第一章 海底探検の始まり
そーすけは海が大好きな小学三年生。ある日、お父さんがピカピカのダイビングスーツをくれた。青と白のかっこいいスーツだ。それを着て、秘密の潜水艇に乗り込む。今日はついに、海の底まで探検するのだ。
潜水艇がゆっくりと海へ沈んでいく。水面のきらめきが遠ざかり、あたりは静かになった。青く透き通った世界の中を、小さな魚たちが群れをなして泳いでいる。色とりどりのサンゴが岩にしがみつき、ゆらゆらと揺れていた。
やがて、水の色が少しずつ暗くなってくる。海の奥深くへ進むにつれて、魚の姿も減っていった。ふと、ふわふわと漂うものが目に入る。
それは巨大なパシフィックシーネットルというクラゲだった。半透明のオレンジ色の傘がぼんやりと光り、長い触手をゆらめかせながら優雅に漂っている。傘のふちには白い筋が入り、細長い口腕が波にゆれるたびに柔らかく広がる。まるで空に浮かぶ月のように、静かで神秘的な姿だった。
そーすけは息をのむ。クラゲの淡い光が潜水艇の窓を照らし、影をゆらゆらと揺らしていた。その光景に見とれながらも、そーすけはさらに深くへ進むことにした。 そーすけは息をのむ。クラゲの淡い光が潜水艇の窓を照らし、影をゆらゆらと揺らしていた。その光景に見とれながらも、そーすけはさらに深くへ進むことにした。
しばらくすると、黒い影がぼんやりと見えてきた。最初は岩かと思ったが、よく見ると何かがうごめいている。じっと目をこらすと、暗闇の中から二つの黄色い目が光った。 しばらくすると、黒い影がぼんやりと見えてきた。最初は岩かと思ったが、よく見ると何かがうごめいている。じっと目をこらすと、暗闇の中から二つの黄色い目が光った。
突然、大きな触腕がゆっくりと動き、砂を巻き上げる。巨大なダイオウイカが、岩の隙間からその姿を現したのだった。 突然、大きな触腕がゆっくりと動き、砂を巻き上げる。巨大なダイオウイカが、岩の隙間からその姿を現したのだった。
そーすけの心臓がどきんと跳ねる。ダイオウイカは長い触腕をくねらせながら、じっとこちらを見つめていた。暗闇に浮かぶその姿は、まるで深海の王様のようだった。 そーすけの心臓がどきんと跳ねる。ダイオウイカは長い触腕をくねらせながら、じっとこちらを見つめていた。暗闇に浮かぶその姿は、まるで深海の王様のようだった。
すると、ダイオウイカがゆっくりと動き出した。まるで何かを示すように、闇の奥へと向かっていく。そーすけはごくりと唾をのみ、慎重に潜水艇を進めた。次第にダイオウイカの大きな体がゆっくりと闇に溶け込んでいく。その先には、さらに深い世界が広がっていた。 すると、ダイオウイカがゆっくりと動き出した。まるで何かを示すように、闇の奥へと向かっていく。そーすけはごくりと唾をのみ、慎重に潜水艇を進めた。次第にダイオウイカの大きな体がゆっくりと闇に溶け込んでいく。その先には、さらに深い世界が広がっていた。
ふとライトを照らすと、海底にはまるで雪のように白い沈殿物が積もっていた。そこに奇妙な形をした生き物がうごめいている。
目の前を、ゆっくりとデメニギスが横切った。透明な頭の中に、緑色の眼が二つ浮かんでいるように見える。まるで宇宙人のようなその姿に、そーすけは息をのんだ。デメニギスはふわりと漂いながら、じっとこちらを見ているようだった。
さらに進むと、海底の砂の上でうごめく奇妙な生き物が見えた。体が細長く、まるで大きなミミズのようだ。そーすけはそれが何なのかすぐにわかった。ユメナマコだ。深海にすむナマコの仲間で、体がゼリーのように透き通っている。ゆっくりと体をうねらせ、海底の泥を吸い込みながら移動している。
