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【裏話40】騒音にかき消された囁きと『異世界の担当ではない』俺

坂本隆二(リュー/香坂流星)

俺達は普通にマンション前で落ち合う。

「ほら、莉緒。乗れよ。」

莉緒はヘルメットを受け取るとバイクの後ろに乗り、俺の背中にもたれ手を回し俺を抱きしめる。


バイクは慣れた道を走る。

キラキラと流れる夜の景色。

俺の背中にある莉緒の温もりに幸せと切なさが無い混ぜになり、込み上げる気持ちがつい言葉になって溢れてしまった。

「莉緒、愛してる。」

俺の呟きはバイクの音にかき消される。


許されない恋、こっそり口に出した伝えられない気持ちは騒音にかき消された。伝わらなかった事に落胆しつつも、二人の関係性が壊れなかった事にホッとする。俺達は異世界の為に互いを利用する都合の良い関係なんだ。


そんなドラマみたいな展開に一人高まる。

俺はスピードを上げる。

莉緒は振り落とされまいと抱きしめる腕に力を込めた。俺達はいっそう密着する。

『莉緒 愛情大幅アップ』


「うん。」


…そう聞こえた気がした。

いや、多分気のせいだ。


俺はいつかの様にキャバ嬢にパワハラの愚痴を言った。莉緒はもう泣かなかった。

「私も前に色々あって!」

莉緒は憤慨しながら係長に課せられた時間外労働とパワハラの話をした。


「もう超しつこくて、一人で残業してたら肩とか抱こうとすんの!最悪でしょ?!」

キャバ嬢達はその係長がどんなにクソか世間一般の価値観でこきおろした。


「それはデスクにカメラ仕掛けるべきだったな!証拠撮って病院で診断書貰って内容証明送ってやればふんだくれたのに!!盗撮盗聴はめっちゃ稼げるんだぞ?!」


莉緒はキャバ嬢の胸に顔を埋め、背中をさすられる。ああ、潰れたお胸が尊い。


俺は尊い双丘にうずもれ満ち足りた莉緒の顔を心のアルバムに収めた。

『いや普通に静止画で撮ったって言いなよ!』

いいや言わない。俺は香坂流星だからな。


ちなみに莉緒はドレスにファンデが付かない様にファンデ防止柔らか結界を張る念の入れようだ。化粧品のみを遮断し柔らかな感触は阻まない特別仕様。


ああ、この日彼女は新たなる扉を開いてしまったのだ。


だがこの静止画には一つだけ不満があるぞ。

今着ている服はおそらく莉緒がたった一着だけ持っている一番高価な服。つまり一張羅だ。この意味が分かるだろうか。

まさか自分が贈った服を着て自分の心の扉ではなく百合の扉が開かれようとはアオも予想してはいなかっただろうよ。


俺はどうして初日に、この女の普段の装いと比べ明らかに質のいいこの服を鑑定しなかったのだろうか。ループ中ずっと、この服を着て俺の背中にもたれ俺を抱きしめ、海に行き、高原で手を繋いで星を見たというのかこの女は。


