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第六章 デボン紀の終焉

 潜水艇の時計の針が突然、カチカチと音を立てながら高速で回り始めた。分針、時針、日付、そして年表示が、まるで渦を巻くように暴走し、時の流れが急激に加速していく。

「また時空が……?」

 そーすけは操縦席にしがみつきながら、潜水艇の窓の外を見た。そこでは、まるで何億年もの出来事を数分で再生しているかのように、世界が目まぐるしく変化していた。まるで国立科学博物館で見た地球史ナビゲーターのようだった。

 まず海底が膨らみ、亀裂が走る。その裂け目から、黒い煙が激しく噴き上がった。大規模な火山活動の始まりだった。地殻の奥深くから噴き出したガスは、水中を通り抜けて大気へと達し、やがて空高く舞い上がっていく。

 ガスに含まれる二酸化硫黄が空中で化学反応を起こし、硫酸エアロゾルの雲へと変化していった。空は徐々に曇り、地表に届く太陽の光が弱まっていく。

 そーすけは、その過程をじっと見ていた。最初は明るかった海面が、だんだんと薄暗くなり、ついには夜のように青白く光るだけになる。陸上では、太陽の光を失った植物たちが次々と枯れていった。小さな草から、高木にいたるまで、緑は褐色に変わり、次々と地面へと崩れていく。

「光を失った植物が……死んでいく……」

 そーすけの声は呟きに近かった。

 植物を失った陸地では、草食動物たちが餓え始め、その死骸があちこちに転がるようになる。肉食動物もまた、獲物を得られずに数を減らしていった。草原だった場所は荒れ、森だった場所はただの土の広がりになった。

 やがて、その影響は海にも及んだ。植生の崩壊によって守るものを失った土壌が、大雨や風によって大量に海へと流れ出していく。

 川は泥を含み、かつて透明だった海は茶色く濁っていく。そこに棲んでいた魚たち、甲殻類、軟体動物たちは、新たな環境に適応できず、ひとつ、またひとつと姿を消していった。

 あのゲムエンディナも、クラドセラケも、次第に姿を見せなくなった。みるみるうちに数を減らし、やがて完全にいなくなった。そーすけの目の前で、生態系が崩れていく過程が、あまりに早く、そして確実に進行していた。

「こんなふうに……時代って終わっていくんだ……」

 海底は静まり返っていた。あれほど命に満ちていた海が、今や濁った水と、ところどころに転がる白骨のような遺骸しかない。潜水艇の周囲には、動くものは何もいなかった。

 時計の針が、ゆっくりとその回転を止めた。時間の暴走が終わると同時に、そーすけの心にも、言い知れぬ静けさが広がった。彼は、ひとつの時代の終りを、確かにこの目で見届けたのだった。


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