そーすけは図鑑でしか見ることのできない本物を目にしてとてもワクワクした。
そのとき、視界の端で何かが光った。さっとライトを向けると、暗闇の中でまるで星のように輝くものがあった。
そこにいたのはオオグチボヤ。まるで大きな袋のような形をした生き物で、じっと口を開けたまま待ち伏せしている。小さなプランクトンが近づくと、一瞬で口を閉じて捕まえるのだ。
そーすけは潜水艇の窓に顔を近づけた。
そのとき、突然、視界が真っ暗になった。何か巨大な影がライトの光をさえぎったのだ。
そーすけはハッとしてライトを上に向けた。すると、ゆっくりとした動きで巨大な生き物が通り過ぎていくのが見えた。
そーすけはすぐにフウセンウナギだとわかった。まるで風船のように大きくふくらむ口を持つ奇妙な形をしているからだ。細長い体をくねらせながら、深海の闇の中をゆっくりと進んでいく。その姿はまるで幽霊のようだった
そーすけはその美しさに見とれた。しかし、その奥に何か別のものが見えた。海底に、巨大な何かが沈んでいる。
そーすけは潜水艇をそっと近づけた。そして、それが何なのかを見た瞬間、思わず声を上げそうになった。
そこにあったのは、朽ち果てた沈没船だった――。
そーすけは沈没船の前で息をのんだ。船体は長い年月を経てボロボロになり、あちこちに大きな穴が開いている。船の外壁にはカイメンやコケムシがびっしりと張り付き、まるで海の生き物に飲み込まれたようだった。
そっとライトを向けると、船の入口らしき隙間が見えた。そーすけは慎重に潜水艇を操作し、その穴の中へと進んだ。
船内は薄暗く、壁や床には泥が積もっている。だが、そこには意外にも多くの生き物たちが潜んでいた。
突然、何かが素早く動いた。そーすけはライトを向ける。そこにいたのはオオグソクムシだ。鎧のような硬い殻を持ち、まるで巨大なダンゴムシのような姿をしている。群れになって沈没船の床を這いまわり、何かをむさぼり食っているようだった。
そのとき、暗闇からヌッと長い触手が伸びてきた。タコブネだ。紙のように薄い貝殻を背負いながら、優雅に触腕を動かしている。ゆらゆらと舞う触腕がオオグソクムシの一匹を素早く絡め取った。
バシャッ!
突然、大きな影が横切る。そーすけが驚いて目をこらすと、壁の隙間からラブカが飛び出してきた!ラブカは古代のサメの生き残りともいわれる深海ザメで、長いウナギのような体をくねらせながらタコブネに向かって突進した。
タコブネはオオグソクムシに絡めた触腕をふりほどき、素早く後退する。しかし、ラブカの鋭い歯がその貝殻に食らいついた。
次の瞬間、沈没船の奥からさらに巨大な影が動いた。
ぬらりとした黒い体、大きく裂けた口。そーすけはすぐにそれが何かわかった。
オニイソメだ。
海底に生息する多毛類で、暗闇の中で獲物を待ち伏せする恐ろしい捕食者だ。その口がガバッと開き、ラブカごとタコブネを飲み込もうとした。
その瞬間、オオグソクムシの群れが一斉に散らばる。泥が舞い上がり、視界が一気に悪くなった。
「す、すごい……!」
そーすけは思わず声をもらした。こんな壮絶な生き物たちの戦いは、誰も見たことがないだろう。
だが、戦いの最中、さらに恐ろしい影が忍び寄っていた――。
泥が舞い上がる沈没船の中、そーすけは潜水艇の操縦桿をぎゅっと握りしめた。小さな生き物たちが逃げ惑う中、さらに恐ろしい影が海の闇から姿を現した。
巨大なシーラカンスがゆっくりと沈没船に向かってやってきた。その姿は、まるで怪獣のようだった。
