第69話 お城デートは爆食い散財へ。虚無感と業務用屋台セット
一旦帰ってはじまりの部屋でお昼してから地球に戻った。外に出ると坂本さんが空を見てぼけっとしていた。
彼の今日のファッションは、黒の細身のパンツに真っ白のシャツ。黒のナイロンベストはちょっとカジュアル可愛い目。歩く事を考慮して黒のスニーカーだ。ポケットに入るマジックバッグ仕様のコインパスはあるものの、一応黒のリュックを持っていくみたいだ。
ちなみにこのコインパスは念じる事で佐々木さんか私のインベントリと物を相互転送できる。
私はというと、あまり可愛らしくならない様に、白のシャツ、黒のスキニーに黒のノースリーブパーカー、黒のスニーカーを選んだ。これがまさかのペアルックみたいになってしまって大ミスである。ちなみに私は黒のボディバッグ。ここにゴッチの二つ折り財布紛失防止機能付きが入っているぞ。スマホはパーカーのポケットだ。
『イベント リューとお城デート 進行中』
あー。出ちゃったか。
振り返った坂本さんが言う。
「関屋さん。今日キャンセルで。」
彼は悄然の面持ちだ。
「行こう。坂本さんのメンタルの方がやばい。」
『良いのですか?』
仕方ないよ。自殺とかされたら困る。
バスを降りたらすぐお城。
まだ残ってる桜を見ながらのんびり歩く。
「今日お昼何食べた?」
「プロテインとシリアル。だいたいこれ。今日歩くしたまには米炊いてレトルトカレーとかちょっと思ったけどどうせリセットされるなら執筆以外の活動はまるで無意味だ。」
いよいよ病んできている。無駄とか無意味というワードが出過ぎなのだ。
「疑問なんだけど、地球の人との好感度上げて時間戻ったら好感度も戻るの?マンション住人と積極的に話して検証したら、小説の設定面白くなるかも。」
というのは私も知りたい事だし、地球で活動中の坂本さんにピッタリの検証じゃないかな。無意味ではないと知れたら坂本さんのメンタルも上がって一石二鳥じゃない?
「俺別に病んでないよ。もともとこういう性格だし。検証はしたいけど、数値の公開は不可なんだ。」
「魔法で何とかできたら良いのにね。」
好感度管理の魔法とか、あれば良いよね。ナビ達が公開不可と言ったなら、魔法で作れるかどうかは分からないけど、前に、同時に二人好感度アップした場合、高い方が先に表示されると言っていたから、それを管理して自動で表にしても良いかもね。あとは、闇魔法で心を読んだり?
「そっか。闇魔法が精神干渉系と考えたらデータ取りに使えるか。でもその魔法開発するのは裏切りを疑われる。」
「大丈夫だよ。その魔法はきっとハナさんのサポートになる。柏木さん対策にも。」
「ありがとう。考えてみるわ。今日かなり楽になった。持つべきものは仲間だな。」
「そだね。仲間だからね。あまり不安にならない様に。」
『リュー 絆アップ』
歩いていると大道芸を披露してる人を見つける。
「おー。」
「ふっ。莉緒さんニートなのにああいうの興味あるの?なら外出れば良いのに。」
「外にあまり出ないからああいうの新鮮なの。」
「じゃ、見てこ。」
坂本さんがずんずん歩いて行く。
「えー。ここからで良いよ。」
坂本さんは振り返って私の横に戻ってきて私の左手首を持った。
「何してんの。近くで見なきゃ見えないだろ?」
「分かったよ。」
坂本さんは最前列の正面でスマホを構えて動画を撮る。佐々木さんと同じ、職業病だ。彼はトークを聞いて笑ってるけど、私は面白いと思いつつ早く技が見たい。風が吹いてトークで時間稼ぎは分かるんだけど、風が止まってるのにトークで笑わせに来て風が吹いてまた長引くのは悲しい。
"客寄せの魔法とかあれば良いのに"
"凄い事考えるな。全くの他人に善意で魔法使うのか?そのお情けが嬉しいとは限らないぞ?"
"いや、私は早く技が見たいだけなんだけど。"
しかし風の中見事に一発で技を決めてみせた。
「おおー!!」
思わず大きな声を出してしまう。
「フフッw」
『リュー好感度アップ』
ちょ、やめてwwwなんなの?!
