第11話 借り作らないマン佐々木。クリーンバレ危機一髪
さて、昼食は炊き立てカレーチキンピラフである。
家には米と玉ねぎと鶏肉と卵しかない。オートミールと超迷ったけどね、米にした。オートミール、調理にかかる時間効率はめっちゃ良くて割と安いんだ。
『ご飯だと、家の材料でできますものね。そっちの方が出費は少ないですね』
いやその考え方どうなの?この世知辛い世の中で親に寄生してるんだよ?
世間様がなんていうか。
『世間からの目について考えている様で何よりです』
ちょっと、棘があるよ?!
『食事とウォーキングを兼ねてみてはどうでしょうか』
あ、今露骨に意見逸らした?
言われた通りタッパーに入れて公園で食べようか考える。食べた分だけ歩く作戦である。昼間ならカリクには会うまいて。
『食べ多分だけ歩くと基礎代謝分マイナスになります』
ああいえばこういう。
「ふっふー。おいしそー」
炊飯器の米を起こしているとインターホンが。
モニターには何か箱を持った佐々木さん。
「うぇー。まじか」
出ると菓子折りと封筒を渡してくる。
「これ、先日のお詫びとクリーニング代です」
「ええ。あの、じゃあこっちのお菓子の方だけ頂きます。こっちは受け取れませんので。ごめんなさい」
「でも怪我してましたよね?手のひら」
佐々木氏は食い下がる。絶対に借り作らないマンだこいつ。
「え?見間違いじゃないの?」
私は手のひらを見せると佐々木さんは目を見開いた。
ちょ、まさかチートがバレてるとかないよね?
「ええ?!嘘だあ!何それ!」
彼はそう言いながら怪訝そうに私の手のひらを見る。
「何だかなあ。腑に落ちないんですよ。色々と」
今はもう治ってうっすらと跡になっているだけの場所を疑り深く食い入る様に見つめているのだ。
この人よく見てるな。怪我なんか私自分でも気付かなかったよ?なんせ私はHP8000もあるのだ。
「他に何か気になる事が?」
「これは関係無いかもですけど。カリクの口臭が急になくなりまして」
ううむ。クリーン使ったのはまずかったか。
誤魔化さないと。
「それはあれですね。美しすぎる私の顔を舐めたから浄化されたんですよ」
すると佐々木さんは天真爛漫な笑顔を見せた。
「ブフッ!何それやばい。面白い人ですね関屋さん」
お。ウケた。
これがこのマンションのアイドルたる佐々木蒼太氏の顔面破壊力。
これはやさぐれ感漂うニートの私とは対極をなす生粋の無邪気マン……に見える。ああその守りたい笑顔。庇護欲さえ沸くぞ!
さすがマダムのアイドル佐々木氏。完璧である!これからもマンション住人の夢を壊さぬ様に頑張ってくれたまえ。
『一体何の評論ですか』
ツッコミありがとう。いつ入るのかなって待ってた。
この人思ったより楽しい人かも?だがお腹がすいたのでそろそろ帰っていただきたい。
「実は今日ご飯が美味しくできてご機嫌なんです」
「そうですか。カレーの良い香り。ご飯時にすみません。帰りますね。では」
おお。強引な人かと思ったら気遣いもできる人だった。
佐々木さんは帰ろうとしながらも、部屋に目を向けた。
「どうしました?」
「いや、ちゃんとしてるなと思って」
おお。評価された!
佐々木さんは、感心した様な直で部屋を見まわすとフローリングに視線を落として言った。
「すごく片付いて、この床なんてピカピカじゃないですか。隅の埃一つない」
やばい!自己肯定感上がるんですけど!!
「あ、はい。あの、意外でした?」
「ふふ。噂はアテになりませんね。それにしても、この状態を保つのはすごいですよ。感心しました」
佐々木さんは優しげに目を細めて穏やかに微笑んだ。この人こんな顔もするんだ…。まるで私の小さな進歩を理解してくれた様で、何だか胸の奥がじんわりあったかくなった。
「あ、ありがとう」
私の声に、佐々木さんはいつもの人懐っこいひまわり笑顔を浮かべた。
「では、また近いうちに」
佐々木さんは今度こそ帰ろうと背を向ける。
「お気遣いありがとうございます」
初めて他人に褒められた……
玄関のドアが閉まり静寂が戻る。
私は、閉まったドアを見つめたまま、しばらくその場から動けずにいた。
『報酬 イベント菓子折り 佐々木蒼太好感度大幅アップ ご近所付き合い技能極小』
いや大幅アップってなんだ!
『このイベント中に好感度が3度上がりました。タイミング的に理由は不思議な人だから、面白い人だから、帰らせ方がスマートだからといったところですかね』
いやそういう意味じゃねーわ。分かって言ってんだろこのやろが。この感動を返せくそが!