普通のシーラカンスはせいぜい2メートルほどだが、目の前の個体はその倍以上の大きさがあった。分厚いウロコが鎧のように体を覆い、太いヒレをゆっくりと動かしながら、沈没船の上に君臨する。その瞳は、何百万年もの時を生き抜いてきた者のように冷たく光っていた。
それと同時に、沈没船の奥からもう一つの影が現れる。ダイオウホウズキイカだ。
ダイオウホウズキイカは長い触腕を沈没船の柱に巻き付け、ぬるりと体を押し出すようにして現れた。イカの仲間では最大級のこの生き物は、恐ろしいほど鋭いカギ爪を持ち、深海の覇者として知られている。
沈没船の上で、二体の巨大生物が向かい合った。 沈没船の上で、二体の巨大生物が向かい合った。
最初に動いたのはシーラカンスだった。分厚いヒレを力強く動かし、一気にホウズキイカへ突進する。その巨体が泥を巻き上げ、水圧の衝撃で船の外壁が崩れ落ちた。
しかし、ホウズキイカは動じない。素早く長い触腕を伸ばし、シーラカンスの胴に絡みつけた。
「うわ……!」
そーすけは目を見開いた。
シーラカンスが激しく身をよじる。だが、ホウズキイカの触腕はガッチリと絡みつき、鋭いカギ爪がシーラカンスのウロコを削っていく。
しかし、シーラカンスも負けてはいなかった。強靭なアゴを大きく開き、ホウズキイカの胴にかみつく。
鋭い歯がイカの厚い皮膚を突き破り、黒い体液が海中に広がる。ホウズキイカは苦しそうに身をくねらせるが、すぐにシーラカンスのエラの付近に触腕を絡ませ、カギ爪で深くえぐる。
どちらも一歩も引かない。深海の覇権をかけた壮絶な戦いが続く。
そのとき、沈没船の壁が完全に崩れ、船体が大きく傾いた。
「や、やばい!」
そーすけは潜水艇のスラスターを全開まで吹かし、急いで船の外へと脱出した。
その瞬間、沈没船の上でシーラカンスとホウズキイカの体が激しくぶつかり合った。水中に衝撃波が走り、泥と瓦礫が舞い上がる。
沈没船が崩れ落ちる中、シーラカンスとホウズキイカの戦いは続いていた。ホウズキイカの長い触腕がシーラカンスのエラに絡みつき、鋭いカギ爪がウロコの隙間に食い込む。シーラカンスは体を激しく振り回しながら、強靭なアゴで触腕に噛みついた。
まるで木の枝が折れるような音が響く。ホウズキイカの触腕の一部がシーラカンスの歯で裂け、黒い体液が海中に広がった。だが、ホウズキイカは怯まない。残った触腕でシーラカンスの体を締め上げる。
その瞬間、沈没船の底が大きく崩れ、長年海底に埋もれていた空間が現れた。その奥で、不気味な光が揺らめいている。まるで水の中に開いた穴のように、ぽっかりとした暗闇が広がっていた。
突如、その穴が大きく開き、強烈な渦を生み出した。そーすけの乗る潜水艇は、逃れる間もなく強大な力に引き込まれていく。
「うわぁぁぁぁ!」
目の前が白く光り、次の瞬間、潜水艇は見たこともない場所へと投げ出されていた。水は今までとは違い、どこまでも透き通っている。海底には見慣れぬ奇妙な生き物たちがうごめいていた。
「ここはどこだ……?」
目の前を泳ぐのは、扇のようなヒレを持つアノマロカリスだった。鋭い前肢を素早く動かしながら、小さな獲物を捕らえている。そーすけは息をのんだ。そのすぐ下の砂地では、まるで三日月のような形のオパビニアが、五つの目をキョロキョロと動かしながら歩いている。頭から伸びる長い吻で砂の中を探っていた。
「すごい……カンブリア紀の生き物だ!」
巨大な時空の渦に飲み込まれたそーすけは、なんと五億年以上も過去、カンブリア紀の海にタイムスリップしていたのだった。




