【裏話26】マイナス一点の笑顔と、拒絶された抱擁
坂本隆二(リュー/香坂流星)
最初は普通にコースを回り道順を覚えさせる。簡単な事をさせて運転に慣れさせる。
ある程度慣れたら次は失敗しても叱られないと印象付ける。彼女が苦手なクランクだ。
「萎縮すんな。むしろどんどんぶつけて乗り上げろ。」
「ちょw意味わかんないww」
最初は指示してやり方を教え、成功させておく。
だがこの子はなまじ優秀な上に苦手な事は避けるタイプだから、多分失敗に対して弱い。運転中にパニックにならない為にもここで一度失敗させておきたい。
「次は指示しないから。」
そう言って顔を見ると蒼白なのである。重症だな。
「こら、その緊張顔ブサイクだからやめる様に。マイナス一点ね。」
「何それww顔で減点されるの?ww」
「むしろ一番重要だろ?ww」
彼女が萎縮する度に笑わせて何とか運転させる。
「大丈夫大丈夫。バックの練習できてちょうど良いし。」
何度失敗しても乗り上げても安心させてやる。好感度告知なんてなくても分かってしまう。けどそれは顔に出さない様に素知らぬ顔だ。
くそ、地味に削られる。
とにかく笑わせて和ませる。失敗しても笑って流せ。
「でも顔芸したからマイナス一点ね。」
「顔芸とかww」
無理して笑う彼女が痛々しすぎて抱きしめたくなるのを必死で堪える。
苦手なクランクを先にクリアできたから次はS字。
「今度俺指示しないから、自分でやってみ?」
「うう。分かったよ。」
「はい顔マイナス一点。」
「ちょっとw」
よし、一発クリア。俺は大袈裟に褒めてやる事で連続して成功する。
「よしよし。いいぞ。慣れて来た。じゃあちょっとバックとUターンの練習したら2周回ってその後坂道な。」
雑談しながらコースを回る。さながらドライブデートだ。段々余裕が出てきてふわりと笑う莉緒に安堵。
「お前は頑張り屋さんだな。」
「へへ。」
思わず頭を撫でてやりたくなる。おっと調子に乗るな俺。これはイベントクリアの為の接待だ。
だが坂道ではパニックになった。
「わ、わー。下がる!怖い!」
後続車は居ない。自分でブレーキを踏ませる癖を付けないと。
「大丈夫大丈夫。ブレーキ踏んで。」
苛立つな俺。決して叱らない、この子は叱ると逆効果なのだ。なるべく穏やかな声で。
「下がったらすぐブレーキね。失敗した時被害を抑えるのも大事だから、その練習しとこうか。」
「分かった。」
よし。何とか持ち直した。
何度もさせる意味を正しく理解している。
必要だと理解できれば前向きになれるのがこの子のいい所だ。
「クラッチはできてる。アクセルは強めね。」
指示は具体的に。
そして適度に自信を付けてやる。
「な。慣れたらできるだろ?心配すんな。お前坂道以外で俺にブレーキ踏ませてねーから。」
「ありがとう。めっちゃわかりやすかった。」
お前の気持ちが手に取るように分かってしまう。俺だって同じなんだ。けどこれはまやかし。リーダーアオの理不尽な指示による過剰なストレス下での共同作業。つまりただの吊り橋効果。これは時間と共に冷める感情だ。
「よしよし。あとはアオにイベント手伝ってもらえ。今夜は優しくしてもらえよ?」
莉緒の顔芸による好き好き攻撃に俺はあえて下ネタで応戦だ。
「ちょww変な言い方しないでwww」
爆笑する莉緒は真っ赤だ。
『報酬 教習所接待で耐え忍べ 大型二輪免許 大型二輪運転技能』
いやいらねえ!俺サイクリスト!!
だがこのイベントが超難易度だというのは報酬で理解した。あとは託すぞアオ!健闘を祈る!
キッチンカーイベントが出た。
「計画書は三人名義のイベントだし、レシピが彼女任せだから声かけてみよう。」
「私達はメシマズコンビだからね。」
メシマズコンビとか言われても嬉しくねーよ。俺は小説家だけど、家事手伝いがメシマズは実際どうなのよ。
「いや、一緒に住んでて飯どころか親の弁当まで全部アオに任せてるとかびっくりだわ。嫁として大丈夫なのそれ?そこを何とかしろってイベントじゃね?」
今度は俺から突き放し攻撃を放つ。
「夫婦には色んな形があると思うんだけどね。愛があれば嫁がメシマズでも大丈夫でしょ。」
カウンターを放ってくる莉緒。
ようやくいつも通りだ。
莉緒のやり方は実に勉強になるぞ。




