【裏話42】脇役からシナリオライターへ。俺達の建国祭
坂本隆二(リュー/香坂流星)
『ねえ、早速範囲攻撃の効果出たみたい。リアタイ盗聴する?それとも後で小説で見る?俺こないだよりめっちゃ進むに一票。』
いや、建国祭中だぜ?莉緒が止めるに一票だな。聞きながらだと国民との交流に支障あるから後でいいや。
俺の正面にみつきが座った。
"上手いこと焚き付けたよね?この高揚感ならビビリでも頑張れるかな?大型イベント中にビビリ克服したら私達の報酬も増えるかも!"
"まあな。でも無理じゃね?莉緒クソ真面目だから。仮にも国王だぜ?"
「仮にもとかww」
みつきは思わず声に出してしまう。安定の大笑いだ。こいつは世の中を斜に構え、全ての人類を馬鹿にして生きるスタイルだ。過去に一体何があったのか。
『リューもあまり変わらないけどね。』
いやいやこのガキと一緒にすんな。
"あんなの仮だよ仮。周りに丸投げしすぎだ。けどお前マジで料理長のままなの?折を見て肩書はもらえよ?"
"なんか、管理職は権限の割に責任と重圧がきついってお客さんが"
"いやここ日本じゃねえから。次南の街だろ?立場の弱いお前が戦争の引き金になりかねない。単独の時攫われたり強引な脅しや引き抜きにあったらお前武力でしか抵抗できないだろ?"
「そっか。分かった。嫌だけど頑張るよ。」
みつきは何となく権力を嫌っているみたいだ。だから莉緒と合うのか?
『さあね。』
「お前も頑張って莉緒の自立までに技能と資格の習得目指せよ。俺大学行ってなくても栄養士取れるか興味あるわ。実務経験無くて調理師取ったんだろ?」
彼女は元は飲食を目指していた訳ではなく、ブティックやスーパー、イベントスタッフなど様々なアルバイトを転々として自分に合う職を探していた時期があった。
それがイベント進捗と恐らくマスターとの親密度を稼いだ結果調理師免許を取得したのだ。
「そう。高校時代のじまんちの仕込みと厨房に週4で6時間入ってた事になってる。でも栄養士は無理じゃないかな。莉緒の自立の時期にもよるけど、年齢的に齟齬が出る。」
「なる程ね。花さんか佐々木道太引き入れでイベント管理能力上がりそうだけど佐々木道太は性格がなあ…。」
「花さんはともかく、佐々木道太は母親とも接触して確認するまで待った方がいいと思うよ?アオの自立が遅れるのは良くないよ。」
「だなあ。ま、国民との交流行こうぜ。国王命令だかんな。」
「はーい。」
俺達は広場に向かって歩き出す。
広場に着くと国民に囲まれて小説家という職業についての質問を受ける。チヤホヤされるのは悪くない。
「なる程!小説家とは吟遊詩人の様なものですか?」
「いやいや、俺は歌は歌えないからな。物語を文字にして残す職業だよ。歌は、みつきが得意だよな?一曲歌ってやれよ。」
「ええ?無茶振りやめてよ。」
俺がスマホから買ってってソングのインストを流した。
「何でこれなのwww」
「え?バニーガールもあるけどどっちにする?」
「その二択何なのw」
ふわりと音響の風魔法が届いた。
振り返るとニヤリと笑う莉緒。
隣にはちょっと不服そうななアオ。
俺達は吹き出す。
「やっぱりねw」
「リューめっちゃ嬉しそうでうけるwww」
乗せられてみつきが壇上に上がり歌い始めた。
「みつきの事ありがとな。リュー。」
「ああ、さっきも説得してたとこ。南の街行くまでに何とかみつきの地位向上しなきゃな。国民からちょうど吟遊詩人の話題が出てさ。お前カラオケセットとか作れない?」
「カラオケセットはスキル得てから触った事ないなあ。」
「今度のじまんちで触らせてもらおうよ!」
いやお前、カラオケボックス代くらい普通に払えよ。どうせなら最新機種が良いわ。
曲が終わり、みつきが自分のスマホでバニーガールが超絶ギターを披露する有名な方の歌を流し、歌い始めた。
ちょwその曲はやめろwww
「私も歌おうかなあ。」
「お前、あれだけはやめとけよ?ww」
「莉緒は天才だってみつきが言ってたよ。物真似が超上手いんだって?」
目を輝かすアオに、俺は曲のタイトルを伝えた。
「しかもまさかの完コピだ。」
俺達は必死で莉緒を止めた。こんな事で国王の威厳が失墜する事はあってはならないのだ。
アオはまだ盗撮に音声は付けられないのか?
『秘匿されています。』
そらそうか。スキル自体が秘匿されてるな?
『まあ当たり前だよね。』
あの日はアオ、異世界に居たから知らなかったのかもな。
ステージに群がる群衆を避け、みつきは空を歩いて俺達のもとにかけてくる。
空を歩くみつきに国民の凄まじい歓声。
彼女は勇者や大魔法使いと同等の事ができると国民に広く知らしめたのだ。
「リュー!」
みつきが俺に満面の笑顔で手を振った。
アオが俺の背中を軽く叩く。
「分かったよ。」
俺はみつきの前に転移して大仰にボウアンドスクレープ。空に浮かぶ俺達は注目の的だ。
俺は、6年間夢見て結局なれなかった主役気分を即席で味わった。
自嘲する。
俺は、今も、これからもずっと脇役だ。
…いや違うな。俺は、この物語の脚本担当だ。
俺が手を差し出すと、彼女は俺の手に自分の左手を乗せた。俺達は国民の目の前から消え、次の瞬間国王莉緒の目の前に現れる。
ボルテージは最高潮。
こういうパフォーマンスは必要だよな。
かくして建国祭は無事終わった。
明日からゴールデンウイーク。
在宅ワークの俺にもニートの莉緒にも関係ない。
それが明ければ防災訓練。
毎月の自治会イベントにやる事盛りだくさん。
異世界でも両村の発展に会場の維持、南の街にダンジョンと課題は山積み。
俺は異世界取材旅行を力の限り楽しむ。
いつだって異世界優先だ。
俺達の利害は一致してる。
指輪は莉緒が持ってる。きっと終わらせる権利は莉緒が持ってるんだ。スルーしたのはアオだって愛陽に聞いたぜ?
なあ、実はお前も同じなんだろ?
俺は莉緒を取り合い擬似恋愛を楽しみながら、上げては落としてなるべくギリギリまで期限を引き延ばす事にするよ。
それが、莉緒が俺にオーダーした脚本だからな。クライアントのご期待に添えるように俺は力を尽くすだけだ。
『リュー、俺はサポートするからね。』
嘘つけwお前もナビの使命があるだろうがww
少しでも長くこの夢を見ていられる様に。
きっと、俺達三人の利害は一致してるんだ。