こんな、こんなやり方で強烈な攻撃を放つとは。俺にも服を買えという要求だったのか?!俺は一体どうすれば良かったのか。

なんと、なんと不甲斐ない。俺という男は。


『帰ってきてリュー。正気に戻って。緊急事態発生、緊急事態発生。精神攻撃耐性を貫通して混乱に陥っている。』

『莉緒は現在睡眠中により念話が通じません。夜闇、リューの魔力にアクセスして治癒を発動しましょう。』


「坂本さん。坂本さん。大丈夫ですか?」

「あ、会計、カードで。」

俺はカードを預けた。

「莉緒さん寝ちゃってるんですけど。」

しばらくして戻ってきたヒカリからカードを受け取る。

「すまん。迷惑かけた。ほら、莉緒、いくぞ。」

「はーい。」

珍しく聞き分け良く俺の肩に捕まって立ち上がる莉緒。だが暫く歩いて力が抜け、地べたに座り込んでしまう。

「莉緒、おい。起きろ。莉緒。」

座り込んで寝てしまったのでおぶる事もできない。こんな所で酔い潰れる下品な女に周囲からの嘲り。


「ほら、莉緒、俺の首に手回せ。」

「んー。」


俺は軽々と莉緒を抱き上げた。

所謂お姫様抱っこだ。

莉緒に向けられたのはキャバ嬢達の羨望の眼差し。俺に向けられたのは、客達の怨嗟の視線。


上がった身体能力のお陰で全く重さは感じない。体幹は一切ぶれず、背筋を伸ばし彼女を抱く俺の横に付き従い、ドアの前で立ち止まるユリは乙女のような顔。

扉を開けてくれたユリに俺は微笑んだ。


「今度こいつの元カレも連れてくるわ。こいつが今着てる服を親のカードで買ったクズ男。その時はこの酷い茶番を暴露して力の限り笑ってやってくれ。」


俺は言い捨てて店を出た。ユリのあの唖然とした顔。

「お前の計画はちゃんと粉々にぶち壊してやったぞ。」

俺はタクシーに乗り込む。転移しなかったのは、莉緒の温もりが心地よかったからだ。

俺の膝に眠る莉緒の髪を撫でながら、俺は幸せに浸る。10分程度適当に走ってもらい、マンションからかなり離れた場所で降り、路地裏で透明化してからはじまりの部屋に。

リビングは相変わらず電気は消えていて、俺はわざとらしくゆっくり階段を登った。


お前の服を身に纏っていても、抱いているのは俺なのだ。そう示す為に。


俺は莉緒をベッドに横たえ、おでこにかかる髪を避けた。遠隔魔法で電気を消す。少しくらい許されるよな。今日は地球イベントだったんだから。

俺は額にキスしようとして、やっぱりやめた。

異世界の担当は俺じゃない。ただでさえアオのテリトリーであるこの家のリビングで毎日好き勝手してしまったのだ。これ以上はいけない。俺はファンデのついた胸と太ももにクリーンをかけた。アオへの配慮だ。


「おやすみ。莉緒。」


俺はリビングに戻り、一度二人とリセットする。

「ウイスキー検定、メイキング取れなかったわ。一級止まり。残念。その代わりスピリッツ検定3級と、食品衛生責任者、三口ビールサーバーと、生ビール、ハイボール、酎ハイの樽が出た。建国祭に使うには数が足りないな。」


「リュー大丈夫?」

みつきがちょっと心配そうに俺の顔色を伺う。

「ちょっと寝るわ。飲み過ぎた。」

「ああ。リュー、おやすみ。」

アオは複雑な顔。先に電気消した事で疑われたかな。


割り当てられた自室に戻って、小説を確認した。サーバーも樽も別日の報酬だ。実は今日報酬により小説スキル機能がアップしたのだ。


確認すると、視点変更可能と書かれており、一人称と、三人称(神客観視点)、脚本が選べる様になっていた。


三人称客観視点も脚本でも、気のせいなどではなく、確かに俺の告白に莉緒は返事をしていたのだ。あの状況で何故聞こえた。

『身体能力が向上しているからだよ。油断したね。ちなみに、関屋家に送り届けた時の告白も確認してみ。』


なんと、親に挨拶すると言った時も、ガチで告白した時も、莉緒は寝てなんかなかった。たった今部屋に連れて行った時もだ。


俺はとんでもない能力を手に入れてしまった。


神客観視点では、心理描写などは無く淡々と事実を確認できるが実際に小説として書くには難易度が高い。

どうやって読者に心情を読ませるかが難しいのだ。


小説スキルは作者のライティング技能に依存する。神客観視点は、俺の書き慣れない視点でかなり拙い。これでは素人だ。

彼女がどういうつもりで寝たふりをしていたのか、警戒していつでも結界を張れる様に研ぎ澄ませていたのか、何かあるのを期待していたのか、これでは全く分からないのだ。


唯一読み取れそうなのはバイクの時だ。私もではなく、うんと言った事。だが彼女は受け入れられない事実に返事はしない。


小説スキル三人称神客観視点でそこに居ない登場人物の行動を知る事は可能?

『現在不可能』

熟練度により習得可能?リアルタイムで確認する事は可能?

『熟練度で習得はできる。リアルタイムは無理。今やってる様に一度閉じてシーンごと書き上がった小説を見直す形になる。』

スキル進化は熟練度のみではなく、絆やイベント進捗に密接に関わってる?

『権限がありません。』


俺は小説を複製した。俺の主観で事実が曲げられることはあってはならないからだ。

俺は客観的事実と一人称視点での読心と俺の心理描写を見ながら早速複製の添削を始めた。

この能力を使って、俺自身の小説の技能を上げていける。俺はまだ、成長できる。

目指すは、三人称神視点で千里眼に代わる能力の習得。そして、三人称一元視点の習得。

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