り下ろされる。その時、お母さんの口が動き私にだけ聞こえる声で言った。
――こんな母親でごめんなさいね
剣が深く背中に突き刺さる。しかも一度だけじゃない。何度も何度も刺し続けた。
お母さんからは悲鳴も断末魔も聞こえない。ただ最後まで笑顔を絶やさなかったのだ。
だけど、その目頭には一滴の涙。それが垂れて地面に落ちると同時に私の何かが壊れ泣き叫ぶ。
「ちっ。何も聞こえなかったぞ。わざわざ労力を使ったってのによ」
それと同時に笑いが巻き起こる。そして考えた。人間は狂っていると。
手を離され膝をついて崩れてしまう。もう体のどこにも反抗しようという体力はなかった。だが、体の奥底で燃えるものがあった。
人間が憎い………怖い………殺したい………そして、
――力がない自分を許せない
その瞬間自分の何かが崩れる。
《条件を達成しました。エルフ、個体名:アマリスに称号『?!#%』をギフト。それに連なりスキルの入手を開始します。成功しました。エルフ、個体名:アマリスにスキル『虚誤蟲』をギフトします》
まるで人ではない何かの声が頭の中で響く。そして、自分のなかで説明できないおかしな現象が起こる。
「こいつならいい声で鳴くんじゃねぇの?」
剣が上に振り上げられる音がした。その時、急激な眠気に襲われ気絶するように眠る。
倒れたアマリスに剣が振り下ろされる。それと同時に言葉が発せられた。
「『シャットダウン』――」
その声の主は紛れもなくアマリス本人の声。小さく放たれたその言葉は大気を震わせる。
アマリスの母の返り血を浴びながら笑っている人間たちの動きが一斉に止まる。それはもう微動だにせずまるで時が止まっているかのように。
刹那、人間達の表面が光さえ吸い込む漆黒の何かで覆われていく。
それは人を蝕む虫のように広がっていき、とうとう体全体を覆ってしまった。
何か音がするでもなくただ無音に小さくなっていく。森の中で吹く風だけが聞こえる。
まるで他の生き物を害する生き物を終わらせるように縮んでいくそれは、いつの間にかアマリスの足の大きさ程度になってしまっている。
これが人間だったと思えないほどに小さくなったそれの表面にある黒い何かが役目を終えたように消えていく。
――そこに残ったのは服でも剣でもなくただ人とは思えない肉の塊だけだった。