終わる時おひねり集めるんでみたいな事を冗談混じりにゴニョゴニョ言い始めると横のお客さんがそわそわし始める。あっ!向かいで見てた人が逃げる様に帰った!!最悪だ!!
私は意を決してゴッチの財布を出した。これは楽しませてくれた対価なのだ。この前焼き鳥で稼いだから少しなら払える!
「いいって。俺が誘ったんだ。莉緒さんの分も払うから、終わったらいこ。今から最後の技やるって。」
最後の技が終わってトークも終了したら坂本さんに手を引かれ一番乗りでおひねりを千円ずつ入れに行く。
「凄かった!応援してます!」
坂本さんは笑って言う。私は何も言えずにお金だけ袋に入れた。
「ありがとうございます。」
私はこの人の頑張りを無かったことにするんだ。
「ねえ。今日やっぱり戻さないとか言ったらアオ怒るかな。」
「うーん。デートしちゃったからね。勘違いするかも。彼はさ、こっちでは君と会えないから。俺彼に隠し事しないし、どうせマンション中の噂になる。」
「そっか。つら。」
「自己満足だよ。今更だし。俺何とも思わないけどね。何なら二千円返ってくる。」
「うん。そだね。」
坂本さんはため息をついた。
「今撮った動画あげるから、それ見せて力説したら?彼君の性格知ってるからいけるかもね。」
「そっか。言ってみる。ありがとう。」
私がスマホを出そうとすると愛陽が言う。
『リューが莉緒の善意に付け込んでデートの記憶を残させたと勘ぐられる可能性があります。』
「やっぱりやめる。優先順位はちゃんとしなきゃ。」
坂本さんは笑顔で言った。
「さすが。愛陽たんが忠告してくれたんだ。超優秀だね。」
『リュー好感度ダウン 愛情ダウン』
「ええ?なんで?!なにそれ?!」
「ははは。ベビーカステラ買って帰ろ。一番高いやつ。ステーキ串ときゅうりの一本漬けも買ってやるよ。どうせ財布の中身戻るんだ。いちご飴と葡萄飴も買おう。コットンキャンディもいっとく?バスだからビールも飲めるわ。今日どれだけ炭水化物食べても俺は太らないぞ!爆食いデートだ!」
坂本さんは急に明るく笑い出す。めちゃくちゃ痛々しい。
「ごめん。どうすれば良かった?」
「そのままで良いよ。その方が絶対良い。俺異世界手放したくないもん。常識で考えたら分かるだろ?女より異世界一択だ。俺異世界の為なら一生独身でも良い。」
「ええー。なんでそんな話になるの?」
「内緒。君は余計な事考えない方が俺にとって都合が良い。行こう。何でも買ってやる。くじ引きとか射的とか無駄にいっぱいする?めっちゃ散財するから絶対に時間戻してくれよ?!」
『イベント リューとお城デートはたらふく爆食い散財デートに統合されました。』
えええ…
「フフフ。イベントが出た。観念して一緒に食べるぞ?肉なら太らないから。」
吊り革を持ってぼんやりしていた坂本さんは虚な瞳で私を見つめた。
「用思い出した。一人で帰れる?」
「うん。」
彼は次のバス停でバスを降りた。デートの終了告知は出なかった。イベント失敗したんだ。これで良かったんだと思う。
ところが。
『リュー好感度アップ 愛情アップ』
はあ?!?!
"関屋さん。今送ったデータは次会った時そのまま返して。商業化作品のやつだから絶対見ないように!"
インベントリに、今日の日付が書かれたメモリが入っていた。
坂本さん…
『報酬 業務用カステラ焼き機 綿菓子機 肉串100本 ビール一箱 いちごの苗 葡萄の苗 砂糖10キロ 紐なしけん玉 リュー絆大幅アップ』
ちょ。業務用カステラ焼き機に今のセンチメンタルな気持ちが全部吹っ飛ばされたんですけど。てか報酬多くね?!?!
つくねの次は肉串100とか何?!
私に屋台でもさせようとしているの?!
『リュー好感度大幅アップ』
ちょ!意味が分からない!!!




