第44話 命を守る為の覚悟。イベント報酬を捨てた意識改革
さて、農村アトソーヌに来た。
『イベント 村人に馬房柵作りを指示しよう』
「ええ。今度は村人だけに作らせろって。馬房柵。報酬は出てない。」
「僕の方は、女性と子供にライトとファイアの魔法を教えようだった。報酬はスキル罠作成と設置。」
佐々木さんが女性と子供を集めてライトとファイアの魔法を見せて教えているうちに、私は錬金術で馬房柵設置場所の地図を作り、男性陣に設置場所を指示していく。
『イベント 木材調達 (0/100) 報酬スキル錬金術講師』
佐々木さんは振り返ってびっくりする。愛陽があえて天の声で言ったのだ。
「皆で手分けして。私は指示が出たから材料集めてくる。」
「ええ。僕のイベントまだ終わってないよ?あんな事あったのに今日別行動なの?」
「そうだよ。ちゃんとお互い信頼して任せられる様にならなきゃ仲間って言えないでしょ?」
「一人で森なんか大丈夫なの?!ウルフ出たらどうするの!」
「いやいや、私猪に勝てるんだからね!」
「猪は一頭でしょ?!ウルフは群れだから!」
言い合っていると最後の一人がライトを唱えた。
『イベント 創造魔法でウルフ罠を作って子供達に設置の指示をしよう(0/20)』
永遠の天の声に私は驚く。20?!かなりの数の狼が居るんだ!!これは警戒しないと!
村民は20という数に真っ青になる。
「…分かったよ。僕は僕の仕事する。カリクを護衛に連れてって。ノッテは僕を手伝って。」
「ちゃんと帰ってくるから。ちょっとくらい信じて。私はウルフなんかに負けないから。」
役割的に手作業ができるノッテが佐々木さんと。私は索敵が得意なカリクとで行動だ。
森に着くとカリクは薬草群生地を見つけて吠える。私は木材を集めながら薬草を集める。カリクはすでに犬より頭が良くなっていて、これからのウルフ防衛戦に必要な物が分かるのだと思う。怪我人が出ると理解しているのだ。
多分私達だけで無双するんじゃダメだ。村人が自分で守る術を身に付けないと。
農村だから高い壁で陽を遮るのも良くないか。イベント指示通りやるのか私達は余計な事して良いのかどうか。愛陽は何も言わない。
「ばうわう。」
「魔力草。ありがとう。」
出来る限りのことをした方が良い。カリクがそう教えてくれてるんだ。
「カリク偉いね。頑張って村を守ろう。」
「わう!」
私は鑑定しながら木材を採取していく。途中で猪が出没し数頭狩った。
『先取り報酬 食料調達 きのこ類たね菌』
知らない名前の木だ!
「リグナムバイタだって!結構硬い木らしい!武器も作るか!」
私はリグナムバイタを収納した。
『先取り報酬 リグナムバイタ 有精卵10個』
『先取り報酬 薬草魔力草採取 植物魔法』
これは、村に鶏小屋と薬草畑を作れって事だ。
私達が戻ると佐々木さんは女性と子供にそれ以外の属性魔法も教えていた。
「おかえり。こっちは子供達と罠設置終わって魔法の練習。MP問題はあるけど、できる範囲で男性陣にも教えてく様に指示してる。ライトは目潰しにも使えそうだし、きっと動物は火を嫌がる。」
「そっか。火事だけは注意だね。こっちは薬草と魔力草も採ってきたから、根っこは村に植えるとしてまずポーション類の作り方指示しようと思うよ。このクエストは自分達で村を守れる様にするやつだと思う。」
「そうだね。扉くぐる度に環境がリセットされる以上僕らが解決するんじゃダメだ。」
男性陣が馬房柵を設置している間、女性にポーション類の作り方を指示し、佐々木さんはインターネットで検索しながら木で先の尖った槍状のものを作って持ち手にロープを巻いたりしていた。
「奈良にさ、槍術の道場有るらしいんだけど。」
彼は異世界での誰かのために尽くす自分の方が地球での管理人代理の役割より 価値がある思ってるんだ。異世界に依存し地球の生活を犠牲 にし始めた。
「だけど佐々木さんは管理人業あるから無理だよ。地球だと時間経つしさ、一朝一夕で出来るもんじゃないよ。」
「そうだよね。動画で見て独学でやるしかないか。」
女性と子供は隙をついて逃げる練習も必要だ。素早く魔法を発動し、怯ませて屋内に逃げられたら突然の奇襲にも対応できるだろうか。ウルフは多分夜行性だから、夜は家に入ってしっかり扉を閉める様に指示しないと。
「ええ。武器作成イベントクリアしたら今度はこの忙しい時に鶏小屋設置だって。報酬は親鶏2羽。」
佐々木さんが困惑した顔でこちらを振り返る。
「こっちで報酬に有精卵出たからかも。村で自給自足しろって事かな?畑も収穫できるものは収穫した方が良いのかも。」
「あまり急速にイベント進め過ぎたら襲撃早まったりするのかな。」
「困ったな。判断に迷うよね。襲撃の日付が決まっているなら早めに準備して治癒か結界教えたいけど。」
「けど襲撃時期がイベント進捗状況で早まるなら危険だし、どのみちMPが足りないよ。」
「漁村の時は進捗状況依存だったよね。ならこっちの準備が間に合わなくなると困るよ。馬房柵は最後の一個を設置しない方向でいく?」
「とりあえず今日はここまでにして戻って作戦会議する?」
『時期は言えませんがまだ余裕はあります。本日は一度戻って休むべきです。』
「それ教えて良いの?」
『体調メンタル管理も拙者達の役目でござる。特にアオのメンタルが心配でござる。』
「だって、人が死ぬのは嫌なんだ。子供達まで戦う気になってて抑えるの必死なんだよ。」
私も村の人達が死ぬのは嫌だし、子供が戦うのは反対だ。
私達はイベントとかゲームとか思っていたけれど、多分違うんだよね。地球の人達と同じ、ここの人達も生きてる。
「考えを改めないといけないね。私達は人の命を守るんだ。」
「そうだね。僕は勇者だから責任重大だ。」
『ゆっくり信頼関係を築くでござる。村民達の顔を見てみるでござる。』
私達が見渡すと、皆疲れ切った顔をしている。休憩もお昼も無しで働かせていたのだ。私達は体力があるけど、彼らは普通の人間だ。
「ごめん。皆、急ぎ過ぎた。今日はもう休んで。炊き出しをするから準備ができるまで仕事は中止で。」
「ですが大魔導士様。」
「村長、せめて子供だけでも休ませてやってくれ。」
「このままじゃ皆もたない。」
「だが今夜襲撃があったら。」
「神の声で罠が20必要だと言われたんだぞ!」
「罠が20だからって群れとは限らないだろ。」
村民が口々に言う。
村民の中でも意見は割れているみたい。
「今夜は家畜は小屋に。皆は家にこもって戸締りをして。それでいけると思う。とにかく休憩しないと戦えないから。今日は休んで。」
私達は買ったばかりの大豆で味噌を錬成し、猪の肉と村の野菜で豚汁を作って配った。
ようやく村の人達の顔色に少し余裕が出てきた。
焦らず体力を温存しないと。これはきっと一度きりのイベントじゃないんだ。




