【裏話19】禁断の創作と、空想に取り込まれる存在証明
坂本隆二(リュー/香坂流星)
『悠久のエアリアル』の根底に流れるのは、現実が空想に融解し、存在そのものの輪郭が曖昧になるという、甘美にして恐ろしい概念だ。世界に認められなかったエアとリアは、「狭間の部屋」にたどり着く。
この部屋から出る時、入った時間に戻れる。何日過ごしても二人の時間が戻るのだ。
最初はここでなら二人で永遠に過ごせる。そう思っていただけだった。けれど、エアは段々空想世界に魅了されていく。目を離すとファンタジーに取り込まれそうな主人公エアを、目を離すと空想の眩さに飲まれてしまいそうな主人公エアを、パートナーのリアは、「永遠」という名の鎖で狭間の部屋に繋ぎ止める。
必死で狭間の部屋を開拓し、設備を作り、過ごしやすい二人の隠れ家として作り替えていく。そんなお話なのだ。
そのスピンオフテオの泡沫。魔法だけの世界で唯一スキルを作れる存在、テオの物語。
主人公テオの本名は明坂流星、彼は流星からリアにテオと呼ばれている。
リアに心を奪われたテオは、毎朝、広場がリアの「寂しさの吐き溜め」となる時間を待ち詫びた。
「エアは今日もファンタジーに夢中でね、消えない様に狭間の部屋に繋ぎ止めてるの。今はエア仕事だから私はようやく休めるんだけどね。」
テオは、彼女の影に入り込むように、静かにその言葉を吸い上げる。
「ああ。例の神隠しの話?帰って来られるとか聞いた事無いよ。」
聞けば聞くほど、テオの胸には熾烈な感情が燻る。
俺ならそんな寂しい思いはさせないのに、俺なら傷付けずにもっと上手に愛せるのに。俺が狭間の部屋に行ければ。
何度も渇望するうち、テオは無からスキルを作る能力を授かる。
テオは毎日毎日、転移のスキルを作ろうと躍起になるが、何度何を思い付いても、エアとリアが時間を戻す度研究は振り出しに戻る。
「君がループしている間、ここの時間は流れているのか?思い付いたアイディアはどうなってる?前日に研究した事が白紙に、何もなかった事になっているのか?俺は昨日ここで君と話していつも通り過ごした。俺の時間は止まっているのか?それとも、記憶の方が消えているのか?教えてくれリア。」
テオの瞳は、日々、睡眠を奪われたかのように窪んでいく。
するとリアが、彼にマジックバッグをプレゼントするのだ。
「これは時間停止がついているから、時間が戻らないわ!ここに資料を入れ、翌日に読めば良いのよ!そしたらテオの研究は無かった事にはならない!テオの時間は戻って記憶は消えるけど、資料さえ読めば、私達が戻る度、テオも無限に研究できるの!」
「俺も…無限に…」
その日を境にテオはリアの愚痴を聞きに広場に現れなくなった。
そして何度も何度も時間を戻されながら、記憶を何度消されても、マジックバッグの中の資料を読んでは研究を進めてついにテオは転移スキルを開発する。
テオは、自らの創造の偉業に、体内の魔力全てを震わせた。
早く空想の世界に行きたい。
「魔法しかない空想の世界で、俺だけがスキルを作れるんだ。」
テオは現実との接続を永遠に断ち切った。彼がいたという痕跡は、誰の記憶にも、世界の歴史にも、二度と刻まれることはなかった。
「エア!あそこだよ!スキル屋さん!」
「やっと見つけた!」
ドアベルが鳴り、テオは工房からひょこっと顔を出す。
「はじめまして!私リア!スキルを買いに来たの!」
「ああ。いらっしゃい。世界で唯一のスキル工房へ。はじめまして、俺はテオ。残念だけど今親父居ないんだよね。また夜来てくれねえ?」
「分かったわ!また夜に来るわね!」
スキル屋の息子NPCのテオは、本当はここで生まれた訳ではないのに親が居て、生まれた時からここで過ごしていることになっている。そうして何人もの人間が空想に取り込まれていくのだ。
『この話の公開は危険です。直ちに空想に取り込まれる部分と、人から忘れ去られ存在が消えてしまう部分を書き直して下さい。絶対にインターネットに公開する事は認められません。』
"僕は書いた作品は世に出したい。なかなか良くできた話だと思っているんだ。"
『お話は面白いですが、スキルを作れるあなたに準えた話なのが問題なのです。ではラストにテオが無事戻ってくると書き加えては?』
"それじゃリアが必死に繋ぎ止める展開に説得力が持たせられない。実際に消える人間が必要で、それはエキストラじゃダメなんだ。"
『莉緒を託して異世界の住人になるつもりですか?例えば莉緒と結ばれたら地球に止まるのですか?!』
"俺が彼女と結ばれる事は無いよ。自分はもうあんなピュアで綺麗な恋愛はできない。アオを通じて恋愛ドラマを見てただけなんだよ。"
『ナビはメンタルをサポートする役割もあるので引き続き盗聴を許可します。アオと莉緒の恋愛のサポートにはあなたが必要です。あなたは、テオになってはいけません。』
"もういいよ。アオと話すから。"
『アオだって認めないと思いますよ?』
俺はマナビたんを無視して莉緒の肩をゆする。
「莉緒、起きて。そろそろ帰ろ。」
「んー。おんぶー。」
「お前な。アホか。ほら、自分で歩け。」
「けちー。」
『莉緒 愛情ダウン』




